ノイズフィルタの効果がない?「最強の箱」をゴミにする施工の罠

  • URLをコピーしました!
\ 迷子にならないための地図 /

未経験から一人前への
「最短ルート」公開中

独学で「何から勉強すれば…?」と悩んでいませんか?
現場で戦える知識を、体系的にまとめました。

FA電気設計ロードマップを見る

「ノイズ対策として、ラインフィルタを入れました! でも止まりません!」

そう泣きついてくる新人に、私はこう質問します。 「その箱の中身がどうなっているか、説明できる?」

もし「えっ? ノイズを消す魔法の箱じゃないんですか?」という顔をしているなら、それがノイズが止まらない原因です。

市販のノイズフィルタは、正しく使えばあらゆるノイズを消し去る「万能兵器」として設計されています。 しかし、その「理屈(内部構造)」を理解せずに使うと、あなたの施工ひとつで、その機能を完全に殺してしまうことになります。

実務9年の電気設計者が、ノイズフィルタの中身を解剖し、なぜ現場での「結束バンド」や「DINレール」がNGなのか、物理的なメカニズムから解説します。

結論から言うと、フィルタの性能を引き出す鉄則は以下の3つです。

  1. 入出力を離す(結束バンドを切る)
  2. 塗装を剥がして直付けする
  3. フェライトコアは2回巻く

「なるほど、じゃあ念のためにコアを10回くらい巻けば最強ですね?」 そう思ったあなた、それが一番危険です。

実は、良かれと思って巻きすぎると、逆にノイズを引き込んでしまう「物理の落とし穴」が存在します。 たった一つの「黄金比(巻き数)」を知ってから、現場に向かってください。

目次

「最強の箱」の中身を知れ

ノイズフィルタの内部構造図解。入力側のXコンデンサ、中央のコモンモードチョークコイル(関所)、出力側のYコンデンサ(排水路)が配置され、ノイズを除去する仕組みをイラスト化している。

まず、フィルタの蓋を開けてみましょう(比喩です)。 我々が普段使うノイズフィルタの中には、「2種類のノイズ」を倒すための部品が、計算され尽くした配置で詰め込まれています。

【最強の箱(ノイズフィルタ)の正体】

  • Cx(Xコンデンサ): 電線と電線の間(X)を繋ぐ部品。「ノーマルモードノイズ」をバイパスさせて消します。
  • L(コモンモードチョークコイル): 電線の通り道に置かれた「関所」。「コモンモードノイズ」の通行をブロックします。
  • Cy(Yコンデンサ): 電線とアース(Y)を繋ぐ部品。ブロックされて行き場を失ったコモンモードノイズを、アースへ逃がします。

つまり、この1台で「ノーマル(X)」も「コモン(Y)」も両方始末できるよう設計されているのです。 それなのに、なぜ現場では「効かない!」という悲鳴が上がるのでしょうか?

それは、設計者がこの「L(コイル)」と「Cy(Yコンデンサ)」の役割を理解せず、施工ミスによって無効化してしまっているからです。


なぜ「結束バンド」でコイルが死ぬのか?

ノイズフィルタの配線施工ミス図解。入力ケーブルが長く引き回され(Uターン)、出力ケーブルのすぐ横を平行に走っている。その接近部分に「見えないハシゴ(浮遊容量)」が生じ、ノイズがフィルタを通らずに飛び移っている様子。

フィルタの中で、コモンモード対策の主役となるのが「L(コモンモードチョークコイル)」です。 しかし、現場で9割の設計者が無意識にやる「配線の結束」が、これを台無しにします。

なぜ、束ねるとダメなのか? 「Xコンデンサ」ではなく、なぜ「コイル」だけが死ぬのか? その物理的な理由を、イメージで説明しましょう。

コイルは「壁」、結束バンドは「ハシゴ」

  • L(コイル)=「高い壁」
    ノイズを通さないように、通り道に立ちはだかる壁(インピーダンス)です。
  • 結束バンド=「ハシゴ」
    入力と出力を近づけることで、空気中の「浮遊容量(見えないコンデンサ)」というハシゴが架かります。

この状態でノイズが来るとどうなるか?

ノイズは、わざわざ苦労して壁(L)をよじ登ったり、掃除機(Cx)に吸われたりしません。 横にあるハシゴ(結束バンド部分)を使って、壁の向こう側(出力側)へヒョイッと飛び越えます。

これが、「バイパス(飛びつき)」現象です。 構造上、直列に入っている「L(コイル)」の効果が無効化され、結果としてフィルタ全体(Cx含む)がスルーされてしまうのです。

※一方、Cx(Xコンデンサ) は壁ではなく、線間をショートさせる「ドブ溝」の役割なので、バイパス被害の直接の対象ではありません。(もちろん、飛び越えられたらフィルタ全体の意味はなくなりますが)

【メーカーの警告】 「入出力配線を結束したり、近づけて配線すると……本来の減衰効果がなくなります」
出典:コーセル|製品知識:ノイズフィルタの使用方法

【鉄則1】ハシゴを外せ
中身のコイル(壁)を活かしたければ、入出力は「水と油」のように離してください。


なぜ「DINレール」と「長い線」でYコンデンサが死ぬのか?

次に、「Cy(Yコンデンサ)」です。 こいつの仕事は、捕まえたノイズを「金属ケース」や「アース端子」から筐体アースへ逃がすことです。

しかし、ここで2つの施工ミスが、逃げ道を塞いでしまいます。

① DINレールは「頼りない吊り橋」

フィルタを「DINレール取り付け」していませんか? DINレールは構造的に接触抵抗が高く、高周波ノイズにとっては「ガタガタの吊り橋」です。 これでは、Yコンデンサが捨てようとしたノイズがスムーズに流れず、フィルタ内に逆流します。

②アース線は「短さ」が命

さらに致命的なのが、アース端子から伸びる「アース線の長さ」です。

TDKラムダの技術資料に、アース線の長さ(L)とノイズ減衰量の関係を示した、衝撃的なデータがあります。

  • L=20cm(線を20cm伸ばした): ノイズが十分に落ちない。
  • L=10cm(線を10cm伸ばした): 少しマシになるが、まだ弱い。
  • L=0cm(直付け): 最強。 ノイズが劇的に落ちる。 
     出典:TDKラムダ|電源ラインへのノイズ侵入と流出を防ぐ AC 電源用 EMC フィルタ

「L=0cm」とは、つまり「アース線を使わず、フィルタの底面(金属)を盤にベタ付けする」状態のことです。

高周波ノイズにとって、電線は長ければ長いほど「コイル(抵抗)」に化けます。 たった20cm横着して線を伸ばすだけで、その線は「ノイズを通さない壁」となり、Yコンデンサは機能不全に陥ります。

【鉄則2】塗装を剥がし、L=0cm(直付け)を目指せ Yコンデンサを機能させる条件は、以下の「最短ルート」を作ることだけです。

  1. 直付け(L=0cm): DINレールは使わず、塗装を剥がして「面」で接触させる。これが物理的に最強です。
  2. 太く短く: 構造上どうしても線が必要な場合でも、太い線で極限まで短く落としてください。

「アースは電気のゴミ捨て場」です。 ゴミ捨て場までの道が遠かったり、詰まっていたりすれば、部屋(制御盤)がゴミ(ノイズ)だらけになるのは当たり前です。

フェライトコアは「コモンモード」への追撃砲

フィルタの理屈がわかれば、「フェライトコア」の正しい使い方も見えてきます。 これは、フィルタの「L(コイル)」と同じ働きをする追加パーツですが、実はただのコイルではなく「ノイズを熱に変えて焼き尽くす焼却炉(抵抗成分)」としての性質を持っています。

迷ったら「全線束ねて、2回巻く」

コモンモード(L成分)を強化したいので、使い方の正解はこうなります。

  1. 束ねる: 行きと帰りの線を全てまとめて通す。(コモンモード電流だけを磁束加算させて捕まえるため)
  2. 巻く: 巻き数(ターン数)の「2乗」でインピーダンス(阻止能力)が上がる。

【例】

  • 1ターン(挟むだけ): 12 = 1倍
  • 2ターン(1回巻く): 22 = 4倍
  • 3ターン(2回巻く): 32 = 9倍

「じゃあ、10回くらい巻けば最強ですか?」いいえ、ここに罠があります。

【注意1】巻きすぎると「ハシゴ」がかかる

巻き数を増やしすぎると、巻き始め(入口)と巻き終わり(出口)が物理的に近づいてしまいます。すると、ノイズフィルタの結束バンドと同じように、「浮遊容量(ハシゴ)」が発生し、高周波ノイズがコアを飛び越えてスルーしてしまうのです。

【注意2】コアは「発熱」する

忘れてはいけないのが、フェライトコアは「ノイズを熱に変えるヒーター」だということです。 ガンガンにノイズを吸っているコアは、それなりに熱を持ちます。

さらに、動力線を何重にも巻いて束ねるということは、「電線の放熱」を妨げる行為でもあります。 調子に乗ってグルグル巻きにすると、コア内部で熱が蓄積し、最悪の場合は電線の被覆を傷める原因になります。

【鉄則3】欲張るな、2〜3ターンが「黄金比」
電気的特性(ハシゴ防止)と、物理的安全性(放熱)の両面から、現場での最適解は「2ターン(1回巻き)」、スペースがあっても「3ターン(2回巻き)」までです。

それ以上巻くと、高周波特性が悪化するリスクがあります。「適度な距離感」こそが、ノイズ対策の極意なのです。

まとめ:道具に使われるな、道具を使え

  1. 理解: フィルタは「箱」ではない。XコンとYコンとコイルの集合体である。
  2. 施工: 束ねると「コイル」が死ぬ。アースが弱いと「Yコン」が死ぬ。
  3. 結論: 理屈を知らない施工は、どんな高級品もゴミにする。

「高いフィルタを買ったから安心」ではありません。 その中に入っている部品たちが、正しく働ける環境を作ってあげること。 「理屈(物理)」を理解した施工こそが、最強のノイズ対策なのです。

電源ラインはこれで完璧です。しかし、どうしても防ぎきれないノイズが、盤の奥深くにいる「アナログ信号」や「通信線」を狙っています。 最後の手段は、ケーブル自体に「護身術」を使わせることです。

次回、なぜ電線を「ねじる(ツイスト)」だけでノイズが消えるのか? その物理的な種明かしをして、このシリーズを締めくくります。

💬 更新情報を X (Twitter) で発信中!

記事の更新通知や、現場で役立つ「電気制御の小ネタ」をツイートしています。 また、「記事のここが分からなかった」「現場でここが困っているけどどうしたらいい?」といった疑問があれば、DMで募集しています!個別のトラブル相談も、ブログのネタにさせていただけるなら大歓迎です!ぜひフォローして気軽に絡んでください!

左側は施工ミスで火花が散る配線と頭を抱える新人エンジニア、右側は整然と配線され自信満々のベテランエンジニアを描いた対比イラスト。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次