前回の記事で、高機能な「産業用ハブ」を選定し、その中身(QoS)まで理解しました。

さあ、いよいよ設計図を描く段階です。 複数の制御盤をネットワークで結ぶ時、「ハブからハブへ」どう線を引きますか?
「とりあえず空いてるポートから、次のハブへ繋げばいいや。ケーブルも短くて済むし。」
もし、現場でこれをやろうとしているなら、今すぐその手を止めてください。 その「数珠つなぎ(デイジーチェーン)」こそが、将来ライン全体を停止させる「時限爆弾」になります。
本記事では、数々の現場トラブルを解決してきた現役の電気設計エンジニア(歴9年)の視点で、新人設計者が必ず陥る「配線の罠」と、トラブルに強い「スター配線」の作り方を解説します。
これを読めば、上司や先輩に「配線、これで大丈夫?」と聞かれても、「トラブル対策済みです」と自信を持って答えられるようになります。
結論から言うと、正解は「スター配線(タコ足)」一択です。
ただし、ただスター配線にするだけでは不十分です。 ハブを選ぶ際の「ある計算式」を知らないと、結局現場で「ポートが足りない!」と詰むことになります。その「+2の法則」とは何か? 順を追って解説します。
なぜ新人は「数珠つなぎ」をしてしまうのか?
「数珠つなぎ(カスケード接続)」とは、ハブAからハブBへ、ハブBからハブCへと、バケツリレーのように繋いでいく方法です。

ついついやってしまう理由
理由はシンプル。「楽だから」です。
- ケーブルの長さが最短で済む。
- 盤と盤の間を渡るケーブルが1本で済む。
- 「とりあえず繋がれば通信できるでしょ?」という油断。
確かに通信はできます。しかし、これは「ドミノ倒し」の並べ方と同じです。
現場で嫌われる致命的なリスク
もし、「ハブA(上流)」が故障したり、電源が落ちたりしたらどうなるでしょう? その先にぶら下がっている「ハブB」「ハブC」も道連れになって全滅します。
「奥のコンベアが動かない!」と呼ばれて現場に行ったら、原因はずっと手前の盤のハブだった…なんてことになれば、トラブルシューティングに膨大な時間がかかります。 「1つの故障が、全体を殺す」。 これが数珠つなぎの最大の罪です。
正解は「スター配線(タコ足)」だ
産業用ネットワークにおいて、基本にして最強の形。それが「スター配線(スター型トポロジー)」です。

スター配線とは?
メインとなる「親ハブ」を一つ決め、そこから各盤の「子ハブ」へ、放射状(タコ足状)にケーブルを伸ばす方法です。
スター配線のメリット
- 道連れ死を防ぐ: もし「子ハブB」が壊れても、隣の「子ハブC」には影響しません。被害を最小限に食い止められます。
- 犯人がすぐ分かる: 「Bのラインだけ止まった」なら、原因は間違いなく「Bの系統」です。迷わず修理に向かえます。
デメリット(という名の必要経費)
- ケーブルの総延長が長くなる。
- 親ハブのポート数が沢山必要になる。
しかし、ケーブル代数千円をケチって、ライン停止の損害(数百万円)リスクを負うのは、設計者としてナンセンスです。 「迷ったら親から直接引く」。 これを鉄則にしてください。
【鋭い質問】真ん中の「親ハブ」が壊れたら全滅では?
その通りです。親ハブが故障すれば、それにぶら下がっている子ハブは全て通信不能になります。
しかし、現場の考え方はこうです。 「あちこちに弱点(数珠つなぎ)があるより、守るべき急所(親ハブ)が1つの方がマシである」
だからこそ、設計者はこう対策します。
- 親ハブだけはケチらない: 信頼性の高いメーカーや上位モデルを選定する。
- 親ハブの環境を良くする: 熱がこもらないよう、ファン付きの盤や涼しい場所に設置する。
「どこが壊れるか分からない(数珠つなぎ)」よりも、「親さえ守ればなんとかなる(スター配線)」の方が、リスク管理はずっと楽なのです。
【絶対禁止】「勝手にリング(輪っか)」にするな!
スター配線の図を見て、こう思いませんでしたか? 「ハブAとハブCの間もケーブルで繋げば、輪っか(リング)になって、どっちかが切れても大丈夫なんじゃない?」と。
その発想自体は、ネットワーク技術として正解(冗長化)です。 しかし、今回紹介しているような「アンマネージドハブ(設定不要タイプ)」でこれをやると、100%「ループ障害」で全滅します。
リング構成を作るには、1台10万円以上する「マネージドスイッチ」と、専門的な設定が必要です。 安価なハブを使っているうちは、「輪っかを作ったら死ぬ」と肝に銘じてください。絶対にスター配線(行き止まり)を守りましょう。
「ポート不足」で詰まないための計算式
「スター配線にしたいけど、親ハブのポートが足りない!」 そうならないために、ハブを選定する時は必ず「予備ポート」を計算に入れます。
「ギリギリ」は絶対NG
例えば、繋ぎたい機器が「5台」あるとします。 「5ポートのハブを買えばいいや」…これが素人の考えです。
- PLC
- タッチパネル
- サーボ x 3台
- 合計5台
これらを5ポートハブに挿すと、空きポートは「ゼロ」です。
現場では何が起きる?
いざ試運転!という時、ソフト屋さんがやってきてこう言います。 「デバッグしたいんで、パソコン繋ぎたいんですけど…空きないっすか?」
空きがないので、何かを抜くしかありません。これでは仕事になりません。 さらに、「画像センサを追加したい」と言われたら、もうハブごと交換(再購入)です。
設計の黄金ルール: 「+2の法則」
ハブのポート数を決める時は、「使用する数 + 2ポート」を最低ラインにしてください。
- +1ポート: メンテナンス用(PC接続用)
- +1ポート: 将来の増設用
つまり、「5台繋ぐなら、8ポートハブを買う」。 この余裕が、現場でのあなたの首を救います。

まとめ:配線の形は「意志」である
- 数珠つなぎ: 楽だが、一人が死ぬと全滅する(ドミノ)。
- スター配線: 手間はかかるが、被害を最小限にする(リスク分散)。
- ポート選定: 「+2ポート」の余裕を持つ。
図面を見れば、設計者が「ただ繋がればいい」と考えているか、「将来のトラブルまで見据えているか」が一発で分かります。 これからは、自信を持って「スター配線」で設計してください。その方が、結果的に未来の自分が楽になります。
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