工場を歩いていると、制御盤から「LANケーブル」が伸びているのをよく見かけますよね。パソコンに繋ぐあのケーブルと同じ見た目ですが、中を流れているのはYouTube動画やメールではありません。
新人の頃の私は「普通のLANと同じなら、ハブに挿せば勝手に繋がるんでしょ?」と思っていました。しかし、これが大きな間違い。
ただ繋ぐだけでは動かないどころか、設定を一つ間違えると「設備全体が通信エラーで停止」し、復旧まで何時間も冷や汗をかくことになります。
この記事では、FA機器の設計・立上げを実務9年経験してきた筆者が、教科書には載っていない「現場でエンジニアが知っておくべきEtherNet/IPの正体」と「初心者が必ずハマる3つの落とし穴」を解説します。
これを読めば、もし現場で通信トラブルが起きても、訳も分からずパニックになることはなくなり、「まずはここを確認しよう」と冷静に切り分けができるようになります。
結論から言うと、EtherNet/IPとは「普通のLANケーブルを使いつつ、工場専用の厳格なルールで会話する仕組み」のことです。
しかし、この「普通のLANが使える」という点にこそ、新人が陥りやすい「致命的な罠」が潜んでいるのです。
EtherNet/IPを一言で言うと?
専門用語を使わずに言うなら、こうなります。
「普通のLANケーブルやハブを使って、産業用ロボットやPLCを会話させるための『世界標準のルール』」
なぜ「普通のLAN」じゃダメなのか?
オフィスのLAN(TCP/IP)は、データが多少遅れても問題ありません。メールが0.1秒遅れても誰も怒りませんよね。
しかし、工場の機械は違います。 「止まれ!」という信号が0.1秒遅れたら、製品がコンベアから落ちたり、アームが衝突したりして大事故になります。
そこで、「普通のLANの物理的な仕組み(ケーブルやハブ)」を使いつつ、中身は「工場用の厳格なルール(CIP)」で会話しようぜ、と決められたのがEtherNet/IPです。
現場のメモ:
正確には「ODVA」という団体が管理しているオープンな規格です。「CC-Link IE」「EtherCAT」と並ぶ、世界トップシェアの規格の一つです。

最大のメリットは「汎用性」にあり
私が設計していて「EtherNet/IPでよかった」と思う瞬間は、ズバリ「部品の調達しやすさ」です。
- ケーブル: 家電量販店でも売っている「カテゴリー5e以上のLANケーブル」が使えます。
(※もちろん現場では耐油・耐ノイズ品推奨ですが、コネクタ形状は同じRJ45です) - ハブ: 通信の仕組み自体は汎用と同じなので、スイッチングハブが使用可能です。
(※ただし、現場の環境に耐える産業用を選定する必要があります)
専用のコネクタや、高価な専用ケーブルが必要な他の規格に比べて、「パソコンと親和性が高い」のが最大の特徴です。タッチパネルや上位PCとの連携も非常にスムーズに行えます。
【重要】新人が必ずハマる「3つの落とし穴」
ここが本題です。教科書にはあまり書いてありませんが、現場では以下のポイントでトラブルが起きます。
① 「EDSファイル」を入れないと始まらない
USBメモリはパソコンに挿せば認識しますが、産業機器はそうはいきません。 「EDSファイル」という、いわば「身分証明書(ドライバ)」のようなファイルを、メーカーHPからダウンロードして設定ソフトに登録する必要があります。
これを忘れて「設定ソフトのリストに型式が出てこない!壊れてるのか!?」と焦るのは、誰もが通る道です(私もやりました)。
② 「IPアドレス」の重複は命取り
「192.168.1.10」といったIPアドレスを各機器に割り振りますが、これが一つでも被ると通信異常になります。 Excelなどで「アドレス管理表」を作り、テプラで機器本体にアドレスを貼っておくのが、現場の鉄則です。
③ 「事務用ハブ」を使うな
「汎用ハブが使える」と言いましたが、Amazonで売っている2,000円のプラスチック製ハブを制御盤に入れてはいけません。 工場のノイズや熱ですぐに壊れますし、通信速度の安定性も低いです。必ず「産業用スイッチングハブ」を選定しましょう。
※設定手順について
具体的な設定ソフトの操作手順(EDSファイルの登録方法や、IPアドレスの書き込み方)は、キーエンスやオムロン、三菱電機など使用するPLCメーカーによって画面や手順が大きく異なるため、本記事では割愛します。
実践編の記事も今後アップする予定ですが、それまでは各メーカー公式サイトの「EtherNet/IP 接続ガイド」や「導入マニュアル」をご参照ください。
通信モードは「2種類」ある
EtherNet/IPには、使い方が全く違う2つのモードがあります。ここを理解していないと、設計はできません。
- Implicit通信(インプリシット):
- ベルトコンベアのように、決まったデータを常に送り続ける。
- 用途:I/O信号、制御データ
- Explicit通信(エクスプリシット):
- メールのように、必要な時だけデータを送る。
- 用途:設定変更、エラー履歴の取得
「どっちを使えばいいの?」という実践的な話については、以下の記事で現場の失敗談を交えて解説しています。これを読めば設定の迷いがなくなります。

まとめ
EtherNet/IPは、難しいものではありません。 「普通のLANケーブルを使って、工場の言葉で会話する」ための仕組みです。
- EDSファイルを入れる
- IPアドレスを管理する
- 産業用ハブを使う
まずはこの基本さえ押さえておけば、現場で「何もわからない…」と立ち尽くすことはなくなります。 目に見えない「通信」だからこそ、仕組みをイメージして、安全な制御設計を目指しましょう!
現場の制御はEtherNet/IPで十分ですが、上位システムと連携するなら『OPC UA』の出番です。詳しくは以下の記事へ。
