HMI画面にセンスは不要!IEC規格と人間工学で作る「正解」の設計論

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「タッチパネルの画面を作るのが苦手だ」 「自分にはデザインのセンスがないから、どうしてもダサくなる」

そんな風に悩んでいるエンジニアの方、多いのではないでしょうか。 しかし、個人の感覚で作られた画面は、いざという時にオペレーターを迷わせ、重大な事故を引き起こすリスクがあります。

断言します。FA(Factory Automation)におけるタッチパネル設計に、「芸術的なセンス」は1ミリも必要ありません。 必要なのは「理屈(ロジック)」と「エビデンス(証拠)」だけです。

今回は、実務9年の現役設計者が、IEC国際規格や人間工学に基づいた、「物理的に使いやすい画面」の正解を提示します。

結論から言うと、ボタンサイズには「ミスの確率を下げる物理的な数値」があり、ボタン配置には「緊急時の脳のクセ」に合わせた正解があります。

特に「見た目がスッキリするから」といって、緊急停止やリセットボタンを「画面の隅」に配置していませんか? それは人間工学的に最悪の配置です。「トンネル効果」により、パニックになったオペレーターの目には、あなたの配置したボタンが物理的に見えなくなります。


目次

【国際規格】色の使い方は「好み」で決めるな

まず、基本中の基本ですが、ボタンやランプの「色」を感覚で決めていませんか?「目立つから黄色にしておこう」というのは、設計者失格です。

FAの世界にはIEC 60204-1(JIS B 9960-1)という国際規格があり、色の意味は厳密に定義されています。

よくある間違い:「リセットボタン」は何色?

異常が発生した後の「リセットボタン」。あなたは黄色にしていませんか?

規格上の正解は「青(Blue)」です。

意味 (IEC 60204-1)具体的な用途
非常 / 停止非常停止、電源遮断
異常 / 注意異常状態の解除(介入が必要)
正常 / 起動運転準備完了
強制動作(必須行動)リセット動作、入力を促す
白/灰一般 / 無指定スタート・ストップ両用

「青」は「オペレーターに行動を要求する(Mandatory Action)」色と定義されています。

「異常だぞ(黄)!」と知らせた後、「復旧のために行動せよ(青)」と促すのが、規格に則ったロジカルな設計です。


【フィッツの法則】ボタンサイズ「20mm」の物理的根拠

「ボタンは押しやすいように大きくしました」 これでは説得力が足りません。プロなら「フィッツの法則(Fitts’s Law)」で語りましょう。

これは1954年にポール・フィッツが提唱した人間工学の著名なモデルで、 「ターゲットまでの距離が遠く、ターゲットが小さいほど、操作時間は長くなりミスが増える」 という数式で証明された法則です。

スマホの倍、20mmが必要な理由

AppleやGoogleのインターフェースガイドラインでは、タッチ対象の最小サイズを約9mm〜10mm(44pt/48dp)としています。これは「素手」での操作が前提です。

しかし、我々の戦場は「FA現場」です。

  • 軍手や耐油手袋をしている(指の接触面積が増える)
  • 足場が悪く、体が揺れている
  • 焦っている

これらの悪条件を「安全係数」として掛けると、スマホ基準の9mmでは足りません。 人間工学上の指の幅基準(約10〜14mm)に、手袋とパニックのマージンを加えた「20mm角」こそが、FAにおける物理的な安全圏なのです。

「余白」はミスの防波堤

また、フィッツの法則は「的の大きさ」だけでなく「誤爆」のリスクも示唆しています。 ボタン同士が密着していると、手袋をした太い指では、狙ったボタンの隣を触れてしまう確率が跳ね上がります。

「画面が狭いから」と隙間なくボタンを敷き詰めるのは、現場を知らない設計者のエゴです。「適切な余白(マージン)」こそが、物理的に誤操作を防ぐ安全装置なのです。

【生理現象】緊急時に人間は「トンネル」に入る

装置がトラブル停止し、ブザーが鳴り響く現場。 この時、オペレーターの体には「トンネル効果(トンネルビジョン)」という生理現象が起きています。極度のストレス下では、人間の視野は極端に狭くなり、中心部分しか見えなくなります。

悪い例:異常解除ボタンを「隅」に置く

平常時なら、画面の右下にある「リセット」ボタンは見えます。 しかし、パニック状態のオペレーターにとって、画面の隅は「見えていない」のも同然です。

正解:緊急ボタンこそ「ど真ん中」へ

だからこそ、異常発生時のポップアップは画面中央に表示し、ボタンも中央に配置すべきなのです。 これはデザインの問題ではなく、「人間の本能」に対する安全対策です。

また「色だけで情報を伝えない」ことも重要です。 現場には色覚多様性を持つ方もいます。「赤くなったから異常」ではなく、「文字」や「アイコン」を併用し、誰が見ても分かる情報を中央に出す。これが鉄則です。

緊急時のオペレーターの視界(トンネル効果)のイメージ図。トラブル発生時にパニックになり視野が極端に狭まる生理現象を描写。画面中央の「EMERGENCY STOP」表示だけが見え、隅にあるボタンが認識できなくなる危険性を示唆。

【ミラーの法則】人間は「7つ」しか覚えられない

「情報は多い方が親切だ」 そう思って、1画面に20個も30個も数値を並べていませんか? それは親切ではなく、脳へのDDoS攻撃です。

認知心理学には、ジョージ・A・ミラー教授が提唱した「マジカルナンバー7±2(ミラーの法則)」という有名な法則があります。 人間が短期記憶(ワーキングメモリ)で一度に処理できる情報の塊(チャンク)は、「7つ前後(5〜9)」が限界だという理論です。 (※最新の研究では「4つ前後」とも言われています。つまりもっと少ないのです)

脳が情報を「拒絶」する瞬間

この限界を超えた情報量は、脳にとって「意味のある情報」ではなく、単なる「風景(ノイズ)」として処理されます。

  • 悪い画面: 全てのセンサー現在値、バルブ開閉状態、温度、流量など、30項目を1画面に詰め込む。 → 結果: オペレーターは何も見ていない(見られない)。
  • 良い画面: 「今、監視すべき重要パラメータ5つ」だけを表示し、詳細は「詳細画面」へ隠す。

「全部見せないと不安だ」というのは、設計者の自信のなさの表れです。 「オペレーターの脳のメモリ容量(マジカルナンバー)」を理解し、勇気を持って情報を削ぎ落とすことこそが、ヒューマンエラーを防ぐ設計なのです。


「Fの法則」と「Zの法則」:視線の物理法則に従う

UI/UXデザインの世界的権威であるニールセン博士らが提唱する「アイトラッキング(視線計測)研究」において、人間の視線移動には明確なクセがあることが証明されています。

  • Fの法則(F-Pattern): 文章主体の画面を見る時、視線は左上から始まり、「F」の字を描くように動く。
  • Zの法則(Z-Pattern): 全体像を把握する時、視線は左上→右上→左下→右下と「Z」を描く。

これらはWEBデザインの世界では常識ですが、なぜかFA(工場自動化)の世界では無視されがちです。 人間の目の構造は、スマホを見ている時も、制御盤を見ている時も変わりません。だから、HMIもこの「視線の物理法則」を無視して、好き勝手にランプやスイッチを配置すると、オペレーターは「どこを見ればいいんだ?」と視線が迷子になり、疲労とミスが蓄積します。

具体的配置への落とし込み

この法則をFA装置に適用すると、必然的に配置が決まります。

  1. 左上(スタート地点): 最も重要な情報(現在値、サイクルタイム、重要ステータス)
  2. 右上・左下(経過点): サブ情報、設定値など
  3. 右下(ゴール地点): 決定ボタン、画面切替、次工程への送りボタン

「決定」や「次へ」のボタンが右下にあることが多いのは、なんとなくではありません。視線の終着点(Zの終わり)にアクションボタンがあるのが、最も脳に負荷をかけない配置だからです。

タッチパネル画面の視線誘導ワイヤーフレーム。左上(スタート)から右下(ゴール)へ、アルファベットの「Z」を描くように視線が移動する「Zの法則(Z-Pattern)」に基づいた、脳に負荷をかけないボタン配置の図解。


まとめ:「優しさ」とは「論理」である

もしあなたが、「なんとなく見やすいから」という理由で画面を作っていたなら、これからは「根拠」を自問自答してください。

  • なぜリセットが青色なのか? → IEC規格で決まっているから。
  • なぜボタンサイズが20mmなのか? → 誤操作率のデータに基づいているから。
  • なぜ真ん中に配置するのか? → 緊急時に視野が狭まるから。

この「Why」を説明できるエンジニアが作る画面は、現場の作業者を事故から守ります。 HMI設計は、お絵かきではありません。「人間という仕様」に合わせた、高度なエンジニアリングなのです。

次回予告:その「黒い画面」、実は見えていません

今回は、配置と大きさに関する「物理的な正解」を解説しました。これでレイアウトは完璧です。 しかし、まだ一つだけ、FA業界にはびこる致命的な間違いが残っています。

それは「黒い背景」です。

あなたが「カッコいいから」「汚れが目立たないから」と選んでいるその黒い画面。 実は、日本人男性の20人に1人(P型・D型色覚)にとっては、文字が消えて読めない「危険な画面」かもしれません。

次回、誰も教えてくれなかった「色覚バリアフリーの落とし穴」について解説します。

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