インバータ回路にサーマルはNG!モーターが「低速」で燃える理由

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「先輩! インバータの図面描きました! もちろんモーターを守るために、出力側にサーマル入れておきました!」

新人の頃、自信満々でこう報告した私に、先輩は苦笑いしながらこう教えてくれました。 「うん、モーターを守ろうとする姿勢は素晴らしいね。でも実は、インバータを使う時はサーマルを入れちゃダメなんだ。 むしろ、あると邪魔になっちゃうんだよ」

前回の記事まで、「サーマルリレーはモーターを守る守護神だ」と解説してきましたが、「インバータ制御」の世界に入った瞬間、その常識は通用しなくなります。

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今回は、実務9年の電気設計者が、直入れ回路とは全く異なる「インバータの保護ルール」について解説します。

結論から言うと、インバータ回路に普通のサーマルを入れると、「誤作動して止まる」か、逆に「守れずにモーターが燃える」かのどちらかです。

ただし、インバータ内蔵の保護機能を使えば安心…というわけでもありません。 「ある設定」を間違えると、保護機能が働かずにモーターが丸焦げになる落とし穴があります。


目次

そのサーマル、実は「邪魔」です

まず結論から言います。 インバータ制御を行う場合、インバータとモーターの間(二次側)に、物理的なサーマルリレーを入れてはいけません。

【昔(直入れ)の配線】 [MCCB] ━ [MC] ━ [サーマル] ━ [モーター] (これは正解)

【今(インバータ)の配線】 [MCCB] ━ [MC] ━ [インバータ] ━ [モーター] (これで正解! 出力側は直結!)

「えっ、保護機器なしで直結? 燃えないの?」と不安になるかもしれませんが、大丈夫です。 むしろ、物理サーマルをつける方がリスクが高いのです。その理由は大きく2つあります。


理由①:「高調波」で誤作動する(ノイズの悪戯)

そもそもインバータとは、「電気のスイッチをものすごい速さでON/OFFして、疑似的に波(交流)を作っている機械」です。

電力会社から来る電気はきれいな波(正弦波)ですが、インバータが作る電気は、拡大してみるとギザギザのノイズ(高調波成分)だらけです。

この「ギザギザ」が、サーマルリレーにとっては大敵です。 サーマルの中にあるバイメタル(熱で曲がる金属板)は、この高調波の影響を受けると、実際の電流値以上に発熱してしまう特性があります。

  • 実際の電流: 10A(正常)
  • サーマルの温度: 15A分くらいの熱さ(アチチ!)
  • 結果: 「過負荷だ!」と勘違いしてトリップする。

【深掘り】犯人は「表皮効果(スキンエフェクト)」

「電流値は正常なのに、なぜサーマルだけ熱くなるの?」 その物理的な原因は、高周波特有の「表皮効果」という現象です。

電気には周波数が高くなればなるほど、「電線の表面を通りたがる」という性質があります。 インバータの高調波(ノイズ)成分は、サーマル内部のヒーター(バイメタル)の中心を通らず、表面の皮一枚の部分に集中して流れます。

  • 低周波(50/60Hz): 電線全体を使ってゆったり流れる。
  • 高周波(ノイズ): 表面の狭いエリアに全員が殺到する。

結果、電気の通り道が狭くなるため抵抗が増え、「表面だけ猛烈に発熱する」という状態になります。 中身(実際の電流エネルギー)はスカスカなのに、センサーであるバイメタルだけがアチチになってしまい、「過負荷だ!」と誤判断してトリップするのです。


理由②:「低速運転」でモーターが燃える(これが一番怖い!)

誤作動ならまだマシ(安全側に働くから)ですが、一番恐ろしいのは「サーマルが反応しないまま、モーターが焼け焦げる」パターンです。

なぜそんなことが起きるのか? その原因は、標準モーターの「冷却ファン」の仕組みにあります。

【図解】「自分であおぐ」のをサボるな!

普通のモーター(汎用モーター)の後ろには、冷却ファンがついています。 このファンはモーターの軸と直結しており、モーターと同じ速度で回ります。

インバータを使って、回転速度を落とすとどうなるでしょうか?

  • 全速(60Hz)の時:
    • ファンもブンブン回る。風量マックス。しっかり冷える。
  • 低速(10Hz)の時:
    • ファンも超ゆっくり回る。風が全然起きない。

物理サーマルの盲点

ここで、物理サーマルリレーの気持ちになってみましょう。 サーマルは「電流の大きさ」しか見ていません。「風があるかどうか」なんて知らないのです。

  1. 状況: モーターを低速(10Hz)で連続運転中。
  2. 電流: 定格電流ギリギリ(例: 10A)流れている。
  3. サーマル: 「うん、定格内だね。ヨシ!」
  4. モーター: 「ちょ、待って! 風が来ない! 同じ10Aでも、冷やしてくれないと熱が溜まって……ギャー!!(焼損)」

物理サーマルは、「ファンがサボっている(風量が落ちている)」ことを知りません。 だから、定格電流以下でもモーターが過熱して燃えてしまうのです。

インバータ回路に物理サーマルリレーを使用する際のリスク図解。左側はインバータの高調波ノイズによる表皮効果でバイメタルが発熱し誤作動する様子。右側は低速運転時にモーターの冷却ファン能力が低下し、電流値が正常でも焼損するリスクを解説。

正解は「電子サーマル」を使うこと

では、どうやって守ればいいのか? 答えは簡単です。インバータの中にいる「電子サーマル」機能を使います。

インバータは賢いので、以下のことを全て把握しています。

  • 今、何アンペア流れているか?(電流)
  • 今、何Hzで回しているか?(回転数)

インバータ内部のCPUは、「今は低速(10Hz)だから、ファンの風量がこれくらい落ちるはずだ。なら、いつもより厳しめに(早めに)トリップさせなきゃダメだな」という複雑な計算(補正)をリアルタイムで行っています。

設定方法は?

やることは一つだけ。 インバータのパラメータ(例:三菱ならPr.9)に、「モーターの定格電流値」を入力するだけです。 これだけで、外付けのサーマルなんかより遥かに優秀な「頭脳派守護神」が起動します。


【超重要】「モーターの種類」を教えないと意味がない!

ここで一つ、初心者が必ずハマる「設定の落とし穴」をお伝えします。 電子サーマルを使う時は、電流値だけでなく「モーターの種類」も正しく設定する必要があります。

インバータ用モーターには2種類あります。

  1. 標準モーター: ファンが軸直結。低速で冷えない。(Pr.71 = 0)
  2. 定トルクモーター: 電動ファン付き。低速でもガンガン冷える。(Pr.71 = 1)

もし設定を間違えると…?

現場にあるのが「標準モーター(冷えない)」なのに、設定を「定トルク(冷える)」にしてしまうと、インバータはこう判断します。 「こいつは専用モーターだな! じゃあ低速でも電流流しまくってOKだな!」

結果、電子サーマルによる補正が働かず、モーターが燃えます。 パラメータ設定時は、必ず「今ついているモーターはどっちか?」を確認してください。

モーターの選定方法については以下の記事で解説しています。

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【注意】電子サーマルも「万能」ではない

ここまで「電子サーマル最強!」と言ってきましたが、弱点が一つだけあります。 それは、「シミュレーション(計算)でしかない」ということです。

例えば、こんな状況は検知できません。

  • 「ファンの吸気口にゴミが詰まって、風が出ない」
  • 「夏場の閉め切った部屋で、周囲温度が異常に高い」

インバータは「計算上は冷えているはず」と思い込むため、物理的に風が止まると守りきれません。 絶対に止めてはいけない超重要設備の場合は、モーターのコイルの中に「サーマルプロテクター(熱スイッチ)」を埋め込むのが、最強の物理防御になります。


例外:それでも「物理サーマル」が必要な時

「じゃあ、外付けサーマルは全廃でいいんですね?」 というと、実は例外が1つだけあります。

それは、「1台のインバータで、複数のモーターを回す時」です。

インバータ本体は「合計の電流」しか分かりません。 「Aのモーターがロックして、Bのモーターは空転している」といった個別のトラブルは見抜けないのです。 この場合だけは、各モーターの手前に物理サーマルを入れる必要があります。

⚠️ 選定の注意】 ここで普通のサーマルを使うと、前述の「表皮効果」で誤作動します。 必ず「インバータ対応型(遅動形)」や「飽和リアクトル付き」を選定してください。 (※これらは高調波ノイズを除去する機能がありますが、低速時の冷却不足までは守れないので、低速運転するならインバータ専用モーターとの組み合わせを推奨します)


まとめ:餅は餅屋、保護はインバータ屋

  • インバータ回路に、普通のサーマルを入れてはいけない。
  • 理由は「表皮効果による誤作動」と「低速時の冷却不足(焼損リスク)」。
  • インバータ内蔵の「電子サーマル」を設定するのが正解。
  • ただし、「モーターの種類(標準/定トルク)」の設定ミスには要注意!

「モーターを守る=サーマルを買ってくる」という思考停止を一度捨てて、「誰が一番モーターの状態を知っているか?」を考えてみてください。 インバータ制御の場合は、司令塔であるインバータ自身に守らせるのが一番安全なのです。


【次回予告】

「インバータには電子サーマル!」ということは分かりました。 でも、そもそも「インバータって中で何をしている箱なのか」、自信を持って説明できますか?

「周波数を下げると、電圧も下がる?(V/f制御)」 「減速すれば、ギアみたいにパワーが上がると思ってる?」

もしここで詰まったなら、あなたは次の現場で「思わぬ勘違い」をする可能性があります。 パラメータや配線を触る前に、まずは敵(インバータ)の中身を知りましょう。

次回は、意外と知らない「インバータの基礎・仕組み」と、新人がハマる「3つの勘違い」について解説します!

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このブログでは、インバータの基礎からトラブル対応までを体系的に解説しています。

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【図解】インバータ低速運転の罠!なぜ電子サーマルが必要なのか?左側は物理サーマルが低速時の冷却不足を見逃しモーターが過熱する危険な例。右側はインバータ内蔵の電子サーマルが回転数と電流を監視し、賢くトリップさせて守る正しい例を対比したアイキャッチ画像。

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