数値ズレの怪奇現象!「グランドループ」と「抵抗不足」を絶縁で断て

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現場で戦える知識を、体系的にまとめました。

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「配線は完璧です! 図面通りです!」「でも、数値がモニター上でずっと±5%くらいハンチング(ふらつき)してるぞ?」「えっ……なんで?」

現場で最も恐ろしい瞬間。それは「図面通りなのに動かない時」です。アナログ信号(4-20mA)の世界では、目に見えない「2つの魔物」が新人を待ち受けています。

  1. グランドループ(回り込みノイズ)
  2. インピーダンスオーバー(電圧不足)

今回は、実務経験9年の電気設計者である私が、ベテランでもハマるこのトラブルの正体と、それを一撃で葬り去る最強の武器「アイソレータ(信号変換器)」について解説します。

ただし、「とりあえずアイソレータを入れればOK」と安易に考えると、今度は「信号が届かない」「センサーが動かない」という別の泥沼にハマります。 なぜプロは「絶縁」にこだわるのか? その「物理的な理由」と「正しい機器選定」を知らずに現場に出るのは、丸腰で戦場に行くのと同じです。 一生使える「トラブル対応力」を身につけたい人だけ、続きを読んでください。


目次

トラブル①:恐怖の「グランドループ」

離れた場所にある制御盤間で発生するグランドループの概念イラスト。アース間の電位差により、信号ケーブルを通じてノイズ電流がループ状に流れている様子を示す赤い矢印。

離れた場所にある盤同士(例:1階の現場盤と、3階の中央監視盤)を信号線で繋いだ時によく起こります。

原因:アースはどこでも0Vではない

図面の上では、アース(接地)はすべて「0V」で繋がっています。 しかし、現実の地面には電気抵抗があるため、離れた場所にある「A地点のアース」と「B地点のアース」の間には、微妙な電圧のズレ(電位差)が生じます。

  • A盤のアース:0.5V
  • B盤のアース:0V

水が高いところから低いところへ流れるように、この「0.5Vの電位差」のせいで、アースラインを通じて信号線に予期せぬ電流が流れ込んでしまいます。これが「グランドループ」です。

症状

  • 数値が常にふらつく。
  • 近くでモーターが回ると数値が跳ねる(ノイズを拾う)。
  • 最悪の場合、入力カードが焼損する。

【恐怖】なぜグランドループで基板が燃えるのか?

結論:信号線に、信号以外の「巨大な迷走電流」が無理やり流れ込むからです。

「ノイズが乗るくらいならいいじゃん」と思っていませんか? 甘いです。 アース間の電位差が大きくなると、PLCは物理的に破壊されます。

通常、PLCのアナログ入力回路には、数mA〜数十mAの電流しか流れません。しかし、グランドループ(アース間の電位差)が発生すると、以下のような「破壊のシナリオ」が進みます。

  1. 電位差の発生:
    例えば、落雷や大型モーターの漏電などで、遠くの盤のアース(接地)電位が一瞬で 「100V」 に跳ね上がったとします。こちらの盤のアースは 「0V」 です。
  2. 回路の形成:
    本来、電気は絶縁されているはずですが、グランドループ(シールド線や共通のマイナス線などを経由)によって、「100Vのアース」と「0Vのアース」がPLCの中を通って繋がってしまいます。
  3. 大電流の流入:
    オームの法則(I = V/R)です。PLC内部の精密抵抗(250Ωなど)やプリント基板の細いパターンに、本来の信号とは無関係な数アンペアもの電流が一気に流れ込みます。
  4. 焼損:
    小さな抵抗器は一瞬で赤熱し、燃え尽きます。これが「カード焼損」の正体です。

「4-20mAの信号が強すぎて燃える」のではなく、「アース電位差という巨大なダムが決壊して、PLCを濁流が飲み込む」イメージです。

これが「カードが死んだ」と言われる現象の正体です。だから「絶縁」が必要なのです。


トラブル②:欲張りすぎた「直列つなぎ」

4-20mAアナログ信号における機器直列接続時の電圧降下とインピーダンスオーバーの図。センサーの最大電圧を超えて信号が低下する様子。

「この流量計の信号、PLCにも入れたいし、現場のデジタル表示器にも出したいし、記録計にも残したい!」新人がやりがちなミスです。

Q. 1つの4-20mA信号を、直列で複数台に繋げますか?

A. 理屈では可能ですが、限界があります。

4-20mAを流すためには、センサー側に「押し出す力(電圧)」が必要です。しかし、機器を直列に繋げば繋ぐほど、抵抗(負荷)が増えていきます。

  • PLCの抵抗:250Ω
  • 表示器の抵抗:250Ω
  • 記録計の抵抗:250Ω
  • 合計:750Ω

オームの法則(V=IR)で計算すると、20mAを流すには 0.02A × 750Ω = 15V の電圧が必要です。もしセンサーの能力が「最大12Vまでしか出せない」仕様だったら?

押し出す力が足りず、20mA流したくても流れません。 これが「数値が低く出る(ズレる)」原因です。

【物理の罠】なぜ電流(4-20mA)が減ってしまうのか?どこに消える?

結論:「どこかへ消える」のではなく、「最初から生成されない」のです。

ここが多くの技術者が勘違いするポイントです。「センサーは意地でも20mAを出す」と思っていませんか?そう思うかもしれませんが、センサーが出せる「電圧(押し出す力)」には限界があります。

1. センサーの正体は「可変電圧源」

センサーは電流を一定(20mA)にするために、接続された抵抗値に合わせて「電圧を自動調整」して押し出しています。

  • 抵抗が小さい時(250Ω): 0.02A × 250Ω = 5V の力で押せばいい。楽勝です。
  • 抵抗が大きい時(1000Ωなど、直列繋ぎすぎ): 0.02A × 1000Ω = 20V の力が必要です。

2. 限界(許容負荷抵抗)の壁

もし、このセンサーの最大能力(電源電圧など)が「15Vまでしか出せない」仕様だったらどうなるでしょう?

  • 出したい電流: 20mA
  • 必要な電圧: 20V
  • 出せる限界: 15V

センサーは全力で「15V」を出しますが、抵抗が「1000Ω」あるため、オームの法則により、実際に流れる電流は以下のようになります。

I = 15V/1000Ω = 15mA

抵抗には勝てません。 結果、「回路全体を流れる電流自体が15mAに低下する(飽和する)」という現象が起きます。

3. 結果

  • センサー側: 20mA流そうとしたが、力不足で15mAしか流せなかった。
  • 回路全体: ループのどこを測っても、一律「15mA」しか流れていません。

電流は途中で消えたのではありません。「ポンプのパワー不足で、チョロチョロとしか流れなくなった」のです。だから、PLCでも表示器でも、すべての場所で「数値がズレる(低く出る)」という現象が起きます。

これが「数値が全体的に低く出る」トラブルの正体です。


解決策:救世主「アイソレータ」を入れろ

信号アイソレーターの動作原理を示す概念図。ノイズを含んだ入力信号が、光や磁気によるガルバニック絶縁を経て、クリーンな出力信号として再生成される様子。

これら2つのトラブルを、たった1台で解決する魔法の機器があります。それが「アイソレータ(信号変換器 / Signal Isolator)」です。

仕組み:一度切って、コピーする

アイソレータは、入力された電気信号を、内部で一度「磁気(トランス)」や「光(フォトカプラ)」に変換し、出力側で再び電気に戻します。 これによって「入力側」と「出力側」が、電気的に完全に切り離され(絶縁され)ます

メリット1:ループを切る

電気的に繋がっていないので、アース間の電位差があっても、ノイズ電流はそこで行き止まりになります。グランドループは物理的に消滅します。

メリット2:パワーを復活させる(リピート機能)

アイソレータは外部電源(AC100VやDC24V)を使って、信号を「再生成(リピート)」します。弱った信号を新品の力強い信号に作り直して出力してくれるため、そこからさらに機器を繋いでも電圧不足になりません。

【落とし穴】アイソレータ選びの「3つの罠」

ここが今回一番伝えたかったことです。適当に選ぶと、「電圧不足が悪化する」か「センサーが動かなくなる」か、どちらかの地獄を見ます。

罠①:「電源なし」タイプを買ってはいけない

アイソレータには「外部電源不要(2線式アイソレータ)」という製品があります。メリット・デメリットを理解して使い分けてください。

タイプメリットデメリット(注意点)
電源あり(4線式)
★トラブル時は推奨
電圧が復活する
信号を強く再生成できる。
電源配線が必要。
価格が少し高い。
電源なし(2線式)配線が楽・省スペース
電源工事が不要で安い。
電圧が下がる
信号線から電気を奪うため、インピーダンスオーバーになりやすい。

ただでさえ電圧不足(インピーダンスオーバー)で悩んでいる時に「電源なし」を入れると、トドメを刺すことになります。

トラブル対策なら、面倒でも「外部電源が必要なタイプ」を選んでください。

罠②:「ディストリビュータ=分配器」という言葉の罠

「信号を2つに分けたいから分配器(ディストリビュータ)を買おう!」 新人がよくやる間違いですが、これが大きな落とし穴です。

業界における「2つの分配」の意味

制御業界では、以下の2つの機能がごっちゃになって使われています。

  1. 信号の分配(Signal Splitter):
    1つの入力信号を2つに分ける機能。アイソレータにもディストリビュータにも付加できる「オプション機能」です。
  2. 電源の分配(Power Distributor):
    センサーへ24V電源を配る機能。これが「製品としてのディストリビュータ」の本来の意味です。

悲劇のシナリオ

アイソレーターとディストリビュータの正しい使い分けと、接続ミスによる電源衝突の警告図(最終版)。4線式センサーは信号線のみをアイソレーターに接続する様子を強調。

もし「信号を分けたい」という理由だけで、適当にディストリビュータを買うとどうなるか? その機器は「センサーへ向けて24Vを発射」します。 相手が「4線式センサー(電源持ち)」だった場合、電源同士が衝突し、最悪の場合センサーを破壊します。

罠③:結局どっちを買えばいいの?

前回の記事で解説した「センサーの線数」で選んでください。これが結論です。

機器名機能のイメージ相手にするセンサー
アイソレータ
(Isolator)
「通訳」
信号を絶縁して、きれいな信号に直して渡すだけ。
4線式センサー
(自分で電源を持ってるやつ)
ディストリビュータ
(Distributor)
「通訳 + 電池」
通訳しながら、相手に電源(24V)も送ってあげる
2線式センサー
(電気を貰わないと動けないやつ)
  • アイソレータを使う時 :
    相手が「4線式センサー」の時です。相手は電源を持っているので、こっちからは信号だけ貰えばOKです。
    (※一応、外部電源を無理やり割り込ませれば動きますが、盤内でケーブルの行き先がバラバラになり、配線がごちゃつく(メンテナンス性が悪くなる)ため、推奨しません。)
  • ディストリビュータを使う時 :
    相手が「2線式センサー」の時です。相手は自分で食事(電気)を用意できないので、こちらから送ってあげる必要があります。

迷ったら、「2線式を選んだなら、ディストリビュータを買う」と暗記してください。


まとめ:アナログのトラブルは「絶縁」で断つ

  • 離れた盤同士を繋ぐ時 → グランドループ対策
  • 数値がなぜか安定しない時 → ノイズ対策
  • 1つの信号を2箇所以上で使いたい時 → インピーダンス対策(分配)

ケチらずに「適切なアイソレータ(またはディストリビュータ)」を挟んでください。 数万円のコストで、徹夜のトラブルシューティングから解放されるなら安いものです。

第1弾の仕組み、第2弾の配線、第3弾の絶縁。これだけ知っていれば、あなたはもう現場で「新人」扱いされることはないでしょう。

▼ アナログ信号基礎講座(全4回) 現場で使える知識を、順を追って解説しています。

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激しい電気ノイズを防ぐアイソレーターのイメージイラスト。グランドループノイズを遮断し、クリーンな信号を出力している様子。

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