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OPC UAの仕組みと工場ネットワークの関係|IoT時代の製造業必須知識

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目次

はじめに

製造業の現場では、スマート工場化やIoT(モノのインターネット)の活用が進んでいます。その中で、「OPC UA」という通信規格が注目を集めています。OPC UAは、IoT時代の工場ネットワークに不可欠な技術です。本記事では、OPC UAの基本概念から工場ネットワークにおける重要性、そして将来の展望まで、製造業に携わる方々にとって有用な情報をわかりやすく解説します。

1.OPC UAとは?製造業のスマート化を支える通信規格の概要

OPC UA(Open Platform Communications Unified Architecture)は、産業用アプリケーションの相互運用を実現するためのオープンなインターフェース仕様です。以下の特徴を持っています。

  • プラットフォーム非依存:Windows、Linux、iOS、Androidなど、様々なOSで動作可能
  • 高い可用性:産業用途に適した機能と性能を提供
  • セキュリティ重視:通信の暗号化やアクセス制御などのセキュリティ機能を標準搭載
  • 拡張性:新しい技術や要件に柔軟に対応可能

2. 工場ネットワークの3層構造とOPC UA

工場内ネットワークは多種多様ですが、その機能と役割によって主に3つの階層に分類されます:「情報系ネットワーク」「コントローラー間ネットワーク」「フィールドネットワーク(フィールドバス)」です。これらの階層は、工場の効率的な運営と制御に不可欠な役割を果たしています。

2.1 情報系ネットワーク

情報系ネットワークは、工場内ネットワークの最上位に位置し、以下のシステムを接続します。

  • ERP(Enterprise Resources Planning):企業の基幹システム
  • MES(Manufacturing Execution System):製造実行システム
  • SCADA(Supervisory Control and Data Acquisition):監視制御システム

このネットワークの主な役割は:

  • 稼働状況や生産実績データの収集
  • 企業の経営情報と生産情報の統合
  • 経営判断支援

情報系ネットワークは、データの抽象度が高く、リアルタイム性よりも情報の正確性と包括性が重視されます。そのため、リアルタイム応答性能や信頼性の要求値は比較的低くなっています。一般的にオフィスネットワークと呼ばれることもあります。

2.2 コントローラー間ネットワーク

コントローラー間ネットワークは、情報系ネットワークの下位に位置し、以下の制御機器を接続します。

  • PLC(Programmable Logic Controller):主にファクトリーオートメーションで使用
  • DCS(Distributed Control System):主にプロセスオートメーションで使用
  • 産業用PC
  • NC(Numerical Control)装置
  • ロボット
  • ビジョンコントローラー
  • マシンビジョンカメラ
  • タッチパネル機器

このネットワークの主な役割は:

  • 生産ラインの制御
  • 情報系ネットワークへのデータ送信
  • コントローラー間の通信による生産ライン全体の制御

コントローラー間ネットワークは、リアルタイム性と高い応答性能が要求されます。これは、生産ラインの効率的な制御と迅速な対応が必要とされるためです。

このネットワークでは、様々な通信規格が採用されています。主なものには以下があります。

  • Ethernet I/P
  • EtherCAT
  • PROFINET
  • Modbus/TCP

情報系ネットワークとコントローラー間ネットワークの接続は、MESなどを介して行われますが、その通信プロトコルはベンダー独自のものが多いのが現状です。

2.3 フィールドネットワーク

フィールドネットワーク(フィールドバス)は、工場内ネットワークの最下層に位置し、センサーやアクチュエータなどの現場機器を直接制御します。このネットワークは、生産現場の最前線でリアルタイムのデータ収集と制御を担当します。

3. OPC UAが注目される5つの理由

工場内ネットワーク、特に「コントローラー間ネットワーク」と「フィールドネットワーク」では、多くの通信プロトコルが乱立しています。さらに、ベンダー独自の通信プロトコルも多く採用されており、工場内機器の制御や情報の一元管理が困難な状況にありました。

OPC UAは、これらの問題を解決し、以下のような利点をもたらします。

3.1 異種環境の統合

OPC UAの最大の特徴は、異なる環境や規格の差を吸収し、共通のプロトコルで接続できる点です。これにより、様々な通信規格の情報をシームレスに扱うことが可能になり、情報の一元管理が容易になります。

3.2 プラットフォーム非依存と拡張性

OPC UAは、プラットフォームに依存しない設計となっています。これにより、マイクロコントローラーからクラウドサービスまで幅広い範囲で利用可能です。また、コントローラー間ネットワークと情報系ネットワークを結ぶ通信技術としても最適な特徴を持っています。

3.3 セキュリティの強化

OPC UAは設計段階からセキュリティを考慮しており、通信の暗号化やアクセス制御などの機能が標準で組み込まれています。これにより、産業用システムのセキュリティ強化に貢献します。

3.4 国際標準規格としての地位

OPC UAは、ドイツの「インダストリー4.0」プロジェクトにおいて推奨通信規格とされ、広く受け入れられています。IEC 62541として国際標準化されており、世界中で採用が進んでいます。

3.5 将来性

欧州向けの工場で使用する産業機器にはOPC UA対応を求める動きが広がっており、2017年には日本の産業機械メーカーも多くの対応製品を販売し始めています。将来的には、OPC UAに対応していない産業機器が市場から淘汰される可能性も考えられます。

OPC UAの前身であるOLE for Process Controlは、Microsoft Windows上で動作する複数アプリケーションをリンクするための仕組みでした。現在のOPC UAは、この制限を取り払い、より柔軟で拡張性の高い規格となっています。

4. OPC UAの主要機能|相互接続性とセキュリティ強化

OPC UAの機能は以下の観点から説明できます。

4.1 相互接続性

OPC UAは、異なるプラットフォームや環境間での接続を可能にします。これは通信スタックという仕組みにより、様々な通信プロトコルやデータ形式に対応できます。

OPC UAの通信スタックは以下の3つの層から構成されています。

  • メッセージ層:OPC UAデータの変換(バイナリ、JSON、XMLエンコーディング)
  • セキュリティ層:アプリケーション間の安全な通信を確保
  • トランスポート層:実際のデータ伝送を処理

OPC UAは、アプリケーションの用途に応じて適切な通信プロトコルの組み合わせ(プロトコルバインディング)を選択できるようにしています。これらの組み合わせは「スタックプロファイル」と呼ばれ、アプリケーション間の相互運用性を確保します。

OPC UAを用いたシステム構成では、各プロファイルに対応したネットワークを用意することで、スケーラブルな接続が可能になります。これにより、工場全体から個々のデバイスまで、統一的な通信プロトコルで管理できます。

4.2 セキュリティ

OPC UAのセキュリティは多層構造になっています。

  • アプリケーション層:ユーザー認証、アクセス制御
  • 通信層:メッセージの暗号化、デジタル署名
  • トランスポート層:セキュアなチャンネルの確立

OPC UAは以下のような主要なセキュリティ機能を提供しています。

  • 認証:アプリケーション認証(電子証明書による)とユーザー認証(ユーザー名/パスワードまたは電子証明書による)⁠⁠​
  • 認可:UAノード単位でのアクセス権限設定、ロールベースの権限設定⁠⁠​
  • 機密性:暗号鍵を用いた通信メッセージの暗号化⁠⁠​
  • 完全性:暗号鍵を用いた通信メッセージの署名、メッセージヘッダの検証⁠​
  • 可監査性:監査証跡用のイベントタイプの規定⁠⁠​
  • 可用性:DOS攻撃対策、過負荷時の処理待機⁠⁠​

セキュリティ機能が標準で組み込まれており、通信の暗号化、認証、アクセス制御などを行います。ITセキュリティ技術との親和性も高く、工場全体のセキュリティポリシーに統合しやすい設計になっています。

4.3 情報モデル

単なるデータ交換だけでなく、データの意味や構造も含めて伝達することができます。これにより、異なるシステム間でも情報の意味を正確に理解し、活用することが可能になります。

5. OPC UAの通信プロトコルとデータモデル

5.1 通信プロトコル

OPC UAは、複数の通信プロトコルをサポートしています。

  • UA TCP:OPC UA独自のバイナリプロトコルで、高速な通信が可能
  • HTTPS:Webベースの通信に適しており、ファイアウォールの通過が容易
  • WebSocket:リアルタイム双方向通信を実現

5.2 データモデル

OPC UAのデータモデルは以下の要素で構成されています。

  • ノード:データポイントを表す基本単位
  • オブジェクト:関連するノードをグループ化
  • 変数:実際のデータ値を保持
  • メソッド:リモートで呼び出し可能な機能

6.3 アドレス空間

OPC UAのアドレス空間は、ノード間の関係を階層的に表現します。これにより、複雑なシステム構造を直感的に理解し、効率的にデータにアクセスすることが可能になります。

7. OPC UA導入のメリットと課題

7.1 メリット

  • 異なるベンダーの機器を統一的に管理できる
  • セキュリティ対策の負担が軽減される
  • 将来の技術変化にも柔軟に対応できる
  • 工場全体のデータ活用が容易になる

7.2 課題

  • 既存システムとの統合に時間とコストがかかる可能性がある
  • OPC UAに精通した人材の育成が必要
  • 全ての機器やシステムがOPC UAに対応しているわけではない

8. OPC UAの未来展望

OPC UAは今後、以下のような分野でさらなる発展が期待されています。

  • 5Gとの連携による無線通信の拡大
  • AI・機械学習との統合によるスマートファクトリーの実現
  • エッジコンピューティングでの活用
  • サプライチェーン全体を通じたデータ連携

まとめ

OPC UAは、工場のデジタル化とスマート製造を実現する上で重要な役割を果たす通信規格です。その柔軟性、セキュリティ、拡張性により、製造業の未来を支える基盤技術として注目を集めています。技術的な詳細を理解することで、OPC UAの真の価値と可能性がより明確になります。OPC UAの理解と活用は、製造業に携わる全ての人にとって、今後ますます重要になっていくでしょう。

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