「リスクが高いから安全柵(ガード)を付けよう」 そう決まった時、具体的にどんな回路を組めばいいか自信を持って答えられますか?
ただ「ドアスイッチ」を付けるだけでは不十分です。もしその配線が断線したり、スイッチが壊れたりしたらどうなるでしょうか? 最悪の場合、扉を開けても機械が止まらず、死亡事故につながるリスクがあります。
この記事では、実務9年の現場エンジニアが、実際の現場で運用されている「絶対に事故を起こさない安全設計」の実体験をもとに解説します。
今回は、安全回路の基本「インターロック」と、絶対に覚えておくべき2つの設計思想「フェールセーフ」「フールプルーフ」について解説します。
結論から言うと、電気屋の仕事は「柵」を作ることではなく、「開けたら・壊れたら、絶対に止まる仕組み(インターロック)」を作ることです。
ただし、どんなに高価なスイッチを付けても、作業員がポケットに隠し持った「予備キー」を差し込めば一瞬で無効化されてしまいます。この「ズル」を技術的に防ぐ方法を知らないと、あなたの安全設計は全て水の泡になります。
電気屋の最強武器「インターロック」とは?
リスクアセスメント(3ステップメソッド)のStep 2「安全防護」において、最も重要なのがガード(柵)です。 ガードには大きく分けて2種類あります。
▼固定式と可動式、どっちを使う?
| ガードの種類 | 特徴 | 主な用途(場所) | 安全対策の要否 |
| 固定式ガード | ボルトや溶接で固定。 工具がないと外せない。 | 滅多に開けない場所 (駆動ベルト、チェーン、点検口など) | インターロック不要 (工具が必要なため) |
| 可動式ガード | 扉やスライド式。 工具なしで開けられる。 | 頻繁に作業する場所 (ワークの脱着、段取り替えエリア) | インターロック必須 (開けたら止まる仕組み) |
「可動式」には監視が必要
固定式ガードなら「開かない」ので安全ですが、可動式ガードは作業中に誰かが開けてしまうかもしれません。 そこで必要になるのが「インターロック装置(Interlocking device)」です。
- ガードが開いている間は、機械が動かない(起動ロック)。
- 機械が動いている間は、ガードが開かない(ガードロック)。
- 運転中にガードを開けたら、即座に停止指令を出す。
この「ガード(メカ)」と「制御システム(エレキ)」を連動させる仕組みこそが、インターロックです。ここで初めて、ドアスイッチやライトカーテンといった「安全機器」が登場するのです。

機械は壊れる前提で組め(フェールセーフ)
安全回路を組む時、絶対に守らなければならない鉄則があります。 それが「フェールセーフ(Fail-safe)」です。
壊れたら「安全側」に止まる
機械や部品はいつか必ず壊れます。電線は切れます。 フェールセーフとは、「部品が故障したり、エネルギーが遮断された時、必ず安全な状態に移行する」という設計思想です。
分かりやすい例が、工業炉などに使われる「燃焼装置の安全遮断弁(電磁弁)」です。

▼どっちが安全?遮断弁の設計
| 設計 | 動作 | 停電・断線した時 | 判定 |
| 悪い設計 | 通電すると「閉まる」 | 弁が開く (ガス漏れ発生!) | ❌ |
| フェールセーフ | 通電中だけ「開く」 | 弁が閉まる (ガス遮断で安全) | ⭕️ |
※電気が切れたら「バネの力」で勝手に閉まる構造を選びましょう。
電気回路での応用
非常停止ボタンが「B接点(常時閉)」なのもこの理由です。 もしA接点(押すとON)で設計していたら、いざという時に「断線していて信号が送れない!」という事態になります。 B接点なら、断線した瞬間に「OFF(停止)」信号が出るため、機械は止まります。「故障=停止=安全」が成立するのです。
人間は間違える前提で組め(フールプルーフ)
もう一つの鉄則が「フールプルーフ(Fool-proof)」です。 直訳すると「愚か者(Fool)でも耐えられる(Proof)」、つまり「人間がミスをしたり、知識がなくても事故にならない設計」のことです。
- 電池を逆向きに入れられない形状にする。
- 電子レンジはドアを閉めないと動かない。
- プレスの起動ボタンを「両手押し」にして、手を挟めないようにする。
「無効化(ズル)」との戦い
現場では、作業効率を上げるために安全装置を「無効化(Defeat)」しようとする人が必ず現れます。 第1回で紹介した「テープでボタンを固定する」や「ドアスイッチのキーだけ差しっぱなしにする」といった行為です。
これに対抗するのも設計者の仕事です。
▼ 現場の「ズル」に勝つための対策
- RFID式スイッチ: 予備キーやドライバーでは騙せない仕組みにする
- 非接触化: 磁気センサーなどで「テープ固定」を無効化する
- 物理的配置: 手が届かない高い位置にセンサーを設置する
「使う人が悪い」と責めるのではなく、「ズルができない構造」を作ることが、究極のフールプルーフと言えます。

まとめ:安全設計は「愛」である
全3回にわたって「機械安全」について解説してきました。
- 概念: 安全とはリスク計算であり、絶対安全はない。
- 計算: 危険源を見つけ、点数化して評価する。
- 設計: インターロックとフェールセーフで、故障やミスから人を守る。
一見、面倒なルールや計算ばかりに見えますが、その根底にあるのは「現場で働く人を誰も怪我させたくない」という、設計者の愛(と責任)です。 警告シール一枚で済まさず、知恵と技術で人を守れるエンジニアを目指しましょう!
安全設計マスターへの道(全7回ロードマップ)
「機械安全・機能安全シリーズ」は、以下の全7回構成でお届けします。「安全設計」は、概念、計算、ハードウェア、制御、そして法律が複雑に絡み合う総力戦です。
このシリーズを最後まで読めば、あなたはもう「ISO? 計算? よく分からんからメーカー任せ」と言っていた頃のあなたではありません。
自信を持ってリスクを計算し、仕様を決定し、堂々と「安全です」と言い切れるエンジニアになれるよう、体系的に解説していきます!
Phase 1:機械安全編(メカ・構造で守る)
まずは「物理的にどう守るか?」という機械安全の基礎を固めました。
Phase 2:機能安全編(電気・制御で守る)
次に、目に見えない「制御の信頼性」を保証する機能安全の世界へ踏み込みました。