盤の「美しさ」はチューブで決まる
制御盤の扉を開けた瞬間、「うわ、汚いな…」と思われる盤と、「美しい!」と感動される盤。 その違いがどこにあるか分かりますか?
配線のダクト処理や機器の配置も重要ですが、一番の違いは「マークチューブ(線番)の揃い方」です。
- 向きがバラバラで首を傾げないと読めない
- チューブがズレ落ちて端子が見えない
- 書いてある番号の規則性が意味不明
そんな盤は、メンテナンス担当者を地獄に落とします。実務経験9年の設計者として断言しますが、「チューブの扱いが雑な盤は、設計全体の品質すら疑われます」。
この記事では、新人が必ず迷う以下の疑問に対する「正解」を提示します。
- 文字の向き: 縦配線は「下から上」が正解
- 抜け落ち対策: フェルールには「ヒダ付きチューブ」を使う
- 印字ルール: 端子番号ではなく「線番号」を書く
会社独自のローカルルールがある場合もありますが、まずはこの「業界標準の鉄則」を知ってください。読み終える頃には、上司や客先、そして現場の作業者から絶大な信頼を得られる「プロフェッショナルの盤面設計」ができるようになっているはずです。
鉄則1:文字の向きは「JIS製図」に従え
配線作業中、ふと手が止まるのが「縦配線」のチューブの向きです。
「上から下に読むのか? 下から上に読むのか?」
先輩によって言うことが違うかもしれませんが、論理的な「正解」があります。

図面と同じく「右から」読め
マークチューブの向きに関する直接的なJIS規格はありませんが、製図のルールを適用するのが業界のスタンダードです。
根拠となるのは、以下の2つのJIS規格です。
① 製図全般のルール(JIS Z 8317-1 : 2008) 「すべての寸法、図示記号及び注記は、図面の下側又は右側から見て読むことができるように示す。」(4.1項)
② 電気図記号のルール(JIS C 0617-1 : 2011) 「文字…(中略)…を含む場合は、底辺から右上方向に線図を見たとき、可読とするように方向を決めなければならない。」(4.8項)
要するに、「図面の下辺、または右辺から読めるように書け」というのが日本の規格(JIS)です。
これを制御盤内の配線に当てはめると、こうなります。
- 横配線: 左から右へ読む(これは当たり前)。
- 縦配線: 顔を左に90度傾けて読む(=下から上へ読む)。
NG例:「上から下」へ書いてしまう
初心者は、本を読む感覚で「上から下(↓)」に文字を入れてしまいがちです。
しかし、これをやると縦配線の文字を読むために、メンテナンス担当者は首を「右」に傾けなければなりません。
図面(首を左に傾ける)と逆の動きを強いることになり、非常に視認性が悪くなります。
「縦配線は下から上(↑)」。
これがプロの共通言語です。
【コラム】盤屋さんにどう指示する?(製作仕様書)
「自分で配線しないから関係ない」と思っていませんか?
設計者と製作者(盤屋さん)が違う場合、図面だけ渡して丸投げすると、作業者ごとの独自のルールで「上から下」に書かれてしまうことがあります。
これを防ぐのが「制御盤製作仕様書」です。 私は仕様書の「配線処理」の項目に以下の一文を入れています。
「マークチューブの文字向きは、水平配線は左から右、垂直配線は下から上(左倒し)とすること」
ここまで定義して初めて、思い通りの「美しい盤」が納品されます。 品質をコントロールするのも、設計者の大事な仕事です。
鉄則2:フェルールの「ツルツル抜け落ち」問題
最近の制御盤では、Y端子や丸端子に代わって「フェルール端子(棒端子)」が主流になりつつあります。
ここで発生するのが、「マークチューブがスカスカで落ちてくる問題」です。
従来のチューブは使えない?
従来の圧着端子は、カシメ部分が平べったく太くなるため、少し太めのチューブ(3.2mmなど)でも引っかかって止まってくれました。
しかし、フェルール端子は「真円に近い棒状」で、しかも電線サイズギリギリまで細く加工されます。
そのため、従来と同じ感覚でチューブを選ぶと、摩擦が足りず、電線の根元までストンと落ちてしまいます。
対策:「ヒダ付き」か「ストッパー」を使え
この問題を解決するには、以下の2つの方法があります。
1.内径補正(ヒダ付き)チューブを使う
マックス(MAX)などのチューブメーカーから、内側に「ヒダ(リブ)」がついた製品が出ています(「ノンスキットチューブ」など)。
このヒダが細い電線にもガッチリ食いつき、フェルールでもズレ落ちません。
「ヒダ付きと言われても、どれを買えばいいか分からない」という方へ。 私が現場で愛用しているのは、MAX(レタツイン)純正の「グリップチューブ(LM-TUxxGシリーズ)」です。
▼【ここが違う】型番の末尾に「G」がついているのが目印!
※安物の互換チューブだとヒダが甘くて抜けることがあります。フェルールの時だけは、数百円ケチらずにこの純正を使ってください。
2.チューブストッパーを後付けする
チューブの下にパチンとハメる専用ストッパーを使う手もあります。手間は増えますが、確実に固定できます。
すでに配線が終わってしまった盤や、指定のチューブを使わなければならない時は、この「ストッパー」を噛ませます。
▼【最終兵器】マークチューブストッパー(MSシリーズ)
これをポケットに忍ばせておくだけで、現場の「線番が落ちて読めない!」というクレームを一瞬で解決できます。
※注意: これはAmazonにはほとんど置いてありません! 「楽天」や「Yahoo」「misumi」などで探してください。
「現場で線番が見えない!」というクレームを防ぐため、フェルールを使うなら「チューブの選定」から変える必要があります。
鉄則3:「端子番号」を書くな!「線番号」を書け
最後に、印字内容の話です。 チューブには何を書くべきでしょうか?
× 間違い:「接続先の端子番号」を書く (例:リレーの5番ピンにつなぐから「5」と書く)
これをやると悲劇が起きます。 一本の電線の「片側には5」、「反対側には8(タイマーの端子番)」と書かれることになり、「一本の線なのに名前が2つある」という意味不明な状態になります。
〇 正解:「図面の線番号」を書く (例:回路図でその配線に振られた「101」を書く)
電気制御の原則は、「つながっている電線はすべて同じ電圧(等電位)」ということです。 物理的にリレーに行こうが、端子台に行こうが、電気的に繋がっていれば、それは「101番という一つのグループ」です。 だから、そのグループにはすべて同じ番号(101)を振るのが正解なのです。
コモン線も「同じ番号」で統一せよ
DC24V(P24)や0V(N24)などのコモン線も同様です。 「P24-1」「P24-2」などと勝手に枝番を振ってはいけません。 どこまで行っても「P24」は「P24」です。
これにより、メンテナンス時に「この線はP24(電源)だな」「これは101(起動信号)だな」と、図面と照らし合わせて即座に理解できるようになります。
まとめ:たかがチューブ、されどチューブ
今回は、新人がハマるマークチューブの3つの鉄則を解説しました。
- 向き: 縦配線は「下から上」に向かって文字を入れる(JIS製図ルール)。
- 固定: フェルールを使うなら「ヒダ付きチューブ」で抜け落ちを防ぐ。
- 番号: 機器の端子番ではなく、回路図の「線番号」を書く。
マークチューブは、盤を作り終えたら終わりではありません。 その盤が10年、20年と使われ、誰かが修理する時のための「道しるべ」です。
次に盤を見る人のことを想像して、正しい向き、正しい位置に印字できるのが、本当のプロフェッショナルです。