「現場で漏電ブレーカーが落ちた! どうしよう!?」「絶縁抵抗計(メガー)を持って走れ!」
電気に関わる仕事をしていると、必ず遭遇するのが「漏電(地絡)」のトラブルです。でも、そもそも「漏電遮断器(ELCB)」は、どうやって漏電を見つけているのでしょうか?
今回は、現場で数々のトラブルシューティングを行ってきた現役設計者が、電気設計の基礎中の基礎でありながら意外と説明できない「漏電遮断器の仕組み(ZCT)」と、なぜ「アース(接地)」がないと危険なのかを解説します。
結論から言うと、ELCBは「行きと帰りの差」を検知しますが、アース線がないと「あなたが感電するまで」作動しない仕組みなのです。
……ですが、ELCBとアースがあれば100%安全かというと、そうではありません。 実は、たった「30mA(0.03A)」という微弱な電流でも、人間の心臓は止まる可能性があるのです。
漏電遮断器の仕組み:「行き」と「帰り」を監視せよ
漏電遮断器(ELCB)の仕組みは、実はめちゃくちゃシンプルです。
「キルヒホッフの第1法則」という難しい言葉を、小学生でも分かるように言い換えるとこうなります。
「入った電流と、出ていく電流は、同じはずである」
ホースの水漏れで考えよう
水を送るホースを想像してください。
- 行き: 蛇口から 10リットル の水を出しました。
- 帰り: ホースの出口から 10リットル の水が出てきました。→ 正常です。漏れはありません。
もし、ホースの途中に穴が空いていたらどうなるでしょう?
- 行き: 蛇口から 10リットル の水を出しました。
- 帰り: 出口からは 9.97リットル しか出てきませんでした。→ 異常(漏電)です!消えた 0.03リットル(30mL) は、どこか別の場所(地面など)に漏れています。
これをやっているのが「ZCT」
漏電遮断器の中には、ZCT(零相変流器)というリング状のセンサーが入っています。
これが行き(L)と帰り(N)の電線をまとめて掴み、「行きと帰りの差(=漏れ)」だけを常に見張っています。
その差が設定値(例:30mA)を超えた瞬間、「漏れてるぞ!」とバチンと回路を遮断します。これがELCBの正体です。

なぜ「アース(接地)」が必要なのか?
「漏電遮断器があれば、漏電しても勝手に切れるから安全でしょ?」
そう思うかもしれませんが、実はアース(接地線)が繋がっていないと、漏電遮断器は本領を発揮できません。
アースがないと「人間がスイッチ」になる
洗濯機を例にしましょう。もしアース線を繋がずに、内部で漏電していたらどうなるか。
- 内部の電線が切れ、洗濯機の金属ケース(筐体)に触れる。
- 電気は金属ケースに溜まるが、逃げ道がない(地面に流れない)。
- 「行き」と「帰り」の電流差はゼロのまま。(電気はどこにも流れていないから)。
- 漏電遮断器は「ヨシ! 正常!」と判断して電気を流し続ける。
- そこへあなたが触れる。
- 電気はあなたの体を通って地面へ流れる。
- ここで初めて差が生まれ、ブレーカーが落ちる。
つまり、「あなたが感電して初めてブレーカーが落ちる」ということです。これでは遅いですよね。
アースがあると「瞬時に」切れる
アース線が繋がっていれば、こうなります。
- 内部で漏電し、金属ケースに電気が触れる。
- 電気はアース線を通って地面へドバっと流れる。
- 漏電遮断器が「差が生まれた! 危険!」と検知して、0.1秒以内に遮断する。
- あなたが触る頃には、もう電気は止まっている。
これが、洗濯機や制御盤に「アース線」を繋がなければならない本当の理由です。
(※ちなみに現場では、この300V以下の機器へのアースのことを、専門用語で「D種接地(ディーシュ)」と呼びます。先輩に「D種とったか?」と聞かれたら、「アース繋ぎましたか?」という意味です!)

なぜ「30mA」なのか? 「安全限界」
一般的な漏電遮断器の感度は「30mA」ですが、なぜこの数値なのでしょうか?
電流の大きさと人体の反応(目安)
人間が電気に触れた時の反応は、流れる電流の大きさ(mA)で決まります。
| 電流の大きさ | 症状 | 危険度 |
| 1 mA | ビリッと感じる(感知電流) | 注意 |
| 5 mA | 痛みを伴う電撃 | 警告 |
| 10〜20 mA | 【魔の領域】筋肉が固まり、自力で離れられなくなる(離脱電流) | 危険 |
| 30 mA | 呼吸困難、心室細動(心臓が痙攣する)の可能性 | 極めて危険 |
| 50 mA〜 | 短時間でも心停止に至る可能性が高い | 致命的 |
そう、わずか 30mA(0.03A) で、人間の心臓は止まる可能性があるのです。だからこそ、漏電遮断器はこの「デッドライン」である30mAを超えないように設計されています。
なぜ「30mA」で助かるのか? 秘密は「0.1秒」
感電の危険度は、以下の掛け算で決まります。 危険度 = 電流の大きさ × 流れている時間
- 30mA × 1秒間 = 心臓が痙攣(けいれん)する可能性が高い(危険)
- 30mA × 0.1秒間 = ビリッと来るが、心臓は止まらない(生存)
日本の一般的な高速形漏電遮断器は、定格感度電流(30mA)が流れた時、「0.1秒以内」に遮断するようにJIS規格で決められています。 (実際の商品はもっと優秀で、0.03秒くらいで切れるものが大半です)
つまり、「心臓が止まる前に、電気を断ち切る」ギリギリのラインが30mAなのです。
なぜ「1mA」にしないのか?
「じゃあ、もっと安全に1mAとかにすればいいのでは?」と思いますよね? それをすると、工場が止まります。
- 常時漏れ電流: モーターやインバータ、パソコンの電源フィルタからは、故障していなくてもごく微量な電気(漏れ電流)が常にアースへ流れています。
- 誤動作の嵐: 感度を上げすぎると、機械を動かした瞬間のノイズだけでブレーカーが落ちてしまい、仕事になりません。
「人間は死なないギリギリのライン」かつ「機械が誤動作しないライン」。 この絶妙な妥協点が「30mA」なのです。
設計者としての「正解」は?
あなたが設計者として「30mAでも怖い」と感じるなら、以下の2つの手を打つのがプロの仕事です。
- 水回りは「15mA」を選定せよ 濡れた手で触る場所や、水中ポンプなどは、人体の抵抗値が下がって死ぬ確率が上がります。ここでは誤動作覚悟で、高感度な**「15mA(0.1秒以内)」**のブレーカーを選定するのが鉄則です。
- アースを完璧にせよ 記事でも書いた通り、アースさえしっかり繋がっていれば、人間が触れる前にブレーカーが落ちます。これが最強の安全対策です。
まとめ:ELCBとアースは「命を守るタッグ」
- 漏電遮断器(ELCB): 行きと帰りの電流差を見張る「監視員」。
- アース(接地): 漏電した電気を地面に逃がし、監視員に異常を知らせる「通報装置」。
この2つが揃って初めて、私たちは感電事故から守られています。
現場で「アース線外れてるけど、まあ動くからいいか」なんて場面を見かけたら、この記事を思い出してください。それは「安全装置のスイッチを切っている」のと同じことなのです。
次回は、現場で頻発する『インバータでブレーカーが落ちる問題』と、プロの機種選定について解説します!
「漏電ブレーカー」と「アース」の世界(全3回)
このブログでは全3回にわたり「漏電ブレーカー」と「アース」について基礎から実践、海外編を解説をしています。
- 基礎編: 30mAの理由と、アースがないと人間がスイッチになる恐怖。👈今回はココ!
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