これまでの連載で、「産業用ハブの選び方」から「正しい配線(スター配線)」までをマスターしました。

これで、あなたの設計するネットワークは「99%のトラブル」を防げるはずです。
しかし、世の中には「残りの1%すら許されない現場」が存在します。 自動車工場のメインライン、半導体製造装置、データセンターの電源管理…。
そこで登場するのが、これまで「高すぎる」「設定が難しい」と避けてきた「マネージドスイッチ」です。
アンマネージド(普及機)と比べると、価格は5倍〜10倍にも跳ね上がります。 上司に「なんでこんな高いハブが必要なんだ?」と聞かれた時、あなたならどう答えますか?
もし答えに詰まるなら、この記事を読んでください。 今回は、高額なハブだけが許された「3つの神機能」と、それを使って「絶対に止まらないライン」を作る方法を解説します。
不死身のネットワーク「リング構成(冗長化)」
第3弾の記事で、「ループ(輪っか)を作ると全滅するから絶対にやるな」と口を酸っぱくして言いました。
しかし、マネージドスイッチの世界では、あえて「ループ」を作ります。

なぜループさせても死なないのか?
マネージドスイッチには、「RSTP(ラピッド・スパニング・ツリー)」やメーカー独自の「リングプロトコル」という機能が入っています。
これが何をするかと言うと、 「物理的には繋がっているが、論理的には切断しておく」 という高度な制御です。
- 通常時: 輪っかの一部を「通行止め」にして、データのループを防ぐ。
- 異常時: ケーブルが断線したり、ハブが故障したら、瞬時に(0.5秒以内など)「通行止め」を解除して、逆回りのルートを開通させる。
メリット: ケーブルが切れてもラインは止まらない
アンマネージド(スター配線)では、ケーブルが切れたらそこで試合終了です。 しかしリング構成なら、「断線しました(でも予備ルートで運転継続しています)」というアラートが出るだけです。
ラインを止めずに、次の休止日にゆっくりケーブルを交換すればいい。 この「時間の猶予」こそが、高いお金を払う最大の理由です。
透明人間を見つける「ポートミラーリング」
現場で「通信がおかしい」となった時、電気屋が一番困るのが「LANケーブルの中身は見えない」ということです。
電気信号ならテスターを当てれば「24V来てるな」と分かります。 しかし、イーサネットはテスターを当てても分かりません。
そこで使うのが「ポートミラーリング」機能です。

データの「コピー」を取り出す
例えば、「PLC(ポート1)」と「タッチパネル(ポート2)」の通信がおかしいとします。 マネージドスイッチに設定を入れると、「ポート1と2のやり取りを、そっくりそのままコピーして、空いているポート8に出力する」ことができます。
このポート8にパソコンを繋ぎ、「Wireshark」などの解析ソフトを使えば、 「あ、PLCが変なコマンドを送ってる!」 「タッチパネルからの返事が遅れてる!」 と、通信の中身が丸見えになります。
これがないと、通信トラブルの調査は「暗闇の中で手探り」になります。 トラブル解決の時間を「3日から30分」に短縮する、最強のデバッグ機能です。
【コラム】カバンに1つ! 4,000円で買える「デバッグ専用ハブ」
「ミラーリングが便利なのは分かった。でも、現場のハブは全部安物(アンマネージド)だから使えないよ…」
そう諦めるのはまだ早いです。 実は、Amazonで数千円で売っている「スマートスイッチ(Web管理対応ハブ)」を使えば、この機能を持ち運べます。
NETGEARやTP-Linkなどが販売している「アンマネージドプラス(イージースマート)」と呼ばれるカテゴリの製品です。 これらは家庭・オフィス用ですが、「ポートミラーリング機能」を持っています。
おすすめの使い方:
- 自分専用のデバッグツールとして1台買う。
- 事前に「ポート1 → ポート5へミラーリング」と設定しておく。
- トラブル現場に行き、PLCの手前にこのハブを一時的に割り込ませる。
これだけで、どんな古い設備の通信でも丸裸にできます。
※注意※ 絶対に「盤内」には設置しないこと!
これらはあくまで「オフィス用」であり、ACアダプタ駆動で耐熱性も低いです。 盤内に設置すると数年で壊れてラインを止めます。あくまで「その場限りの調査ツール」として使い倒してください。
▼ おすすめデバッグハブ
現場でトラブルが起きた時、周りが「原因が分からない!」とパニックになっている中で、涼しい顔でこのハブを取り出し、サクッと原因を特定する。 そんな「現場のヒーロー」になりたいなら、この1台を工具箱に忍ばせておいて損はありません。飲み会1回分の投資で、あなたの技術的評価は爆上がりします。
【本命】NETGEAR GS305E 信頼性重視ならこちら。金属筐体で頑丈なので、現場でのハードな使用にも耐えます。
※購入時は必ず「アンマネージドプラス」を選んでください。(ただのアンマネージドには機能がありません)
【格安】TP-Link TL-SG105E とりあえず試してみたい方はこちら。機能は同じで、圧倒的なコスパです。
※購入時は必ず「イージースマート」を選んでください。
犯人を指名手配する「遠隔監視(SNMP/Web)」
アンマネージドハブを使っている時、トラブル対応はこうなります。 「通信エラーが出たぞ!」→「盤を開けろ!」→「LEDを目視確認しろ!」
しかし、広大な工場でいちいち盤を開けて回るのは非効率です。 マネージドスイッチなら、事務所のパソコンからブラウザでハブの管理画面にアクセスできます。
見える化できること
- 死活監視: 「ポート3のリンクが落ちました(ケーブル抜け)」
- エラー検知: 「ポート5で通信エラーパケットが急増しています(ノイズ?)」
- 温度監視: 「盤内温度が50℃を超えました(ファン故障?)」
「何かおかしい」ではなく、「ポート3が犯人です」とハブが教えてくれます。 これにより、保全マンは「交換用のケーブルを持って、第2エリアへ行け」と的確な指示が出せるようになります。
まとめ:それは「ハブ」ではなく「保険」である
- リング構成: ケーブル断線でもラインを止めない。
- ミラーリング: 見えない通信トラブルを見える化する。
- 遠隔監視: 事務所にいながら現場の異常を特定する。
これらは全て、「ダウンタイム(停止時間)を極限まで減らす」ための機能です。
1台2万円のハブと、数万円〜十数万円するハブ。 その価格差は、「安心への保険料」です。
- 装置単体なら、アンマネージドで十分。
- 工場全体の基幹ラインなら、迷わずマネージド。
この使い分けができるようになれば、あなたはもう「新人」ではありません。 現場のインフラを守る、一人前の「ネットワーク設計者」です。
【保存版】産業用ネットワーク・完全攻略ロードマップ
本連載(全4回)を読めば、新人設計者が知るべきネットワーク知識はすべて網羅できます。 ブックマークして、困った時に読み返してください。