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これだけは外せない!ブレーカー容量と「遮断容量(IR)」の決定手順:AT・AF・IRの三位一体を攻略せよ

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「負荷が20Aだから、30Aのブレーカーをつけておけばヨシ!」

もしあなたが、定格電流(AT)だけを見てブレーカーを選んでいるとしたら、それは時限爆弾を設置しているのと同じかもしれません。 万が一の短絡事故が起きたとき、そのブレーカーは遮断できずに爆発してしまう恐れがあるからです。

今回は、電気設計のプロが必ず確認している3つの重要パラメータ、「AT(定格電流)」「IR(遮断容量)」そして「AF(アンペアフレーム)」の正しい決定手順を解説します。

目次

ステップ1:過負荷保護のための「定格電流(AT)」決定

まずは基本の「定格電流」です。カタログではAT(Ampere Trip)と表記され、ブレーカーが「使いすぎ」を検知してトリップする電流値を指します。

決定の基本ルール

ブレーカーの定格電流(AT)は、以下のバランスで決定するのが鉄則です。

実務的な計算手順

ギリギリの値ではなく、余裕(マージン)を持たせて選定します。

  1. 最大負荷電流(IL)を算出する: 全ての機器が同時に動いたときの電流値を計算します。
  2. マージンを乗じる:
    • 一般的なヒーターや制御機器:IL × 1.25
    • モーター回路:始動時の突入電流で落ちないよう、メーカーの選定表や専用の「モータブレーカー」を使用します。
  3. 直近の上位定格を選ぶ: 計算値が18Aなら、直近上位の「20A」または「30A」を選定します。

ここまでは簡単です。問題は次のステップです。


ステップ2:短絡保護のための「遮断容量(IR)」決定

多くの設計者が見落としがちなのが、このIR(Interrupting Rating:定格短絡遮断容量)です。

1. 【深掘り】IR(遮断容量)とは何か?

IRとは、ブレーカーが「自身の破壊を起こさずに安全に遮断できる、最大の短絡電流値(kA)」のことです。

通常時は関係ありませんが、短絡(ショート)事故が起きた瞬間に生死を分けます。

もし、設置場所の短絡電流が50kAあるのに、IRが10kAしかないブレーカーを使っていたらどうなるか?

ブレーカーはアーク(電気火花)を消しきれず、筐体が破裂・爆発し、盤全体を焼損させる大事故になります。

2. IRと密接な関係!「アンペアフレーム(AF)」の役割

ここで登場するのが、カタログにあるAF(Ampere Frame)という数値です。

これはブレーカーの「物理的な容器(筐体)のサイズ」を表しています。

  • AT (Ampere Trip): 何アンペアで回路を切るか(中身の機能・設定)
  • AF (Ampere Frame): どれだけの衝撃に耐えられるか(外側の頑丈さ・物理サイズ)

なぜAFが重要なのか?

短絡時の巨大なエネルギー(電磁力・熱・ガス圧力)に耐えてアークを消すには、頑丈で大きな物理スペースが必要です。つまり、「AF(筐体サイズ)が大きくなければ、高いIR(遮断能力)は出せない」という物理的な制約があるのです。

3. 実務上のジレンマ:小電流でも大きなAFが必要なワケ

設計現場では、よくこんな悩ましい状況が発生します。

「負荷電流はたったの20A(AT)しかない。でも、設置場所は大工場の変電設備のすぐ近くで、短絡電流が50kAもある…」

この場合、安価で小さな「30AF / 20AT」のブレーカーは使えません。30AFの小さな筐体では50kAもの衝撃に耐えられないからです。

プロの判断:

中身は20A(AT)の設定のまま、外側だけ大きな「100AF」や「225AF」のブレーカーを選定します。

(例:100AF / 20AT のブレーカー)

  • コスト増: 筐体が大きくなるため高価になる。
  • スペース増: 制御盤のサイズが大きくなる。

これらは設計者にとって痛手ですが、安全には代えられません。「電流が小さいから小さいブレーカーでいい」という思い込みは捨てましょう。

4. IR決定の鉄則

選定のルールはシンプルですが絶対です。

装置を納入する工場の電源トランス容量などを確認し、推定短絡電流を算出(または工場側に提示を依頼)して、それを上回るIRを持つAFを選定してください。

【プロの深掘り】カタログにある「Icu」と「Ics」の違いは?

三菱電機などのカタログを見ると、遮断容量の欄に2つの数字が書かれています。

  • Icu (Ultimate):限界短絡遮断容量「とりあえず1回は爆発せずに遮断できる」限界値。通常、選定計算にはこの値を使います。
  • Ics (Service):使用短絡遮断容量「遮断した後も、壊れずに再利用できる」実用値。

設計の鉄則:

基本的には Icu(限界値) が、工場の短絡電流を上回っていれば安全上の規格はクリアできます。

しかし、データセンターや重要インフラなど「事故後すぐに復旧したい」場所では、Ics(実用値)まで考慮して選定する。これがワンランク上の設計です。


ステップ3:協調(セレクティビティ)とバックアップ保護

最後に「協調」を確認します。これは、ブレーカー同士の「上下関係」のルールです。

もし、あなたの装置内で短絡事故が起きたとき、装置のブレーカーだけが落ちれば被害は最小限で済みます。しかし、さらに上流にある工場の配電盤のメインブレーカーまで一緒に落ちてしまうと、工場のライン全体がストップする大損害になります。

これを防ぐのが「協調」です。

【図解:協調(セレクティビティ)の重要性】

左側(良い協調)のように、事故が起きた場所のすぐ上にある「下流ブレーカー」だけが落ちるのが理想的な状態です。右側(悪い協調)のように、上流まで巻き込んで落ちてしまう事態は避けなければなりません。

協調が取れているか確認するには、主に2つの方法があります。

この良い協調を実現するために、設計者はメーカーの「協調表」や「動作特性曲線」を確認します。

  1. 協調表(セレクティビティ・テーブル)を見る:
    メーカーが発行している一覧表(マトリクス)です。「親ブレーカーAと子ブレーカーBの組み合わせはOK」といった判定がひと目でわかります。実務ではまずこれを確認します。
  2. 動作特性曲線(タイム・カレント・カーブ)を重ねる:
    ブレーカーが「どのくらいの電流で、何秒で落ちるか」を示したグラフで、下記の図のようなグラフです。 上流(青線)と下流(赤線)の曲線を同じグラフにプロットし、線が重ならない(常に下流が左下にある)ことを確認します。これが、「同じ電流が流れても、下流の方が先に落ちる」という技術的な証明になります。協調表に載っていない組み合わせや、より詳細な検討が必要な場合に使用します。
【図解:動作特性曲線による協調の確認】

赤い曲線(下流)が青い曲線(上流)より常に下にあるため、どんな電流でも下流が先に動作することが視覚的にわかります。

一般的には、上流と下流の定格電流比を1.6倍〜2倍以上離すといった手法がとられますが、最終的にはこのような曲線やメーカーのデータで確認するのが確実です。

【コラム】IRが高ければ安心…ではない!?「SCCR」の罠

「よし、遮断容量(IR)が50kAの最強ブレーカーを選んだから、盤は安全だ!」 そう思った方、ちょっと待ってください。そのブレーカーの下に繋ぐ機器(コンタクタや端子台)は大丈夫ですか?

実は、ブレーカー以外の機器にもSCCR(短絡電流定格)という、「短絡に耐えられる限界値」が決まっています。 いくらブレーカーが強力でも、その下の機器のSCCRが低ければ、ブレーカーが切れる前に機器が爆発してしまいます。

  • IR:ブレーカーが「止める」能力
  • SCCR:機器や盤が「耐える」能力

この2つはセットで考える必要があります。「ブレーカーだけ強くても意味がない」という深い話は、また後日、別の記事でじっくり解説します。 (海外輸出する盤では、これで認証試験に落ちるケースが多発しています…!)


まとめと実務チェックリスト

ブレーカー選定は、AT(過負荷)とIR(短絡)、そしてAF(枠番)の組み合わせパズルです。最後に、図面を書く前のチェックリストを用意しました。

✅ ブレーカー選定 実務チェックリスト

  1. ATの確認: 負荷電流に対して適切なマージン(x1.25等)を持った定格電流(AT)か?
  2. 電線の保護: 選んだATは、接続する電線の許容電流以下になっているか?
  3. IRの確認: 納入先の短絡電流を調査し、それを上回る遮断容量(IR)を持っているか?
  4. AFの選定: 必要なIRを満たすために、適切なアンペアフレーム(AF)を選んでいるか?(ATが小さくてもAFを大きくする必要はないか?)
  5. 協調: 短絡時に工場の大元のブレーカーをトリップさせない構成になっているか?

さて、ブレーカーの容量と枠番が決まりました。

次はそのブレーカーに繋ぐ「電線」を選ばなければなりません。

「20Aのブレーカーだから、許容電流20Aの電線でいいよね?」

……実は、それも間違いのもとです。温度や束ねる本数によって、電線の能力は激減するからです。

次回は、「【電線選定の鉄則】カタログ値で選ぶと火を吹く?「許容電流」と「補正係数」の正しい計算式」について解説します。カタログ値だけ見て電線を選ぶと、盤内で発熱トラブルになるかもしれませんよ!

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