「電源を入れた瞬間に、一次側のブレーカーが飛んでしまった…」 「DC24Vの分岐回路、なんとなくAC用と同じブレーカーを選んでいる」
制御盤の心臓部であり、PLCや各種センサーにクリーンな血液を送るスイッチング電源(DC24V)。
「とりあえずトランスと同じようにブレーカーを選べばいい」と考えているなら、今すぐその図面を見直してください。
スイッチング電源の保護設計は、トランスやモーターといった一般的なAC負荷とは全く異なる、特有の突入電流メカニズムを持っています。
実務9年のFA電気設計者として断言しますが、パワーサプライの保護設計を誤ると、盤内火災や原因不明の全停止を引き起こします。
結論から言えば、スイッチング電源の保護は「一次側は凶悪な突入電流から逃げること」「二次側は用途別にグループ化し、末端の弱い機器を確実に守ること」が絶対の鉄則です。
しかし、単純な計算だけで選定すると、「電圧上昇による突入電流の倍増」という見えない罠にハマり、盤が立ち上がらなくなります。
本記事では、初心者が陥る一次側(AC入力)の罠から、二次側(DC出力)におけるCP(サーキットプロテクタ)の真の目的まで、現場で盤を落とさないための極意を解説します。
一次側(AC側)の鉄則:コンデンサ・インプット型の「突入電流」を回避せよ

トランスの一次側ブレーカーは励磁突入電流を回避するために選定しますが、スイッチング電源の突入電流はメカニズムも波形も全く異なります。
スイッチング電源の入力回路は「コンデンサ・インプット型」となっています。
電源を入れた直後、内部の平滑コンデンサを急激に充電するため、一瞬ですが「短絡(ショート)に近い状態」になります。
この時流れる突入電流は、数十アンペアという非常に高く鋭いパルス波形となります。
さらに、複数の電源を並列接続して使用した場合、このピーク電流は「各電源の突入電流の総和」となって主幹ブレーカーに襲い掛かります。
入力電圧200V時に発生する「突入電流の逆転現象」
一次側のブレーカー選定で、初心者が最も陥りやすい罠があります。それが「入力電圧による突入電流の跳ね上がり」です。
現在のパワーサプライはフリー電源(AC100V〜240V対応)が主流です。
電気の基本として「電圧が100Vから200Vに上がれば、定常電流は半分になる」と誰もが知っています。しかし、「突入電流」は逆に約2倍に膨れ上がるという事実を見落としていないでしょうか?
【例:オムロン S8VK-S 240Wの場合】
- AC115V時: 定常 2.4A / 突入 16A
- AC230V時: 定常 1.3A / 突入 32A
「今回の盤は200V入力だから、定常電流が半分で済む。主幹ブレーカーの容量も一段階小さくしてコストダウンしよう」
初心者がカタログの「定常電流」だけを見てこう設計すると、いざ現場で電源を入れた瞬間にブレーカーが即座に飛んで立ち上がりません。
定常電流が減ったからといってブレーカー容量を安易に下げるのはNGです。2倍に膨れ上がった突入電流のピークに耐えられなくなるからです。
一次側のブレーカーは、「使用する最大電圧時の突入電流ピーク値」をカタログで確認し、そのパルス電流に耐えうる容量を持った製品を選定してください。
《警告》電源内蔵の「ヒューズ」に対する過信と現実
一次側の保護について、初心者が陥りがちな勘違いに触れておきます。
「スイッチング電源には内部にヒューズが入っているから、万が一異常があってもヒューズが切れて守ってくれるはずだ。一次側の選定は多少適当でも大丈夫だろう」という考えです。
この場ではっきりと現実をお伝えします。 メーカーの公式技術資料などを見れば分かるとおり、内蔵ヒューズが切れる時、それは電源が保護された時ではありません。
「電源内部の回路がすでに致命的に破壊(ショート)され、外部への短絡電流による盤内火災を防ぐための『最後の自爆装置』が作動した時」です。
内蔵ヒューズが切れた時点で、パワーサプライの内部回路が破損している場合がほとんどです。ヒューズは電源を救うためのものではなく、最悪の事態を防ぐためのストッパーに過ぎません。だからこそ、「内蔵ヒューズがあるから大丈夫」と適当に済ませるのではなく、ここで設計者の「意図」が明確に問われるのです。
- パワーサプライ自体が壊れる(ヒューズが切れる)のは許容し、とにかく盤内火災(配線の焼損)だけは絶対に防ぐなら、配線保護用の「NFB/MCCB」を選ぶ。
- 内蔵ヒューズが切れる前に異常を検知し、パワーサプライという機器そのものまで守りたいなら、定格を細かく合わせた機器保護用の「CP」を選ぶ。
「何を、どこまで守るか」。この設計意図を明確にした上で、適切なブレーカーを設置しなければならないのです。
《CPは必ず「分岐先」で使用すること》
ここで一つ、注意点をお伝えします。
「機器を細かく守れるなら、盤の大元(主幹)のブレーカーもCPにしてしまえばいいのでは?」というのはNGです。CPはあくまで「機器保護用」の補助的なブレーカーであり、NFBに比べて「短絡遮断容量(ショートした時に安全に電気を断ち切れる限界のパワー)」が非常に小さく作られています。盤の大元の引き込み口でショートが起きた場合、CPではその莫大なエネルギーを遮断しきれず、CP本体が破裂・炎上する大事故に繋がります。
CPを一次側(AC側)の保護に使う場合は、「必ず大元に十分な遮断容量を持った主幹NFBが設置されており、そこからパワーサプライへと分かれた『分岐先』の回路であること」が条件です。主幹ブレーカーとしての役割は、CPには担えません。
二次側(DC側)保護の鉄則:CPの「目的」

一次側で無事に電源を立ち上げたら、次は二次側(DC24V側)の分岐回路です。
世の中にある制御盤を開けてみると、「パワーサプライの二次側にCP(サーキットプロテクタ)が一切ついていない」というケースは決して珍しくありません。
理由は「コスト」と「省スペース化」です。しかし、設計者として、CPを省く前に「CPの目的」を正しく理解しておく必要があります。
目的:電源の持つパワーによる「過負荷」から、末端の機器を守る
ここで多くの初心者が「スイッチング電源に保護機能があるから、二次側にCP(サーキットプロテクタ)は要らないだろう」と考えます。
確かに、電源本体には定格以上の電流が流れると出力を絞る「過電流保護機能(OCP)」が標準で内蔵されています。
「3Aの小さな電源」から「2Aの機器(2A以上の太さの配線)」へ繋ぐような構成であれば、過負荷が起きても電源のOCPが先に働いて機器(負荷)を守ってくれます。
しかし、これはあくまで「電源自身が燃えないための自己防衛」が、偶然にも末端の「負荷(機器)」を守ってくれたに過ぎません。
実際の盤設計では、盤の省スペース化や部品の標準化のため、小さな電源を複数並べるのではなく、「10A(240W)」などの大きな電源1台で複数の機器を賄うことも多いです。ここからが本当の恐怖です。
【危険な過負荷の例】
- 容量10A(240W)の大きな電源を使用
- そこから、定格「2A」の機器(センサー等)を接続
- 機器が故障し、5Aの過負荷電流がジワジワと流れ続けた場合
この時、電源本体は「10A以下だから正常範囲内だ!」と判断して、異常な5Aを全力で流し続けます。
結果として、電源は無傷でも、末端の機器は異常発熱して焼損し、それに耐えきれなくなった細い配線もろとも盤内火災に繋がります。
(※ただし、容量が100W以下に制限された「UL Class 2」適合の電源を使用する場合は、出力エネルギーが物理的に制限されるため、二次側にCPがなくても発火のリスクは低減されます。問題なのは、それ以上の大容量電源を直結した場合です)
これを防ぐために、「その分岐回路の最も弱い部分(機器の定格)」に合わせた容量(例えば2A)のCPを設置し、大元の電源が見過ごしてしまう過負荷電流をピンポイントで遮断するのです。これがCPを設置する最大の目的です。
「用途別のグループ化」で盤の頭脳を死守する
二次側保護の目的を考える際、設計者はまず「2つの異なる保護」を明確に区別しなければなりません。
- 個別保護: 機器そのものの焼損や、そこに至る細い配線を守る。
- 系統保護: 1箇所の異常によって大元の電源が落ち、盤全体が沈黙する「共倒れ(全滅)」を防ぐ。
すべての末端機器1つ1つに、その定格に合わせた個別のCPを付けることができれば、それは「完璧な個別保護」となります。しかし、実際の現場において、スペースやコストの制約からそれは現実的ではありません。
そこで、実務におけるベターな妥協案として採用されるのが、『用途ごとにグループ化(系統分け)して、その幹にCPを置くこと』です。
グループの幹に大きな容量のCPを置く以上、ぶら下がっている末端機器1つ1つの小さな過負荷は検出できなくなります。つまり、「グループ化」とは末端の個別保護を捨ててでも、システム全体の全滅を防ぐための「系統保護」に特化した設計思想なのです。
電源からいきなり機器へ繋ぐのではなく、主に以下のようなグループに分割してCPを配置します。
- ① 制御系グループ(PLC、タッチパネルなど): 盤の頭脳。エラーログを残すためにも、何があっても最後まで生かしておきたい最重要系統。
- ② 入力系グループ(各種センサーなど): 比較的消費電流が小さく、外部からのダメージを受けにくい系統。
- ③ 出力系グループ(電磁弁、リレー、コンタクタなど): 外部の可動部を動かすため、最も劣化や動作不良による「過負荷」が起きやすい危険な系統。(※小規模な盤なら入出力をまとめることもあります)
- ④ 安全系グループ(セーフティコントローラなど): 他の影響を受けないよう、独立して保護すべき系統。(※電源を共有せざるを得ない場合でも、最低限CPでの切り離しは必須)
例えば、最も過負荷が起きやすい「出力系」で、機器の劣化等による「過負荷電流(ジワジワとした定格オーバー)」が流れ続けたとします。
もしCPがなく直結されていれば、やがて大元の電源が過電流保護(OCP)を発動し、盤全体が全滅します。
しかし、この用途別のグループ分けをしていれば、異常が拡大した時点で「出力系のCP」だけがトリップし、異常回路をシステムから切り離してくれます。過負荷を起こした末端の電磁弁そのものは焼損してしまうかもしれませんが、大元の電源と盤の頭脳であるPLCは確実に生き残ります。PLCが生きているからこそ、どの系統で異常が起きたのかアラームを出すことができ、トラブル時の復旧時間を劇的に短縮できるのです。
(※一瞬の大電流である「短絡」が引き起こす絶望的なトラブルについては、後編で詳しく解説します)
前編のまとめと次なる壁への挑戦
一次側(AC側)に潜む「コンデンサ・インプット型の突入電流の恐怖」と、二次側(DC側)の「電源のパワーによる過負荷から機器を守る」という、保護設計の根幹となる思想を解説しました。
「なぜブレーカーが飛ぶのか?」「なぜCPをグループ分けして配置するのか?」 この「設計の理由(Why)」が腑に落ちていれば、あなたの盤面設計はすでに素人の域を脱しています。
しかし、実務の設計はここからが本番です。 配置する場所が決まったら、次はいよいよ「メーカーのカタログ」を開いて具体的な型式を選定しなければなりません。
- 特性曲線をどう読み解き、NFBやCPで突入電流からどう逃げ切るのか?
- 二次側の「M形」「I形」の正しい使い分けとは?
- さらに、メカ式CPが勝てない「短絡(ショート)による道連れリセットの絶望」とは?
次回の【後編:パワーサプライの保護の鉄則!特性曲線の見方とCPの限界】では、これらの実務的なテクニックを解説します。
▶パワーサプライ保護の鉄則【後編】特性曲線の見方とメカ式CPの限界