インバータを選定するとき、こんな選び方をしていませんか?
- モーターが3.7kWだから、インバータも3.7kWを買えばいい
- 以前の装置の図面をコピペして同じ型式を使っている
- カタログの「定格電流」の意味をよく分かっていない
もし一つでも当てはまるなら、その選定は非常に危険です。
運良く動いているだけか、あるいは現場での試運転中に「過負荷トリップ」が発生し、ラインを止めて怒号を浴びる未来が待っています。
私は電気設計歴9年の現役エンジニアです。過去に容量選定をミスして冷や汗をかいた経験も、後輩のミスを修正した経験も数多くあります。
そこで今回は、カタログの「kW表記」を信じてはいけない理由と、絶対に失敗しない「ND/HD定格」の考え方について解説します。
この記事を読めば、インバータ選定で迷うことがなくなり、自信を持って型式を決定できるようになります。
結論から言うと、インバータ選びの正解は「kW(容量)ではなく、A(定格電流)を見る」ことです。
しかし、これだけで安心するのは早計です。
実は、電流値が足りていても、カタログの隅に書かれた「ある条件」を見落とすと、現場で負荷をかけた瞬間に即トリップします。 知らないと失敗するその「罠」とは何か? 「設計ミス」として多額の修正コストと納期遅延を招く前に以下のチェックリストを必ず確認してください。
カタログの「kW表記」はただの目安!信じると現場でトリップする

「モーターが3.7kWだから、インバータも3.7kWのモデルを選べばいい」
もしあなたがそう考えているなら、今すぐその認識を改めてください。 カタログに大きく書かれている「適用モーター容量(kW)」は、あくまで標準的なモーターを繋いだ場合の「ただの目安」に過ぎません。
なぜなら、同じ3.7kWのモーターでも、メーカーや極数(4P、6Pなど)、あるいは古いモーターかどうかで「定格電流(A)」が全く異なるからです。
インバータが耐えきれず「過電流エラー(トリップ)」を起こす原因は、kW(電力)ではなくA(電流)の超過です。現場で試運転のスイッチを入れた瞬間、モーターが唸りを上げて停止し、先輩から「お前、選定間違えただろ!」と怒鳴られる原因はここにあります。
【ここだけは守れ!】
選定の際は、必ずモーター銘板の「定格電流値(A)」を確認し、インバータ側の「定格出力電流(A)」がそれを上回っているモデルを選んでください。
「3.7kW」というのは、あくまでモーターが仕事として出せる力(出力)のことです。 しかし、その力を出すために消費する電気(入力)は、モーターの性能や構造によって驚くほど変わります。
これを理解していないと、カタログの数値と現場の数値が合わずにパニックになります。
少し難しい話になりますが、ここを理解すれば「見えない電気」が見えるようになります。
1. 電流が決まる「魔の数式」
電気設計者なら、この式を頭に叩き込んでください。
分母に注目してください。「効率」と「力率」が入っていますね。
古いモーター vs 最新モーター(IE3など)
古いモーターは「効率」が悪く、電気を熱として無駄に捨ててしまいます。
上の式の分母(効率)が小さくなるため、計算結果である「電流」は大きくなります。
逆に、トップランナーモーター(IE3)は効率が良いので、電流値が下がることがあります。
つまり、「同じ馬力(kW)を出すために、どれだけガソリン(電流)を食うか」は、モーターの新旧や種類によって全く違うのです。
「IEコード」とは?
モーターの「エネルギー消費効率」の等級(グレード)のことです。数字が大きいほど、効率が良く、電気代が安くなります。
等級の目安(進化の歴史)
- IE1: 標準効率(昔の標準。今は製造中止が多い)
- IE2: 高効率
- IE3: プレミアム効率(現在の日本の標準)
※2015年度より、国内の0.75kW以上のモーターはこれが義務化されています。 - IE4: スーパープレミアム効率(さらに省エネ)
- IE5: ウルトラプレミアム効率(現時点での最高峰)
現場でのポイント:
基本は「IE3」が選ばれますが、特に省エネを厳しく求められる工場や、最新鋭の設備では「IE4」や「IE5」が指定されることもあります。 効率が良くなる=「電流値」や「回転数」が微妙に変わるため、インバータの設定(パラメータ)も合わせる必要があります。
2. 極数(ポール数)の罠:4Pと6Pの違い
もう一つの大きな要因が「極数(P)」です。回転速度を決める公式を思い出してください。
60Hzの場合、回転数は以下のようになります。
- 2P: 3600 min⁻¹(超高速・ファンなど)
- 4P: 1800 min⁻¹(標準・汎用)
- 6P: 1200 min⁻¹(低速・高トルク)
ここで重要なのは、「回転が遅いほど、軸を回す力(トルク)は太くなる」という物理法則です。
標準的な4P(高速)に比べ、6P(低速)のモーターは回転が遅い分、太いトルクを出せるように作られています。 この「強い磁束」を生むために、構造上どうしても多くの電流を必要とします。
カタログのkWだけを見てインバータを選ぶと、これらの「効率」や「極数」の違いによる電流の増加分を見落とします。その結果、インバータの許容量を超えてしまい、現場で「過電流トリップ」が発生するのです。
ND(軽負荷)とHD(重負荷)の罠!用途で使い分けないと大惨事に

電流値を確認するルールを覚えたら、次に待ち構えているのが「ND(Normal Duty:軽負荷)」と「HD(Heavy
Duty:重負荷)」の罠です。
最近のインバータは、パラメータを切り替えるだけで1台で「ND」と「HD」の2つの定格を持たせることができるモデル(多重定格インバータ)が主流です。
結論から言います。初心者は迷わず「HD(重負荷)」を基準に選定してください。
NDとHDの決定的な違いは「過負荷耐量(どれだけの一時的な無理に耐えられるか)」です。
- ND(軽負荷定格)の特徴
- 過負荷耐量:定格電流の120%で1分間(※メーカーにより多少異なります)
- 適した用途:ファン、ポンプなど(動き出しに大きな力が不要なもの)
- HD(重負荷定格)の特徴
- 過負荷耐量:定格電流の150%で1分間
- 適した用途:コンベア、昇降機、搬送台車など(動き出しに大きな力が必要なもの)
インバータは、モーターが停止状態から動き出す瞬間(始動時)に最も大きな電流(始動電流)を必要とします。
もし、ワークを山積みしたコンベアに「1サイズ小さくて安上がりだから」とND定格でインバータを選定してしまうとどうなるでしょうか。 コンベアが動き出そうとした瞬間に、必要な始動トルク(150%以上の電流)を出力できず、一瞬で過負荷エラーとなり装置はピクリとも動きません。
「ファン・ポンプはND」「コンベア・昇降機はHD」。 この使い分けを知らずに安いND定格でギリギリの選定をすると、現場でのリカバリー(インバータの買い直し・盤の穴あけ直し)という最悪の事態を招きます。
実は、メーカーや機種によっては「ND/HD」だけでなく、さらに細かい設定が存在します。
例:三菱電機 FR-A800シリーズの場合
SLD(超軽負荷)、LD(軽負荷)、ND(標準)、HD(重負荷)の4段階に分かれています。
「NDだから120%だ」と思い込まず、必ずカタログの「過負荷耐量(%)」の数字を見て、自分の用途(コンベアなら150%以上必要など)に合っているかを確認するのが確実な正解です。
「回生」を忘れるな! 減速・昇降でインバータが火を吹く前に

容量選定で次に落とし穴となるのが「回生エネルギー」の処理です。
「モーターは電気を食って回る機械」とだけ思っていませんか? 実は、減速する時や、昇降機で荷物を降ろしている時、モーターは逆に電気を生む「発電機」へと変貌します。
- 加速・定速時: インバータからモーターへ電気が流れる(力行)
- 減速・下降時: モーターからインバータへ電気が逆流する(回生)
この逆流してきた電気(回生エネルギー)は、インバータ内部のコンデンサに蓄えられますが、容量を超えると電圧が上がりすぎて「過電圧エラー(OV)」でトリップします。最悪の場合、内部素子が破損します。
【ここで失敗しないためのチェックポイント】
- 急減速させるか? コンベアなどを「スッ」と短時間で止めたい場合、発電量が急増します。
- 昇降(巻き下げ)があるか? 重力に従って荷物を降ろす時、モーターはずっと発電し続けます。
これらの用途では、インバータ単体ではエネルギーを捨てきれません。必ず「回生抵抗器(ブレーキ抵抗器)」というオプションを接続し、余分な電気を「熱」として捨ててください。
カタログの選定ページには必ず「ブレーキ抵抗器の選定」という項目があります。「回るからOK」ではなく「止まれるか?」まで考えるのがプロの仕事です。
単相入力と三相入力のミス! 現場のコンセント形状を確認せよ
最後に、笑えないけどよくある「電源」のミスです。 特に0.4kW〜2.2kWクラスの小型インバータで多発します。
「現場の電源は三相200Vですか? それとも単相200Vですか?」
- 三相200V(動力): 工場の一般的な動力電源。R/S/Tの3本。
- 単相200V(電灯): 一般家庭やオフィスのエアコン用など。L1/L2の2本。
カタログには同じ容量でも「三相200V入力用」と「単相100V/200V入力用」の2種類が並んでいます。
もし、現場に単相200Vしか来ていないのに、間違って「三相200V入力用」のインバータを買ってしまうとどうなるか? 「欠相エラー」が出て動きません(あるいは出力が落ちて使い物になりません)。
「とりあえず200Vなら動くだろう」は素人の考えです。 発注前に、必ず電気工事担当者や現場の盤図面を見て、「入力電源の相数(3相か単相か)」を指差呼称で確認してください。
まとめ:型式を決める前の「4つの自問自答」
インバータ選定は、カタログのkWを見て「えいや!」で決めるものではありません。 以下の4つをクリアして初めて、型式(発注コード)が確定します。
- 【電流】 モーター定格電流 ≦ インバータ定格電流になっているか?
- 【用途】 負荷は軽いか(ND)、重いか(HD)? 迷ったらHDを選べ。
- 【回生】 急停止や昇降はあるか? あるならブレーキ抵抗器を追加せよ。
- 【電源】 入力は三相か、単相か?
この手順を踏めば、現場で「動かない!」「止まらない!」「トリップする!」という悪夢を見ることはなくなります。 先輩の図面のコピペは今日で卒業し、自分の頭で「根拠のある選定」ができる設計者になりましょう。
バータ攻略ロードマップ(全7回)
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