産業用ハブで通信エラーが消える理由。QoSとループ検知の仕組み

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前回の記事で、「現場にはAmazonの安物ではなく、産業用ハブを入れてくれ」とお願いしました。

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しかし、こう思ったことはありませんか? 「頑丈なのは分かった。でも、中身の機能(QoSとか)って結局何してるの? 別に設定なんてしてないけど動いてるよ?」と。

実は、産業用ハブ(W4S1など)は、「何も設定しなくても、裏ですごい処理」をしています。 この仕組みを知らないままだと、将来ネットワークが大規模になった時に「原因不明のチョコ停」で地獄を見ることになります。

本記事では、数々の現場トラブルを解決してきた現役電気設計エンジニア(歴9年)の視点で、 カタログに書いてあるけど意味が分からない「QoS」と「ループ検知」について解説します。

これを読めば、ただの黒い箱だったハブが「頼れるガードマン」に見えてくるはずです。

結論から言うと、産業用ハブは「データの救急車」を最優先で通す機能を持っています。

ただし、この機能を知っていても、現場でやりがちな「あるミス」をすると全く機能しません。 その落とし穴とは何か? 順を追って解説します。

目次

QoS(優先制御)は「救急車」だと思えばいい

産業用ハブのカタログに必ず書いてある「QoS(Quality of Service)」。 直訳すると「サービスの品質」ですが、現場では「パケットの優先順位付け」と覚えます。

QoS(優先制御)の仕組み図解。産業用ハブが交通整理を行い、救急車(制御信号データ)を一般車(動画・メールデータ)よりも優先して通過させる様子。

事務用ハブ(QoSなし)の世界

事務用ハブは「平等」な世界です。 YouTubeの動画データも、メールも、現場の重要な制御信号も、「来た順」に処理されます。

もし、誰かが大量のデータを流して回線が混雑(渋滞)したらどうなるでしょう? 重要な「非常停止信号」であっても、「後ろに並んでください」と待たされます。 その結果、信号が遅れて通信タイムアウト(チョコ停)が発生します。

産業用ハブ(QoSあり)の世界

一方、産業用ハブは「えこひいき」をします。 EtherNet/IPなどの制御パケットには、あらかじめ「私は偉いデータです」というタグ(優先タグ)が付いています。

産業用ハブはこのタグを見ると、「おっと、救急車が来たぞ! 道を空けろ!」と、動画データなどを一時停止させ、制御信号を最優先で通します。

オムロンのW4S1などには、本体に「QoS」と書かれた小さなスイッチ(DIPスイッチ)がついています。 パソコンで難しい設定をしなくても、このスイッチをパチっとONにするだけで「救急車優先モード」に切り替わります。 「設定が見える」というのは、現場にとって最大の安心材料です。

【現場の知恵】QoSスイッチを「あえてOFF」にすべき2つの瞬間

基本的には「ON(救急車モード)」で問題ありませんが、ベテランは以下の状況であえてスイッチをOFF(無効)にします。

1. EtherNet/IP以外の通信がメインの時
もし、そのラインで流れるのが「Modbus TCP」や「Socket通信(自作ソフト)」だけだった場合、EtherNet/IP用のQoS機能は邪魔になることがあります。 ハブが「お前はEtherNet/IPじゃないから後回しな!」と判断し、変な遅延が発生するリスクを避けるため、EtherNet/IPを使わないならOFF(平等)にするのがセオリーです。

2. トラブル原因を「切り分け」したい時
通信がおかしい時、「もしかしてハブが悪さをしてる?」と疑う場面があります。 そんな時、一時的にQoSをOFFにして症状が変わるか試します。「余計なことをさせない」ことで、原因を特定しやすくするテクニックです。

【現場メモ】どの通信が「優先タグ」を持ってるの?

産業用ハブが「自動でえこひいき」してくれる通信と、してくれない通信があります。

通信の種類優先タグ(QoS)ハブの挙動代表的なメーカー
EtherNet/IPあり自動で最優先される
(救急車扱い)
オムロン、キーエンス、
ロックウェル
PROFINETあり自動で最優先される
(消防車扱い)
シーメンス、
フェニックス・コンタクト
Modbus TCPなし平等に扱われる
(一般車)
三菱電機、横河電機、
多くの計装機器
CC-Link IE なし平等に扱われる
(一般車)
三菱電機
(小規模なリモートI/O等)
Socket通信なし平等に扱われる
(一般車)
パソコン通信全般

※EtherNet/IPとPROFINET以外を使う場合は、ハブのQoS機能が効かない(または誤動作の原因になる)ことがあるため、DIPスイッチでOFFにするのが無難です。

恐怖の「ループ」を止める仕組み

現場で一番恐ろしいトラブル、それが「ループ」です。

ネットワークループによるブロードキャストストームの図解。ハブのポート間でケーブルがループし、データが無限に増殖して嵐となり、PLCなどの機器が通信不能になる様子

ループとは?

LANケーブルの両端を、同じハブに挿してしまうことです。「そんなバカなことしないよ」と思うでしょう? しかし、現場ではよく起きます。

  • 「配線がごちゃごちゃで、抜けたケーブルを適当な空きポートに挿したら、実は自分に戻っていた」
  • 「2つのハブを、誤って2本のケーブルで繋いでしまった」

こうなると、データがハブの中で永遠にグルグル回り続け、「ブロードキャストストーム(データの嵐)」が発生します。 一瞬でネットワーク帯域が100%になり、接続されているPLCやタッチパネルが全て通信不能になります。

産業用ハブはどう防ぐ?

ここで注意すべきなのは、「アンマネージドスイッチには2種類ある」ということです。

  • ① 普通のアンマネージド(安物):【即死】
    Amazonの安物や、産業用でも廉価版には検知機能がありません。 ループした瞬間、ネットワークがパンクして全ラインが通信不能(即死)になります。
  • ② 高機能アンマネージド:【耐える】
    カタログに「ブロードキャストストーム抑制」とある機種です。 ループを検知すると、溢れかえったデータを必死に捨てて(抑制して)、ネットワーク全体がダウンするのを防ぎます。
    【重要】 あくまで「耐えている」だけです。 ループ自体を止めるわけではないため、ハブはずっと攻撃を受け続けている状態です。そのため、通信速度は遅くなりますし、エラーLEDは点滅し続けます。 「全滅は防ぐが、重傷」の状態だと思ってください。
  • ③ マネージド(高機能版):【止める】
    ループを検知した瞬間に、「そのポートを自動的に遮断(シャットダウン)」します。 ループの原因を物理的に切り離すため、他の健全なラインは「無傷」で動き続けます。

「マネージドスイッチ」が必要になる境界線

「じゃあ、全部マネージドにすればいいの?」 予算があればそれが最強ですが、設定も大変ですし、価格も倍以上します。

現場での「選定の境界線」はここです。

① アンマネージド(設定不要タイプ)でいい場合

  • 装置単体のネットワーク(PLCとタッチパネルとサーボ数台だけ)。
  • トラブルが起きても、ケーブルを目視で追える規模。

② マネージド(設定必要タイプ)にすべき場合

  • 工場全体のラインを繋ぐ基幹ネットワーク。
  • カメラやPCなど、数十台の機器が繋がる場合。
  • 「いつ、何時何分に通信が切れたか」をログに残したい場合。

特に重要なのが「トラブル箇所の特定」です。 アンマネージドだと「何かおかしい」までしか分かりませんが、マネージドならWebブラウザ上の管理画面で「ポート3番でエラーパケットが多発しています」と犯人を指名手配できます。

深夜のトラブル対応で、この機能に何度救われたか分かりません。

まとめ:仕組みを知れば「無駄な停止」は防げる

  • QoS: 制御信号を「救急車」扱いして、混雑時でも遅れさせない機能。
  • ループ検知: 配線ミスによる全ライン停止を防ぐ保険。

「たかがハブ」の中に、これだけの知恵が詰まっています。 前回紹介した「産業用ハブ」が高いのには、ちゃんと理由があるのです。

これからネットワークを構築する際は、ただケーブルを挿すだけでなく、「今、データがどう流れているか(救急車は通れるか?)」をイメージしてみてください。それだけで、設計の質はグッと上がります。

【保存版】産業用ネットワーク・完全攻略ロードマップ

本連載(全4回)を読めば、新人設計者が知るべきネットワーク知識はすべて網羅できます。 ブックマークして、困った時に読み返してください。

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産業用ハブの仕組み図解。QoS機能で重要な制御信号(救急車)を優先し、ループ検知機能で配線ミスによるデータ通信の嵐(ブロードキャストストーム)を防ぐ様子。

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