「試運転でインバータを回した瞬間、バチン! またブレーカーが落ちた……」 「絶縁抵抗を測っても無限大(∞)。どこも悪くないのに、なぜ?」
FA(工場自動化)の現場で、多くのエンジニアが一度は通る道、それが「インバータによる漏電ブレーカー(ELCB)の不要動作(トリップ)」です。焦った現場では、よくこんな指示が飛び交います。 「とりあえず、感度電流を30mAから100mAに変えとけ!」
結論から言うと、安易に感度を上げるのはNGです。「高調波対応品への交換」と「保護協調(回路分割)」がプロの正解です。
……そう聞いて、「えっ、専用の高いブレーカーを買うの?」と思った方。 実は、一番安い「標準ブレーカー」であっても、最新モデルなら「30mAのまま」誤動作を防げる機能が標準装備されていることをご存知ですか?
なぜ「100mA」や「200mA」の設定があるのか?
前回の【基礎編】で、「人間は30mAで心室細動を起こす危険がある」と解説しました。 「じゃあ、世の中にある100mAや200mA、あるいは500mAの漏電ブレーカーは何のためにあるの? そんなの使ったら危ないんじゃない?」 そう思いますよね。

結論から言うと、100mA以上の設定は「直接、人を守るため」ではありません。 主な目的は、以下の2つです。
① 「全停電」を防ぐ(保護協調)
もし、工場の大元(主幹)も「30mA」、末端の機械も「30mA」だったとします。 末端で漏電が起きた時、運が悪いと大元のブレーカーも一緒に落ちて、工場全体が真っ暗になってしまいます。 これを防ぐために、大元はあえて鈍感(100mAや200mA)にし、時間も少し遅らせて切れるように設定します。 「まずは末端のお前が切れろ、ダメなら俺が切る」という親子の連携プレー(保護協調)のためです。
② 「漏電の足し算」による誤動作を防ぐ
パソコンやインバータ機器は、正常でもわずかに漏電(常時漏洩電流)しています。 1台なら数mAでも、10台、20台と集まると、合計で30mAを超えてしまいます。 大元のブレーカーが30mAだと、「故障してないのに落ちる」というトラブルになるため、やむを得ず設定値を上げます。
【重要】 つまり、人が触れる可能性のある末端の機器には、原則として「30mA」の高感度な漏電遮断器を使わなければなりません。 「よく落ちるから」という理由だけで、末端のブレーカーを100mAにするのは、命綱を切るのと同じ行為なのです。
なぜインバータは「漏れる」のか?
「でも、30mAだと落ちるんだよ!」という現場の悲鳴。犯人はインバータです。 なぜインバータは、正常なのに電気を漏らすのでしょうか?
高速スイッチングによる「高周波」の仕業
インバータやサーボアンプは、モータの速度を変えるために、電気をものすごい速さで「ON/OFF」しています(PWM制御)。
この時、高い周波数(高調波)のノイズが発生します。
電線と地面の間には、目に見えないコンデンサ(静電容量)が存在するため、高周波の電気はそこを通ってアースへダダ漏れします。 これは故障ではなく、物理現象(仕様)です。
古いタイプや汎用の漏電遮断器は、この高周波ノイズを「うわっ、大量に漏電してる!」と勘違いして、トリップさせてしまうのです。

※ここでの「高調波」について
厳密にはインバータのスイッチングによるノイズは「高周波(数kHz~)」に分類されますが、漏電遮断器のカタログや現場用語では、これらを含めて「高調波対応」と呼ぶのが一般的です。本記事でも、カタログ表記に合わせてインバータのスイッチングノイズ対策品を「高調波対応品」と呼称します。
解決策:「mA」を上げる前に「カタログ」を確認せよ!
では、どうすればいいのか? 「感度(mA)を上げて安全性を捨てる」か、「誤動作に耐えながら使う」か? いいえ、第3の選択肢があります。
「高調波・サージ対応形(インバータ対応)」の機能を持ったブレーカーを使うことです。
実は「標準品」でも対応しているかも?
一昔前までは「インバータ専用の高いブレーカー」を買う必要がありました。 しかし、技術は進化しています。 三菱電機の公式FAQによると、「現行漏電遮断器のほとんどが高調波・サージ対応形」となっています。 なんと、一番安価な「経済品(Cクラス)」であっても、今のモデル(WS-Vシリーズ)なら標準で高調波対策がされているのです。
「じゃあ、盤についているこれは大丈夫?」 本体の見た目や、なんとなくの記号だけで判断するのは危険です。
確実な方法はただ一つ。 「型式(形名)をスマホで検索して、メーカー公式の仕様表を見る」ことです。
仕様表の「特長」や「機能」の欄に、「高調波・サージ対応」という文字があるかを確認してください。 もし、20年以上前の古いブレーカーで、この表記がなければ、それが誤動作の犯人である可能性大です。
対策の結論: インバータ盤でブレーカーが落ちる場合、感度電流(mA)をいじる前に、まずは型式を検索してください。 もし古いタイプなら、「現代の標準品」に更新するだけで、30mAのままピタリと誤動作が止まることがよくあります。
賢いフィルター機能
- 人間にとって危険な電気: 商用周波数(50/60Hz)。心臓に直撃します。
- 誤動作の原因(ノイズ): 高周波(数kHz〜)。
対応品は、内部にフィルターを持っており、「インバータ特有の高周波ノイズは無視」し、「人間が感電した時の50/60Hz成分だけ」を検知します。 これなら、インバータ回路であっても「感度30mA」のまま、誤動作(トリップ)を防ぐことができます。
| 比較項目 | 標準型(一般型) | インバータ対応型 |
| 高周波ノイズへの反応 | 敏感に反応してしまう (不要な遮断=誤動作が起きやすい) | 鈍感(無視する) (フィルターで除去するため誤動作しにくい) |
| 危険な漏電(50/60Hz) | 確実に検知して遮断する | 確実に検知して遮断する (安全性能は変わらない) |
| 内部の仕組み | ZCTからの信号をそのまま判定 | ローパスフィルターを通してから判定 |
| 主な用途 | 照明、ヒーター、一般動力など | インバータ制御のモーター、エアコン、溶接機など |

それでも落ちるなら? 最後の切り札「回路分割」
「最新の対応ブレーカーに変えた。それでも30mAで落ちる!」 もしそんな状況なら、それは誤動作(ノイズ)ではありません。「正常な漏れ電流」が許容量を超えている(漏電の足し算)が原因です。
インバータ対応ブレーカーといえど、魔法ではありません。 高周波ノイズはカットできますが、機器が持っている「正常な漏れ電流(50/60Hz分)」までは消せません。 例えば、インバータ1台につき1mA漏れているとしたら、30台繋げば合計30mA。どうあがいてもブレーカーは落ちます。
この場合の解決策は、設計(回路構成)を変えるしかありません。
プロの常識「保護協調(セレクティブ)」とは?
機械がいっぱいあるライン設備では、以下のような「親子の使い分け」をするのが設計のセオリーです。
- 親(メインブレーカー):感度 100mA ~ 200mA
- 役割: 工場全体を火災から守る。
- 設定: あえて感度を鈍くし、動作時間も少し遅らせる(時延形)。
- 狙い: 「ちょっとのことでは俺は落ちない。まずは子供(末端)に任せる」という構えです。
- 子(分岐ブレーカー):感度 30mA
- 役割: 作業者の命を守る(人命保護)。
- 設定: インバータ3~5台ごとに小分けにして設置。
- 狙い: 漏れ電流を分散させて30mA以下に抑える&漏電した箇所だけをピンポイントで遮断する。
「全停電」を防ぐ最強の布陣
もし、メインも30mA、分岐も30mAだとどうなるか? 末端で漏電した瞬間、運が悪いとメインも一緒に落ちてしまい、正常なラインまで全停止(全停電)してしまいます。
「人は30mAで守る(分岐)」 「ライン全体は100mAで守る(メイン)」 この二段構え(保護協調)こそが、安全と稼働率を両立させるプロの設計です。

設計の分かれ道:コストか、稼働率か?
最後に、現場で実際にどう使い分けるべきか、2つのパターンで整理しましょう。
パターンA:小規模・単独装置(コスト優先)
ポンプ盤や単独のコンベアなど、「万が一止まっても、工場全体への影響が少ない」場合です。
- 構成: 主幹 30mA のみ(または分岐も30mA)。
- メリット: ブレーカーの数が減るため、盤が小さく安く作れる。
- デメリット: どこか一箇所でも漏電すると、盤全体が全停電する。
- 適用: 補助設備、単独機、予算が厳しい小規模盤。
パターンB:ライン設備・重要設備(稼働率優先)
自動化ラインや、インバータ・PCを大量に使う「止めてはいけない」設備です。
- 構成: 主幹 100/200mA(親) ➡ 分岐 30mA(子)× 複数。
- メリット:
- 停電範囲の極小化: 漏電した箇所のブレーカー(子)だけが落ち、健全な他の回路は動き続ける。
- 漏れ電流の分散: 子ブレーカーごとにインバータを分散させれば、個々は30mA以下に収められる。
- デメリット: ブレーカーの数が増えるため、コストと盤スペースが必要。
- 適用: メインライン、重要プロセス、高機能な制御盤。
結論: 「とにかく安く」と言われたらAですが、「止まったら困る」「インバータが多い」なら迷わずB(保護協調)を選びましょう。あとで「すぐ落ちるから何とかしろ」と呼ばれて改造するほうが、よほど高くつきますから!
まとめ:技術で解決しよう
- 100mA/200mAは、主に「設備の保護(火災防止・全停電防止)」が目的。人命保護用ではない。
- インバータが落ちるのは、高周波漏れ電流が原因。
- まずは「対応品」か確認: 型式をググって、高調波・サージ対応(標準品でもOK)か確認する。
- ダメなら「回路分割」: 台数が多すぎる場合は、分岐回路を増やして漏れ電流を分散させる。
- メインは「100mA」でOK: 末端(人が触る場所)さえ30mAなら、大元は鈍感にして「全停電」を防ぐのが正解。
「落ちるからとりあえず100mA」ではなく、「まずは対応品か確認。ダメなら回路分割」という手順を踏むのが、プロのエンジニアです。
次回は「そもそも海外の装置には漏電ブレーカーが付いていない!? 日本の常識が通じない理由」について解説します。お楽しみに!
「漏電ブレーカー」と「アース」の世界(全3回)
このブログでは全3回にわたり「漏電ブレーカー」と「アース」について基礎から実践、海外編を解説をしています。
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