リスクアセスメントシートの書き方!危険を計算する3つの手順【機械安全②】

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「危ないのは分かるけど、具体的にどう書けばいい?」 「リスクの点数はどうやって決めるの? 3点と4点の違いは何?」

現場で実際に「リスクアセスメントシート」を書こうとした時、多くのエンジニアがこう悩みます。

今回は、実務9年の現場エンジニアが、ISO 12100に基づいた「正しいリスクアセスメントの進め方」をステップバイステップで解説します。

結論から言うと、リスクアセスメントとは「主観」を排除し、誰が見ても同じ答えになる「数値(証拠)」を残す作業です。

ただし、「危険源(ハザード)」と「危険状態」の違いを理解していないと、いくら計算してもピント外れな対策しか出てきません。この2つを明確に区別することが、最初にして最大の難関です。


目次

Step 1. まずは「敵」を知る(危険源の同定)

リスクアセスメントの第一歩は、その機械のどこに「危険(ハザード)」が潜んでいるかを見つけることです。これを見落とすと、その後の計算はすべて無意味になります。

闇雲に探さない!「ISO 12100 附属書B」を使え

リスクアセスメントにおける危険源の分類アイコン。機械的(挟まれ・切断)、電気的(感電)、熱的(やけど)、人間工学的(無理な姿勢)の4つの視点でハザードを洗い出すためのチェックポイント図。

「どこが危ないかな?」と腕組みして考えるのはNGです。人間の想像力には限界があるからです。 プロの設計者は、記憶に頼らず「ISO 12100 附属書B」というカンニングペーパー(チェックリスト)を使います。

ここには、機械に関するあらゆる危険源が網羅されています。これらを一つずつ照らし合わせることで、「電気屋だから電気のことしか見えていなかった」という抜け漏れを強制的に防ぐことができます。

▼主な危険源の分類(ISO 12100 附属書Bより抜粋)

No.種類具体的な原因の例
1機械的回転体への巻き込まれ、鋭利な刃物、落下物、高圧流体の噴出
2電気的充電部への接触(感電)、静電気、短絡、過負荷による発火
3熱的高温部への接触(やけど)、熱源からの放射
4騒音聴覚喪失、耳鳴り、コミュニケーション阻害によるミス
5振動腰痛、関節障害、部品の脱落
6放射レーザー、高周波、紫外線による目や皮膚への障害
7材料・物質有害ガス、ミスト、粉塵、爆発性雰囲気
8人間工学無理な姿勢、照明不足、精神的ストレス、ヒューマンエラー

これらすべてに対し「この機械では該当するか?」をチェックしていくのが、正しい手順です。

「危険源」と「危険状態」を区別する

ここが初心者が一番間違えるポイントです。 「危険源(ハザード)」があるだけでは、事故は起きません。 人間がそこに近づいた時、初めてリスクが発生します。

「危険源(Hazard)」と「危険状態(Hazardous Situation)」の違いを示す図解。ロボットアーム(危険源)単体ではリスクにならず、そこに人(+人)が近づくことで初めてリスクが発生するメカニズムを解説。

例えば、産業用ロボットのアームを例に考えてみましょう。

  • 危険源(Hazard): 高速で動くロボットアーム(それ自体は危ないモノ)。
  • 危険状態(Hazardous Situation): ティーチングのために、人が柵の中に入ってアームの近くにいる状態。
  • 危害(Harm): アームが誤動作して人に激突し、骨折する。

リスクアセスメントシートには、単に「ロボットが危ない」と書くのではなく、「どのような作業時に(危険状態)、どのような災害が起きるか(危害)」まで具体的に書く必要があります。


Step 2. リスクを計算する(リスク見積もり)

危険が見つかったら、次はそれが「どれくらい危ないか」を計算(点数化)します。 「めっちゃ危ない」「ちょっと危ない」では人によって基準がブレるため、「リスクグラフ」や「数値化法」を使います。

リスクを決める「3つの要素」

リスクの大きさは、主観ではなく以下の3要素の掛け合わせで決まります。

  1. S (Severity):危害のひどさ
    • 軽微(かすり傷)なのか、重篤(切断・死亡)なのか。
  2. F (Frequency):頻度と時間
    • その作業は1年に1回なのか、毎日やるのか。危険にさらされる時間は長いか。
  3. P (Probability):回避の可能性
    • 機械がゆっくり動くから逃げられるか、早すぎて避けられないか。

リスクグラフの使い方

現場で最もよく使われるのが、あみだくじ形式の「リスクグラフ」です。

リスクの大きさを計算するためのリスクグラフ(あみだくじ)。重篤度(S)、頻度(F)、回避可能性(P)の3要素を選択肢として辿ることで、必要なパフォーマンスレベル(PL a~e)を決定するフローチャート。

S(ひどさ)が大きい ➜ F(頻度)が高い ➜ P(避けられない)

このルートを辿ると、必要な安全レベル(PL:パフォーマンスレベル)が高くなります(例:PL=e)。 逆に、「怪我はするけど軽い(Sが小さい)」なら、リスクレベルは低くなります(例:PL=a)。

このように論理的に点数をつけることで、「なぜここに安全柵が必要なのか?」を上司や顧客に説明できるようになります。


Step 3. どこまで下げれば合格?(リスク評価)

点数が出たら対策を行いますが、ここで問題になるのが「どこまで安全にすればいいの?」というゴール設定です。

ALARP(アラープ)の原則

理想は「リスクゼロ」ですが、前回解説した通り絶対安全は存在しません。また、安全対策にはコストがかかります。 そこで登場するのが「ALARP(As Low As Reasonably Practicable)」という考え方です。

リスク評価の基準となるALARP(アラープ)の原則を示す逆三角形の図。「許容できないリスク(赤)」と「許容可能なリスク(緑)」の中間にある、「合理的に実行可能な限り低減する領域(ALARP領域・黄)」の概念図。
  • 許容できないリスク(赤): 絶対に対策が必要。運転禁止レベル。
  • ALARP領域(黄): 「合理的に実行可能な限り」低くする領域。コストと安全のバランスを見て判断する。
  • 許容可能なリスク(緑): これ以下のリスクなら、社会的に受け入れられる(残留リスクとして管理する)。

対策にお金をかけすぎて会社が潰れてしまっては元も子もありません。「技術的・経済的に可能な範囲で、ベストを尽くしたか?」が判断基準になります。

このALARPの考え方を使えば、過剰な安全対策によるコスト増を防ぐ「理論武装」にもなります。 上司や顧客から「もっと安全にしろ(でも金は出すな)」と言われた時、「これ以上はALARPの原則から外れ、経済的に合理的ではありません」と論理的に反論できるようになるのです。


まとめ:文書化こそが自分を守る

最後に一番大切なことを伝えます。 リスクアセスメントは、「文書化(シートに残すこと)」して初めて完了します。

もし事故が起きた時、警察や労働基準監督署はあなたにこう聞きます。 「あなたは、この事故が起きる可能性を予見していましたか? どのような対策をしましたか?」

その時、「頭の中で考えました」では通用しません。「このシートの通り検討し、ALARPの原則に基づいて、ここまで対策しました」という証拠(エビデンス)だけが、技術者であるあなた自身を守ってくれるのです。

次回は、計算したリスクをどうやってハードウェアで解決するか? 電気設計者の腕の見せ所である「安全回路とインターロックの設計(実践編・設計)」について解説します。

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