【インバータ配線編】そのMC、そこに入れたら爆発します。〜「たぶん大丈夫」が命取り!致命的な配線ミス8選〜

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配線は「臆病」なくらいが丁度いい

「インバータ、買ってきたから繋いでおいて」 上司にそう言われて、あなたは自信を持って配線できますか?

前回の記事で「インバータの仕組み」は理解できたと思います。しかし、理論を知っていても配線を1本間違えれば、新品のインバータは一瞬で鉄屑(ゴミ)に変わります。

脅すわけではありませんが、インバータは大電力を扱う機器です。「信号線」のミスなら動かないだけで済みますが、「主回路」のミスは爆発・発煙・火災に直結します。

今回は、現場で実際に起きている「インバータを再起不能にする8つのNG配線」を解説します。 この記事を読み終わるまでは、絶対にブレーカーを上げないでください。「しつこいな」と思われるくらい、確認のポイントを叩き込みます!


NG配線①:最大のタブー!「出力側」にMCを入れるな

新人の頃、良かれと思ってやってしまう可能性があるミスNo.1がこれです。

【新人の思考】 「安全のために、非常停止ボタンが押されたらモーターを物理的に切り離したいな。 よし、インバータとモーターの間(出力側)に電磁接触器(MC)を入れよう!

これをやると、インバータの寿命を縮めるどころか、トドメを刺すことになります。

なぜダメなのか?

理由は、「アーク放電」と「サージ電圧」です。

インバータが運転中(電流を流している最中)にMCを「バチン」と切ると、行き場を失った電気エネルギーが暴れ出します。 物理的に接点が離れても、その瞬間、空気中に「アーク(火花)」が飛びます。この火花の橋を渡って、モーター側から数千ボルトの高電圧(サージ)がインバータへ逆流してくるのです。

インバータの出口にある半導体(IGBT)は、この想定外の高電圧に耐えられず、ショートして破壊されます。

【ここを確認!】

配線図を指でなぞってください。 インバータの「U・V・W」端子とモーターの間に、MCが入っていませんか? もし入っているなら、そのMCは「入力側(一次側)」に移設してください。どうしても出力側に入れる必要がある場合は、メーカー推奨のインターロック回路(インバータ停止後に切る仕組み)が必須です。

【よくある質問】

じゃあ、運転中にケーブルが断線しても壊れるの?

はい、壊れる可能性があります。 物理的には「MCを切る」のも「断線」も、急に電流が止まってサージが発生する現象は同じだからです。

ただし、断線はめったに起きない「事故」ですが、MC設置は設計段階で組み込む「時限爆弾」です。 インバータの保護回路も、一度きりの事故なら耐えられるかもしれませんが、停止のたびに毎回ハンマーで殴られる」ようなMC開閉には耐えられません。 だからこそ、意図的に出力側を開放する回路を作ってはいけないのです。

じゃあ「入力側(一次側)」のMCでON/OFFすればいい?

これも「△(推奨しません)」です。

理由:インバータの入力部には、巨大なコンデンサがあります。電源を入れるたびに、このコンデンサに「突入電流」という大電流がドカンと流れます。頻繁に(1時間に何回も)一次側MCでON/OFFを繰り返すと、インバータ内部の回路が劣化して寿命が縮みます。

一次側MCの役割: 「朝イチの電源投入」と「非常停止」のためだけに使います。

通常の運転・停止: 必ず制御回路の「信号(STF/STR端子)」で行ってください。


NG配線②:「R・S・T」と「U・V・W」の逆接続

これは「故障」ではなく、一撃での「全損」です。

  • R, S, T = 電源を入れる場所(入口)
  • U, V, W = モーターへ出す場所(出口)

これを逆に繋いで、出力端子(U, V, W)に電源を繋いだ状態でブレーカーをONにするとどうなるか?

「ボンッ!!!」

という大きな音と共に、インバータ内部の部品が破裂します。 インバータの出力側には、電気の逆流を防ぐダイオードが入っています。ここに入口から電源電圧をかけると、内部で完全なショート(短絡)状態になるためです。

【ここを確認!】

「端子台の並びが、前の機種と同じだから左側が電源だろう…」 その思い込みを捨ててください。

必ず端子台の上のシルク(文字)を指差呼称してください。 「電源線よし、R・S・Tに接続! モーター線よし、U・V・Wに接続!」 この5秒の確認をサボると、数十万円の損失を出すことになります。文字を見てください、文字を。


NG配線③:ボリューム(可変抵抗)から煙が出る

周波数をダイヤル(ボリューム)で調整する場合の話です。 ここに潜んでいるのは、「メーカーごとの端子番号の違い」という罠です。

三菱電機の場合(FR-D700など)

ボリュームの3本足は、以下のように繋ぎます。

  • 10番: 電源
  • 2番: 入力(真ん中の足)
  • 5番: グランド(0V)

ここで一番やってはいけないのが、「10番」と「5番」を直結してしまう配線ミスです。 抵抗を通さずにこの2つを繋いでしまうと、ボリュームを回した瞬間に制御回路がショートします。端子台の隙間から白い煙が上がり、制御基板が死にます。

(※出典:三菱電機株式会社「FREQROL-D700 取扱説明書(基礎編)」より)

【ここを確認!】マニュアルを見ろ!

「インバータのボリュームは10-2-5でしょ?」と暗記していませんか? メーカーによって方言があるのです。

  • 三菱電機: 10, 2, 5
  • 富士電機: 13, 12, 11
  • オムロン: H, Ai1, L など

「前の現場は10番だったから」は通用しません。 今、あなたの手元にあるそのインバータの取扱説明書(結線図)を開いてください。 そこに書いてある番号こそが正解です。記憶を頼りに配線するのは絶対にやめましょう。


NG配線④:ブレーキ抵抗器の配線ミス(火災の危険)

もし、オプションの「ブレーキ抵抗器」を外付けする場合、ここだけは3回確認してください。 繋ぐべき端子は、 P(+) と PR です。 これを間違えて、P(+) と N(-) に繋ぐとどうなるか?

結論:抵抗器が真っ赤に発光して、盤が燃えます。

(※出典:三菱電機株式会社「FREQROL-D700 取扱説明書(基礎編)」より)

【なぜ燃えるのか?】

「P」と「N」の間には、常に数百ボルトの電気が流れ続けています(コンセントに直結しているのと同じ状態)。

  • 正しい接続(P – PR):
    • 間に「スイッチ(トランジスタ)」が入っています。ブレーキをかけた一瞬だけスイッチが入り、抵抗で熱を消費します。
  • 間違った接続(P – N):
    • スイッチがいません。24時間365日、全力で電気が流れ続けます。

ブレーキ抵抗器は「一瞬だけ電気を流す」ことを前提に作られています。「常に電気を流す」ことには耐えられません。 ブレーカーを上げた瞬間から抵抗器は「電気ストーブ」と化し、数分後にはあなたの目の前で火を吹くでしょう。

【ここを確認!】

抵抗器のケーブルを持ったまま、端子台の文字を凝視してください。 その端子、本当に「PR」ですか? 隣の「N」じゃないですか? 「PR」にはスイッチという名の安全装置がありますが、「N」はただの電源です。間違えたら火事になります。本当に注意してください。


NG配線⑤:アース線を甘く見るな

「動くからいいや」で省略されがちなのがアース(接地)線です。 しかし、インバータはその仕組み上(高速スイッチング)、どうしても漏れ電流が発生します。

アースを繋がないと、漏れた電気の逃げ場がなくなり、筐体やモーターに帯電します。 その状態で盤やモーターに触れると……「ビリッ!!」と強烈な感電をします。

【ここを確認!】

E端子(またはG端子)に緑色の線は繋がっていますか? アースは「ノイズ対策」である以前に、「あなた自身の命を守る命綱」です。面倒くさがらずに必ず接地してください。

なぜ高速スイッチングすると漏れ電流が発生するの?

「新品のモーターなのに漏電?」と驚くかもしれませんが、これはインバータの宿命です。

インバータは電気を「高速でスイッチング(ON/OFF)」して制御しています。この「高速で変化する電気」には、モーターの絶縁体(コンデンサ成分)をすり抜けて外に漏れ出すという性質があります。

(数式で言うと ですが、覚える必要はありません。「激しく動かすと飛び散る」イメージです)

アース線は、この「どうしても漏れてしまう電気」を安全に地面に返すための排水路です。これを繋がないと、あなたの体が排水路(アース)代わりになってしまいます。


NG配線⑥:出力側(U, V, W)の逆接続

  • NG内容: モーターへの配線(U, V, W)の順番を適当に繋ぐ。
  • 何が起きる?: モーターが「逆回転」します。ポンプやファンなど、逆回転すると一発で破損する機械もあるので要注意です。
  • 対策: 一次側(R, S, T)は逆でも問題ありませんが、二次側は回転方向を確認しながら慎重に結線してください。

NG配線⑦:出力側に「進相コンデンサ」を入れる

  • NG内容: 「力率を良くしよう」と、古いモーターの知識でインバータとモーターの間に進相コンデンサを入れる。
  • 何が起きる?: インバータの高調波電流によってコンデンサが過熱・焼損したり、インバータが過電流エラーで止まります。
  • 対策: インバータの二次側には、モーター以外「何も繋がない」のが鉄則です。

NG配線⑧:アナログ信号線の「シールド」未処理

  • NG内容: ボリューム(周波数設定)の配線に、普通の電線を使ったり、シールド線のアースを繋いでいない。
  • 何が起きる?: ノイズを拾って、ボリュームを触っていないのに周波数が勝手にふらつきます。
  • 対策: 必ず「シールド付きケーブル」を使い、「片側接地(インバータ側だけアースに落とす)」を行ってください。

コラム:捨てないで!謎の金具「ショートバー」

配線をしていると、メイン回路の端子(P1とP+など)に、コの字型の金属プレートが付いているのに気づくはずです。

「これ、邪魔だな…配線しにくいから外しちゃえ」

ちょっと待った!! それを捨てるとインバータが起動しません!

これは「ショートバー(短絡片)」と呼ばれるもので、直流リアクトル(DCL)というオプション機器を繋ぐための場所です。リアクトルを使わない場合は、ここを電気的に繋げておく必要があります。 これを外すということは、インバータ内部の血管を切断するのと同じこと。

画面が表示されなかったり、モーターが回らなかったりして、「初期不良か!?」とメーカーに電話する前に、この金具がちゃんと付いているか確認しましょう。


まとめ:確認こそが最強の技術

  1. MCは入力側へ! 出力側の開閉はサージで基板を壊す。
  2. RSTとUVWは指差呼称! 逆に繋いだら一発アウト。
  3. ボリューム配線はマニュアル確認! メーカーごとの番号違いに注意。
  4. ブレーキ抵抗は端子を凝視! P-N接続は火災の元。
  5. アースは必ず繋ぐ! 感電から身を守る基本。
  6. U・V・Wの順序も確認! 逆接続による「逆回転」で機械を壊さない。
  7. 出力側にコンデンサは禁止! モーター以外は何も繋がないのが鉄則。
  8. アナログ線はシールド必須! ノイズによる誤動作を防ぐ片側接地。

インバータは非常に便利な機器ですが、配線ミスに対しては無慈悲です。 「たぶん合ってるだろう」ではなく、「絶対に合っている」と確信してからブレーカーを上げてください。

さて、無事に(そして安全に)配線ができたら、次はいよいよ「設定(パラメータ)」です。 「分厚いマニュアルのどこを見ればいいの?」という方のために、次回は「とりあえずこれだけ設定すれば回る! 必須パラメータ5選」を紹介します。

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