【基礎】インバータはただの「変速機」じゃない! 魔法の箱の中身と、新人がハマる「3つの勘違い」

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「インバータって何?」と聞かれたら、あなたはどう答えますか?

「周波数(Hz)を変えて、モーターの回転速度を変える機械」

はい、100点満点の正解です。

でも、「じゃあ、なんで周波数を変えると速度が変わるの?」「中身はどうなってるの?」と聞かれて、即答できる人は意外と少ないものです。

実は、この「中身」を知らないまま使うと、設定ミスでモーターを黒焦げにしたり、メンテナンスで感電事故を起こしたりします。

今回は、インバータという「魔法の箱」の仕組みと、新人が現場で必ずハマる「3つの罠」について解説します。


目次

1. インバータは「電気のミキサー」だ!

日本のコンセントから来る電気は、50Hzまたは60Hzで固定されています。

これを、どうやって「10Hz」や「100Hz」のような好きな周波数に変えているのでしょうか?

答えは、「一度バラバラにして、作り直している」からです。

料理のミキサーに例えると分かりやすいです。

ステップ①:コンバータ部(整流)

まず、コンセントから来た交流(波)を、ダイオードを通して「直流(真っ直ぐな電気)」に変換します。

  • イメージ: 野菜(交流)をミキサーに入れてドロドロのジュース(直流)にする工程。

ステップ②:平滑コンデンサ(蓄電)

直流になった電気を、巨大なコンデンサに一時的に貯めます。これで電圧が安定します。

  • イメージ: ドロドロのジュースをボウルに貯める工程。

ステップ③:インバータ部(逆変換)

ここがメインです。貯めた直流電気を、パワートランジスタ(IGBT)という超高速スイッチを使って、細切れにON/OFFして出力します。

  • イメージ: ジュースを型に流し込んで、新しい形の料理(好きな周波数の交流)を作る工程。

この「細切れにする(スイッチング)」ときに発生するのが、前回の記事で悪者になった「ギザギザ波形(高調波ノイズ)」の正体です。


2. ただ「周波数を変える」だけじゃない! 「V/f制御」の秘密

ここで一つ、超重要なルールがあります。

インバータは周波数(f)を下げるとき、絶対に「電圧(V)」も一緒に下げなければなりません。

これを「V/f(ブイエフ)制御」と呼びます。

なぜ電圧も下げるの?

もし、電圧(200V)そのままで、周波数だけ下げたらどうなるか?

コイルの抵抗(リアクタンス)が減って、とんでもない大電流が流れ、モーターが一瞬で焼損します。

だからインバータは、「周波数を半分にするなら、電圧も半分にするね」という制御を自動で行っています。

こうして「電圧と周波数の比率」を一定に保つことで、モーターの「磁石の力(トルク)」を一定にキープしているのです。


3. V/f制御の弱点と「トルクブースト」の罠

しかし、このV/f制御には弱点があります。

極端に周波数を下げた時(例:5Hz)、電圧も下げすぎてしまうと、配線の抵抗などに負けて電気が届かず、力がスカスカになって回らなくなるのです。

そこで登場するのが、低速時だけ電圧を底上げする「トルクブースト」という機能です。

⚠️ 上げすぎ厳禁!「磁気飽和」の恐怖

「じゃあ、トルクブーストをガンガン上げれば最強じゃん!」

と思った方。それが一番危険な落とし穴です。

電圧を上げすぎると、モーター内部の鉄心(コア)が磁力を受け止めきれなくなる「磁気飽和(じきほうわ)」という現象が起きます。

【スポンジと水の例え】

  • 鉄心 = スポンジ
  • 電圧(磁束) = 水
  1. 正常: スポンジが水を吸い込んでいる状態。
  2. 磁気飽和: スポンジがびしょ濡れで、もう水が入らない状態。

この状態でさらに水(電圧)を注ぐとどうなるか? 水はスポンジを素通りして溢れますよね。

電気も同じです。磁気飽和すると、モーターはただの「抵抗の低い電線」になってしまいます。

その結果、以下の副作用が起きます。

  1. 過電流(OC)トリップ: 爆発的な電流が流れ、インバータが非常停止する。
  2. モーター焼損: トリップしなくても、常に過大な電流が流れて異常発熱し、黒焦げになる。

「低速で力が出ない」からといって、むやみにブースト値を上げるのはやめましょう。1%変えるだけで激変するほど敏感なパラメータです。


4. 現場でハマる「3つの勘違い」

仕組みが分かったところで、初心者がよくやる間違いを見ていきましょう。

勘違い①:「減速すれば、パワー(トルク)が上がるんでしょ?」

自転車のギアや、車のローギアを想像してください。

速度を落とすと、そのぶん坂道を登る「力(トルク)」は強くなりますよね。

「インバータも速度を落とせば、重いものが持ち上がるはず!」

【正解】上がりません。

インバータは「変速機(ギア)」ではありません。

先ほどの「V/f制御」の通り、速度を下げると電圧(パワーの源)も下がってしまうからです。

基本的に力は「変わらない(定トルク)」か、ブースト調整が甘いと「弱くなる」と思ってください。

勘違い②:「一次側の配線を入れ替えたのに、逆転しない!」

マグネットスイッチ(直入れ)の場合、入力電源のR相とT相を入れ替えれば、モーターは逆回転します。

「インバータも、入力の線をクロスさせれば逆転するよね?」

【正解】正転のままです。変わりません。

ステップ①で説明した通り、インバータは入口で電気を一旦「直流」にして混ぜてしまうからです。

逆転させたい場合は、以下のどちらかを行います。

  1. インバータの出力側(U, V, W)の配線を入れ替える。
  2. 制御端子の「STR(逆転指令)」をONにする。(これがスマート!)

勘違い③:「ブレーカー切ったから、すぐ触ってヨシ!」

これが一番危険です。

メンテナンスのため、元電源のブレーカーをOFFにしました。

「よし、電源落ちた! すぐに端子の増し締めをするぞ!」

【正解】感電し、命に関わる重大な事故につながります。

ステップ②の「平滑コンデンサ」には、電源を切った後もしばらくの間、DC280V以上(400V級ならDC560V以上)の高電圧がチャージされたまま残っています。

インバータの表面には、必ず「CHARGE」と書かれた赤いランプがあります。

このランプが消えるまで(約5分〜10分)は、内部に電気が残っています。

テスターで測ると分かりますが、OFFにした直後は電圧が全く下がっていません。

「CHARGEランプが消えるまでは、絶対に手を触れない」。これは自分の命を守るための鉄則です。


コラム:30Hzって何回転?(魔法の公式)

最後に、現場でよく使う計算式を紹介します。

「インバータを30Hzに設定したけど、これって何回転?」と聞かれた時、この式があれば即答できます。

  • 極数(p)とは?: モーターの中に磁石が何個あるか。普通の汎用モーターは「4極(4P)」です。

【4極モーターの場合の早見表】

  • 60Hz: 1800 min⁻¹(回転/分)
  • 50Hz: 1500 min⁻¹
  • 30Hz: 900 min⁻¹

「30Hzなら、定格(60Hz)のちょうど半分くらいの速度だな」と直感的に分かるようになります。

(※厳密には「すべり」があるので、これより少しだけ遅くなります)


まとめ:魔法の箱には「ルール」がある

  • インバータは、電気を一度「直流」にしてから作り直している。
  • 速度を下げると、電圧も下がる(V/f制御)。
  • トルクブースト: 上げすぎると「磁気飽和」を起こしてトリップする。
  • 勘違い①: 速度を下げても、ギアのようにパワーは上がらない。
  • 勘違い②: 入力側を入れ替えても、逆回転しない。
  • 勘違い③: 電源を切っても、コンデンサに電気が残っている。

「なんとなく動くからヨシ」ではなく、中身を知っていると「やってはいけないこと」の理由が見えてきます。

さて、インバータの「中身」が分かったところで、次はいよいよ「外側のつなぎ方(配線)」です。

あなたは、インバータとモーターの間に「マグネットスイッチ」を入れていませんか?

実はそれ、インバータが一発で壊れる「禁断の回路」かもしれません。

次回は、設計者がやりがちな「インバータ出力側の配線NG」について解説します!

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