制御盤の熱対策!「熱の御三家」計算とファンの寿命を守る鉄則

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「とりあえず、デカいファンを付けておけば冷えるだろう」 「盤が熱いけど、ブレーカーが落ちてないから大丈夫でしょ」

もしあなたがそう思っているなら、それは装置の寿命を半分、いや4分の1に縮めているかもしれません。

電気部品にとって、熱は「静かなる大敵」です。今は動いていても、3年後、5年後に突然故障ラッシュが始まります。

そこで今回は、実務9年の電気設計者が、「熱と寿命の怖い関係」と、教科書通りの「真面目な計算方法」、そして忙しいあなたのための「現場の抜け道(時短テクニック)」を解説します。

結論から言うと、「熱の御三家(インバータ・電源・トランス)」だけ計算すれば、盤内の熱計算は9割終わったも同然です。

ただし、ファンのカタログスペックをそのまま信じてはいけません。 ある「抵抗」を忘れると、計算上は冷えるはずなのに盤内がサウナ状態になる危険な罠があります。

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目次

恐怖の法則:「10℃・2倍則(アレニウスの法則)」

まず、なぜ冷やさなければならないのか?

それは、電子部品(特にコンデンサ)の寿命が熱によって劇的に変わるからです。ここに有名な経験則があります。

【10℃・2倍則(10℃半減則)】

周囲温度が 10℃ 上がると、その機器の寿命は 半分(1/2) になる。

逆に言えば、「10℃冷やせば、寿命は2倍に伸びる」ということです。

  • 40℃ で使うと 10年 持つ電源ユニットが…
  • 50℃ の盤内で使うと、寿命はたったの 5年
  • 60℃ になると、なんと 2.5年 で壊れます。

「動いているからヨシ」ではありません。お客様に長く使ってもらうためには、盤内温度を意地でも下げなければならないのです。


ステップ1:敵を知る(総発熱量 Q の計算)

ファンを選ぶ前に、まず「敵の強さ(発熱量)」を知る必要があります。ここで、「理想」と「現実」の2つのアプローチがあります。

【理想】真面目な計算方法(教科書通り)

本来であれば、盤内に入っているすべての機器のカタログを開き、「発熱量(または損失)」を調べて足し合わせるのが正解です。

  • インバータの損失
  • 電源の損失
  • トランスの発熱
  • リレーのコイル消費電力 × 個数
  • PLCユニットの消費電力
  • 電線の抵抗分発熱……

これをすべて合算すれば、完璧な Q(総発熱量)が出ます。

しかし、実務で部品が100個あるときに、これをやる時間はありますか? 正直、厳しいですよね。

【現実】現場の抜け道(熱の御三家メソッド)

そこで、プロの設計者はこう考えます。

「盤内の熱の9割は、たった3種類の部品(熱の御三家)から出ている」

残りの細かい部品(リレーやランプ)は誤差のようなものです。

ですから、「御三家だけ計算して、残りは係数でドン!」と処理しても、実用上は問題ありません。

▼ カタログを見ないで計算する「御三家」の目安

熱の御三家発熱量の目安(損失率)計算例
① インバータ / サーボモーター容量の 約5%2.2kW(2200W) × 0.05 = 110W
② スイッチング電源定格出力の 約10〜15%300W × 0.15 = 45W
③ トランス(変圧器)定格容量の 約3〜5%500VA × 0.05 = 25W

【現場流の計算手順】

  1. 御三家の発熱量を合計する。(例:110 + 45 + 25 = 180W
  2. 計算しなかった細かい部品分として、1.2倍のマージンを掛ける。
「熱の御三家」の発熱量を合計し、安全率1.2倍を掛けることで総発熱量Q(W)を求める簡易計算式。カタログを全て調べる手間を省くための現場の抜け道テクニック。

これで、カタログを1冊も開かずに「敵の強さ(約216W)」が判明しました。

制御盤内の発熱源内訳を示す円グラフ。インバータ・サーボ(約50%)、スイッチング電源(約30%)、トランス(約10%)の「熱の御三家」だけで全体の約9割を占めることを示し、細かい計算を省略できる根拠を図示。

このように、御三家だけで全体の9割近くを占めているため、ここを押さえれば計算は十分なのです。

【コラム】なぜ「他は無視」していいの?(100個のリレー vs 1台のインバータ)

「本当に細かい部品を計算しなくて大丈夫?」と不安になるかもしれません。 しかし、これには物理的な裏付けがあります。扱っているエネルギーの桁が違うのです。

例えば、制御盤によくある「ミニチュアリレー(MY2など)」のコイル消費電力は、わずか 約0.9W です。 一方、2.2kWの「インバータ」が熱として捨てる損失は 約110W です。

つまり、「インバータ1台の発熱」は「リレー約120個分の発熱」に匹敵します。 盤内にリレーが50個あっても100個あっても、たった1台のインバータの前では誤差のようなもの。これが、御三家だけを押さえれば計算が合う理由です。

⚠️ ただし、唯一の例外「SSR」に注意! この「御三家ルール」には、たった一つだけ例外があります。 ヒーター制御などで使う「SSR(ソリッドステートリレー)」です。 こいつは小さな顔をして、猛烈な熱を出します(電流1Aあたり約1.5W)。もしSSRを10個、20個と並べて使う場合は、必ず計算に入れてください。こいつは「隠れ御三家」です。なぜSSRはそれほど熱が出るのか?という理由は、こちらの記事を読むとよく分かります。

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ステップ2:目標を決める(許容温度上昇値 ΔT)

次に、「盤の中を何度まで許せるか」を決めます。

  • 盤内目標温度: 一般的に 40℃以下 が理想(電子機器の寿命のため)。
  • 外気温度(MAX): 設置場所の夏場の気温。例えば 30℃ とします。

この差が、許される温度上昇値 ΔT(デルタT)です。

制御盤内の許容温度上昇値(ΔT)を求める式。目標とする盤内温度(例:40℃)から、設置場所の外気温度(例:30℃)を引いた差分(10℃)が冷却設計のターゲットとなることを示す。

つまり、「216Wの熱が出続けても、温度上昇を10℃以内に抑えたい」というのが今回のミッションです。


ステップ3:ファンを選定する「魔法の公式」

敵(216W)と目標(10℃以内)が決まりました。あとは、それを実現するために必要な風量 V (m3/min) を求めるだけです。

難しい流体計算は不要です。実務ではこの簡易式を使います。

必要風量V(m³/min)を求める簡易公式。「0.05 × 総発熱量Q(W) ÷ 許容温度上昇ΔT(℃)」という式で、難しい流体計算なしで必要なファンの能力を算出する方法。

(※定数0.05は空気の比熱や密度をまとめた実用的な概算値です)

先ほどの例で計算してみましょう。

具体的な数値を入れた風量計算の例。総発熱量216W、温度上昇10℃の場合、必要風量は1.08m³/minとなる計算結果。

⚠️ 最後の罠:実効風量は下がる

計算値 1.08 m3/min が出ましたが、このスペックギリギリのファンを選んではいけません。

カタログの風量は「障害物が何もない状態」の値です。実際には「フィルター(防塵網)」を付けたり、盤内がケーブルで混雑していたりするため、風の流れが悪くなります(圧力損失)。

一般的に、フィルター付きファンを使う場合、カタログ値の「6掛け(0.6倍)」程度しか風が出ないと考えます。

結論として、カタログスペックで「最大風量 1.8〜2.0 m3/min以上」のファンを選定するのが「プロの安全策」です。

⚡️ 盤内ファンの必要風量計算ツール

機器の容量を入力するだけで、発熱量を自動計算してファンを選定します。
(※記事内の「熱の御三家メソッド」に基づき計算します)

※モーター容量の合計 (kW)

※定格出力電力の合計 (W)

※定格容量の合計 (VA)

※SSRに流れる最大電流の合計 (A)

【Q&A】「メーカーの計算式と違う?」盤の表面積を無視する理由

▼ 理由を詳しく見る(クリックして展開)

鋭い方は、ファンメーカー(オリエンタルモーターなど)の公式サイトを見て、こう思ったかもしれません。

「メーカーの公式には『盤の表面積(自然放熱)』を引く項目があるのに、なぜこの計算では無視するの?」

結論から言うと、「現場で『絶対に熱暴走させない』ための安全策」として、あえて無視しています。

本来、制御盤は鉄板の表面からも熱が逃げていきます(自然放熱)。

メーカーの厳密な計算式は以下の通りです。

必要風量 = (総発熱量 - 自然放熱量)÷(20 ×ΔT)
の計算式

盤が大きければ大きいほど、勝手に熱が逃げていくため、本来はもっと小さいファンでも計算上は合格します。しかし、現場の実務では、以下の3つの理由から「自然放熱はゼロ(無視)」として計算するのが鉄則です。

理由①:夏場の工場は「逃げ場」がない

自然放熱は、「盤の中」と「盤の外」の温度差があって初めて成立します。しかし、真夏の工場は40℃近くになることもあります。さらに、盤の隣に装置や壁が密着していれば、放熱効果は期待できません。

「自然放熱」をあてにしてギリギリのファンを選定すると、真夏にキャパオーバーでラインが止まります。

理由②:計算コストの削減

自然放熱を計算するには、「盤の正確な表面積」「塗装の熱貫流率」などを調べる必要があります。忙しい設計業務の中で、ファン一つ選ぶのに1時間もかけていられません。この簡易式なら、カタログを見ずに3分で選定が終わります。

理由③:能力過剰は「罪」ではない

自然放熱を無視すると、計算結果は「実際よりも少し大きめのファン」になります。

  • ファンが小さすぎる: 熱暴走で部品が壊れる(致命傷)
  • ファンが少し大きい: よく冷えるだけ(数千円のコスト差のみ)

オムロンなどのFA機器メーカーの簡易選定ガイドでも、同様に自然放熱を無視した式が採用されています。このツールの計算結果は、メーカーの厳密式が「100点満点」だとしたら、余裕を持たせた「120点の安全設計」です。

自信を持って、この数値で選定してください。


配置の鉄則:空気の道を作れ

いいファンを選んでも、付け方を間違えると意味がありません。

① 対角線に配置する(ショートサーキット防止)

空気の入り口(吸気)と出口(排気)が近すぎると、空気が盤全体に行き渡らず、そこだけ回って終わってしまいます。これをショートサーキットと呼びます。

盤の「右下から吸って、左上から出す」ように対角線に配置し、盤全体を空気が流れるようにします。

② 「下から吸って、上から吐く」

温かい空気は軽くて上にたまります(煙突効果)。この自然な流れに逆らわないよう、吸気口(フィルター)は下排気ファンは上に付けるのが鉄則です。

冷却ファンの配置による空気の流れ比較図。左側(Good)は吸気と排気を対角線上に配置し、スムーズな冷却を実現。右側(Bad)は吸排気が近く、ショートサーキットが発生して熱だまり(ホットスポット)ができている悪い例。

図のように、対角線に配置することで盤全体を冷却できます。逆に吸排気が近いと、ショートサーキット(右図)が起こり、下部に熱がこもってしまいます。


まとめ:ファン選びは寿命選び

  1. 熱は寿命を削る: 10℃上がると寿命は半分になる。
  2. 計算はメリハリをつける:
    • 理想: 全部品を積算する。
    • 抜け道: 「御三家(インバータ・電源・トランス)」だけ計算して1.2倍する。
  3. マージンを見る: フィルターの抵抗を考え、計算値の1.5倍〜2倍のファンを選ぶ。

「真面目な計算」を知っているからこそ、「抜け道」を使っても安全な設計ができます。

たった3分の計算で、数年後のトラブルを防ぐことができます。次の設計からは、ぜひ電卓を叩いてみてください。

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