「シールド線も張った。アースも落とした。なのに、まだノイズが止まらない…」インバータやサーボが唸る制御盤内で、こんな症状に直面していませんか?
- アナログ信号(4-20mA)の数値がふらつく
- タッチパネルの通信エラーが散発する
- 調査しても「配線ミス」が見つからない
もし一つでも当てはまるなら、原因は「ケーブルの選び方」にあります。
ベテラン設計者はこう断言します。 「そこ、ツイストペア線に変えておけ」
なぜ、金属の壁で守るシールド線よりも、ただ電線を「ねじねじ」しただけの隙間だらけの線が最強なのか? 実はこれ、魔法でもなんでもなく、物理法則を利用してノイズを自滅させる「攻撃的な防御」なのです。
本記事では実務9年の電気設計者がLANケーブルや計装線で使われる「ツイスト(撚り)」の物理的メカニズムと、現場でやってはいけない「3つのNG施工」を徹底解説します。
この記事を読めば、あなたは「なんとなく選定」を卒業し、「ノイズを理論的にねじ伏せるエンジニア」へと進化できるでしょう。
【原理】ノイズを「自己消滅」させる仕組み
まず、なぜねじるとノイズが消えるのか? 基本メカニズムは「柔道」と同じです。相手の力を利用して投げ飛ばすのです。
平行線は「巨大なアンテナ」である

まず、敵(ノイズ)の侵入経路を知りましょう。 往復の電線(行き・帰り)の間には、必ず隙間があります。この隙間が囲む面積を「ループ面積」と呼びます。
このループは、ノイズにとっては「的(マト)」そのものです。 インバータ等から飛んできた「磁束(ノイズのビーム)」がこのループを貫通すると、ファラデーの法則により「誘導起電力(ノイズ電圧)」が発生します。
- 平行線(VVFやキャブタイヤ): ループ面積が巨大で、ずっと一定方向を向いている。つまり、「どうぞノイズを乗せてください」と言わんばかりの巨大アンテナを配線しているのと同じです。
「逆向きの電圧」で相殺する(打ち消しの術)
そこで「ツイスト」の登場です。電線をねじると、ループの「表」と「裏」が交互に入れ替わります。これが物理的に劇的な効果を生みます。
- 1つ目の網目(表): ノイズ磁束を受けて「プラス方向」のノイズ電圧が発生。
- 2つ目の網目(裏): 電線がひっくり返っているため、同じ磁束を受けても「マイナス方向(逆向き)」のノイズ電圧が発生。
プラスのノイズと、マイナスのノイズ。 隣り合う網目で発生した「逆向きのノイズ」同士が、互いに打ち消し合う(相殺)。
つまり、ツイストペア線は、 「入ってきたノイズを、自分で自分と戦わせて消滅させる」というサイクルをケーブル全長にわたって繰り返しているのです。
コモンモードノイズを殺す「引き算の魔法」
さらに、RS-485などの差動伝送においては、もう一つの最強の効果を発揮します。 それが「運命共同体」の効果です。
2本の線をねじって密着させておくと、外部から強烈なノイズを浴びても、「2本とも全く同じ電圧のノイズ」が乗ります。 受信側の機器(オペアンプ等)は、「2本の電圧の差(引き算)」だけを信号として読み取ります。
- 信号線A: 5V(信号) + 100V(ノイズ) = 105V
- 信号線B: 0V(信号) + 100V(ノイズ) = 100V
- 受信側: 105V - 100V = 5V(ノイズ消滅!)
平行線だと、片方の線だけがノイズ源に近かったりして、このバランスが崩れます。 「2本を等しくねじって、同じ場所を通し、同じノイズを浴びせる」ことこそが、引き算を成立させるための絶対条件なのです。
【選定】「VCTF」を使ってはいけない理由
原理がわかれば、「どんな線をねじればいいか」が見えてきます。 ここで多くの新人が陥る罠があります。
なぜ電源線(VCTF)ではダメなのか?

「手元に余ってたから、電源用のVCTFケーブル(0.75sq)でRS-485を配線した」 これもよくあるトラブルの原因です。なぜダメなのでしょうか?
それは「特性インピーダンス」が合わないからです。 高周波の信号にとって、ケーブルはただの銅線ではなく「道」です。RS-485などの通信規格は、「100Ω〜120Ωの道(インピーダンス)」を通る前提で設計されています。
- 計装用ツイストペア: インピーダンスが管理されている(キレイな舗装道路)。
- VCTF(電源線): インピーダンスがバラバラ(砂利道)。
砂利道をスポーツカー(高速信号)が走るとどうなるか? タイヤが弾かれます。 これが電気の世界での「反射」です。反射した信号がノイズとなり、自分自身の通信を妨害してしまうのです。 通信線には、必ず「通信用」または「計装用」と書かれたケーブルを使ってください。
「ねじりの密度(ピッチ)」が周波数を決める
「適当にねじればいい」わけではありません。実は、「1メートルあたり何回ねじってあるか(ピッチ)」が重要です。
- 低い周波数のノイズ: 波長が長いので、荒いねじりでも相殺できる。
- 高い周波数のノイズ: 波長が短いので、細かくねじらないとすり抜ける。
LANケーブルの「Cat5e」と「Cat6」の違いをご存知ですか? 高速通信(高周波)に対応するCat6の方が、「ねじりの密度」が高く(細かく)なっています。 インバータのキャリア周波数のような「高い音(高周波)」を止めるには、より密にねじられた計装用ケーブルが必要になるのです。
【施工】効果をゼロにする「2つの禁じ手」
最後に、いくら高いケーブルを買っても、施工で一発アウトになるパターンを2つ紹介します。
1.恐怖の施工ミス「スプリットペア」

ツイストペア線には「赤・白」「赤・黒」といったペアがあります。これを無視して、「赤」と「黒(別のペア)」で信号を送ってしまうミスです。
- 正しい配線: 「赤」と「白(ペア)」で信号を送る。 → 相殺効果◎
- スプリットペア: 「赤」と「黒(別のペア)」で信号を送る。
これ、テスターで導通チェックをしても「導通OK」なので気づきません。 しかし物理的には、「ねじりの効果がゼロ」どころか、「巨大なループアンテナ」を形成してしまいます。 「線は繋がっているのに、なぜか通信エラーが出る」。その原因の多くが、このペアの組み合わせミスです。
2.端子台直前の「ほつれ」

最後に、現場でよくある致命的な施工ミスを紹介します。 端末処理で「ねじりを戻しすぎる」と、すべてが台無しになります。
端子台に繋ぐために、5cmも10cmもねじりを解いていませんか? その「解いた部分(平行部分)」が、制御盤内のノイズを拾うアンテナになります。
「ねじりは、端子台の直前まで維持する」
これが、ツイストペアの魔力を最後まで維持するための、プロの鉄則です。
まとめ
- 原理: 「ねじり」による磁界の打ち消し合いでノイズを消す。
- 選定: インピーダンス(舗装)とピッチ(密度)が合った専用線を使う。
- 施工: ペアを絶対に崩さず、端子のギリギリまでねじりを維持する。
4-20mA計装信号、RS-485、エンコーダ信号。これら「微弱な信号」を扱う際、VVFや普通のキャブタイヤを使うのは自殺行為です。 目に見えない物理現象を理解し、正しいケーブルで「攻撃的な防御」を構築してください。
「たかが電線、されど電線」。 目に見えない物理現象を理解してケーブルを選ぶことが、最強のノイズ対策になります。
シリーズ完結・まとめ
【完結】ノイズ対策全6回、読破おめでとうございます!
これで、電源入力から信号末端まで、あなたの設計は隙のない「完全防御」となりました。ノイズトラブルは「見えない」からこそ怖い。
ですが、「物理法則」というメガネを掛ければ、必ず原因と対策が見えてきます。明日からの設計で、ぜひこの知識を武器に戦ってください!