ISOを守らないと違法になる?機械安全と労働安全衛生法の怖い関係【機械安全⑦】

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「ねぇ、この装置、ちゃんとISO 12100に準拠してリスクアセスメントやった?」 「いや、やってないです。だってISOは『規格』であって『法律』じゃないですよね? 守らなくても罰金取られるわけじゃないし、動けばよくないですか?」

もし現場でこんな会話をしているなら、黄色信号…いや、赤信号です。

確かにISOやIECは「任意規格」であり、守らなくても即座に逮捕されることはありません。 しかし、万が一事故が起きた時、ISOを守っていないと「自分と会社を守るための『反論』が一切できなくなる」というリスクをご存知でしょうか?

今回は、設計者が絶対に知っておくべき「規格(ISO)」と「法律(労働安全衛生法)」の関係について、実務9年の現場エンジニアが解説します。 これを読めば、「なぜISOが必要なのか」を論理的に説明できるようになり、万が一の時にあなた自身を守る「武器」が手に入ります。

結論から言うと、ISO自体は任意ですが、国の指針がISO準拠を求めているため、何かあった時に「ISOもやっていない=やるべき努力を怠った」と判断されてしまうからです。

ただし、条文を詳しく読むと「設計者にはリスクアセスメントの法的義務がない」という衝撃の事実も見えてきます。 ではなぜ、世の中のメーカーは必死にやっているのか? そこには、法律の条文には書かれていない「メーカーとユーザーの板挟み」という大人の事情があります。


目次

原則:ISOは「任意」、法律は「強制」

日本における安全規制の階層構造図(ピラミッド)。頂点の「法律(労働安全衛生法)」、中間の「指針・通達(包括的な安全基準)」、そして底辺の具体的な「規格(JIS/ISO)」という、強制力と具体性の関係性を示した図解。

まず、基本をおさえましょう。日本におけるルールの強さは以下の通りです。

▼ 法律と規格の違い

⚖️ 法律(労働安全衛生法など)

● 強制力: あり (守らないと懲役や罰金)

● 内容: 「やるべきこと」は書かれているが、技術論はない。

📘 規格(JIS / ISO / IEC)

● 強制力: なし (あくまで任意)

● 内容: 「具体的な設計手法」が詳しく書かれている。(3ステップメソッドやインターロックの組み方)

「ほら見ろ、やっぱりISOは任意じゃん!」と思ったあなた。ここからが本題です。 法律(国)は、ある「強力な通達」を使って、このISOを実質的な強制ルールに変えてしまっているのです。


「指針(ガイドライン)」という名の架け橋

日本の法律と国際規格(ISO)を繋ぐ「機械の包括的な安全基準に関する指針」の役割図解。法律の抽象的な要求と、規格の具体的な技術を結びつける架け橋として厚生労働省の指針が存在することを示すイラスト。

日本の厚生労働省は、ISO 12100(機械安全の国際規格)の内容を、日本の法律の枠組みに取り入れるために、ある「指針(ガイドライン)」を発表しました。

それが「機械の包括的な安全基準に関する指針」(平成13年厚生労働省告示など)です。

この指針の中身を見ると、驚くべきことが書いてあります。

  • 「機械メーカーは、リスクアセスメントを実施しなければならない」
  • 「リスク低減のために、3ステップメソッド(本質安全→安全防護→使用上の情報)の順で対策しなければならない」

見覚えがありませんか? そう、これらはISO 12100の中身そのものです。 つまり国は、「法律の中に全部書くと大変だから、『ISOのやり方でやりなさい』という指針を出すから、それに従えよ」と言っているのです。


事故が起きると「裁判所」はどう見るか?

裁判における過失認定のイメージ図。設計者の独自設計(Bad Design)と、現代の技術水準(State of the Art)であるISO規格を天秤にかけ、規格を無視した設計が「過失あり」と判定される法的なロジックの解説。

では、この指針やISOを無視して設計した機械で、作業員が指を切断する事故が起きたとしましょう。 裁判では、設計者(メーカー)の「過失(やるべきことをやらなかった罪)」が問われます。

裁判官はこう考えます。

  1. 法律の確認: 「労働安全衛生法には『危険を防止するための措置を講じなければならない』とある」
  2. 水準の確認: 「では、現代において『適切な措置』とは何か?」
  3. 判断: 「国際規格(ISO)や国の指針には、『リスクアセスメントをして、安全カバーを付けろ』と書いてある。これが現代の技術常識(State of the Art)である」
  4. 判決: 「被告(設計者)は、この世界標準の手順を無視して設計した。これはやるべき努力を怠った(過失がある)と認められる」

怖くないですか? 「法律に書いてないから」という言い訳は通用しません。 「ISO(世の中の常識)を守らなかった = 安全配慮義務違反」というロジックで、法的な責任を問われることになるのです。


設計者とユーザー、それぞれの「義務」

ここで、法律の条文を正確に見てみましょう。実は、立場によって適用される条文が違います。

法律による義務の違い

🔧 第3条の2(メーカー・設計者)
「機械を設計・製造する者は、労働災害の防止に資するように努めなければならない」

🏭 第28条の2(ユーザー・工場)
「事業者は、危険性を調査(リスクアセスメント)し、措置を講ずるように努めなければならない」

これを見ると、こう思うかもしれません。 「なんだ、設計者(第3条の2)には『リスクアセスメントしろ』とは書いてないじゃん。『資するように努めろ』だけじゃん」と。

しかし、現実はそう甘くありません。

お客さんであるユーザー(工場側)は、第28条の2によって「リスクアセスメント」が義務付けられています。 彼らがリスクアセスメントを行うためには、メーカーからの「残留リスク情報(この機械のここが危ないですよというデータ)」が絶対に必要です。

つまり、

  • 法律のタテマエ: 設計者は「安全に努める」だけでいい。
  • ビジネスの現実: ユーザーから「法律(28条の2)守るために必要だから、リスクアセスメントシート出せ! 出せないならお前の機械は買わん!」と言われる。

結局、設計者は「第3条の2(自分の義務)」と「第28条の2(顧客の義務への協力)」の板挟みになり、逃げ道はないのです。

「努力義務だから、やらなくても罰則はないでしょ?」 そう思うのは危険です。 民事訴訟(損害賠償請求)になった場合、「法律で努力義務とされていることすらやっていなかった」という事実は、極めて不利な証拠になります。賠償金が数千万円〜数億円に跳ね上がる原因にもなり得ます。


まとめ:ISO準拠は「自分を守る鎧」

  • 法律と規格: ISO自体は法律ではないが、裁判では「守って当たり前の基準」として扱われる。
  • 国の指針: 厚生労働省の指針により、ISO 12100の手法は日本のルールとして組み込まれている。
  • 結論: ISOに準拠してリスクアセスメントシートを残すことは、面倒な作業ではなく、万が一の時にあなたと会社を守る「最強の証拠(鎧)」になる。

「コンプライアンスだから仕方なくやる」のではなく、「自分たちの身を守るためにやる」。 そう考えれば、難解な規格書も少し違った目で見られるようになるはずです。

これにて「機能安全シリーズ(全3回)」は完結です。 第1回の「基礎」、第2回の「確率(SIL)」、そして今回の「法律」。 これらを理解したあなたは、もう立派な「安全のわかる電気設計者」です。自信を持って設計に取り組んでください!

【完結】安全設計マスターへの道(全7回振り返り)

これにて、機械安全・機能安全シリーズ完結です!「安全設計」は、概念、計算、ハードウェア、制御、そして法律が複雑に絡み合う総力戦です。もし見逃している回があれば、ぜひ振り返ってみてください。

ここまで読んだあなたは、もう「ISO? 計算? よく分からんからメーカー任せ」と言っていた頃のあなたではありません。自信を持ってリスクを計算し、仕様を決定し、堂々と「安全です」と言い切れるエンジニアになっているはずです!

Phase 1:機械安全編(メカ・構造で守る)

まずは「物理的にどう守るか?」という機械安全の基礎を固めました。

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