盤の「顔」となる主幹ブレーカー。その容量(AT:アンペアトリップ)を決める際、盤内のモーターやヒーター、電源の電流値を「とりあえず全部足し算」して選んでいませんか?
もし単純な足し算だけで主幹ブレーカーを選定してしまうと、無駄に巨大なブレーカーが必要になり、それに合わせて一次側の引き込みケーブルも極太になります。結果として、盤のコストが跳ね上がり、現場での配線作業も非常に困難になってしまいます。
主幹ブレーカーの容量は、単純な足し算ではなく、以下の2つの視点を持って計算するのが鉄則です。
- 実際に全部の機器が同時に動くのか?(需要率)
- 将来どれくらい機器が増えるのか?(マージン)
ただし、制御回路の「大物機器」を見落とすと、需要率を読み間違えて運用中にブレーカーが落ちる罠も存在します。 本記事では、FA電気設計歴9年の筆者が、机上の空論ではない「根拠のある安全な主幹容量(AT)」を割り出すための3ステップを解説します。
【STEP 1】盤内全負荷の「最大電流」を洗い出す
まずは、盤内にぶら下がるすべての電気機器が「一斉に稼働したらいくら電気を食うのか」をリストアップします。ここでは時間軸(タイミング)は一旦忘れ、純粋な「容量の限界値」を足し合わせます。動力と制御で拾い方が異なります。
- 動力回路(モーター・ヒーターなど):
モーター銘板やカタログに記載されている「定格電流値」を拾い出します。インバータやサーボアンプを使用している場合は、モーター側ではなく、アンプの一次側(入力側)の電源設備容量(kVA)等から換算した最大入力電流値を見ます。これらが同時に動いた場合、カタログ通りの数値を消費します。 - 制御回路(DC24V電源・トランスなど): パワーサプライの一次側電流を拾う際、カタログの最大入力電流をそのまま100%で足してはいけません。なぜなら、設計時に二次側の総負荷に対して20〜30%程度の余裕(マージン)を持たせているため、二次側の全機器が同時にONになっても、電源が100%の限界能力で消費されることはないはずです。そのため、自分が設計したマージン分を逆算し、カタログの一次側定格電流に実際の最大負荷率(70〜80%程度)を掛けた数値を、制御回路がすべて同時に動いた時の「現実的な限界値」として拾い出します。
これらをすべて足し合わせた数値が、「盤内の全機器がそれぞれの計算上の最大値で同時稼働したと仮定した総電流(仮のMAX値)」となります。
【STEP 2】全部が同時に動くのか?「需要率」の掛け算

STEP 1で出した「仮のMAX値」は、すべての機器が同時に動くという前提の数値です。しかし実際の設備において、モーターやヒーターなどの「動力回路」がすべて同じタイミングで全開になることは稀です。
ここで、時間軸(動作タイミングのズレ)を考慮した「需要率(デマンドファクター)」を掛け算し、現実的な数値へと割り引いていきます。
① 動力回路は「需要率(同時に動くか?)」を掛ける
▼ 実務における「需要率」の目安(相場観)
まずは、設備特性による大まかな目安を知っておきましょう。
- 需要率 100%(1.0): 常に全機器がフル稼働する設備。(例:常時回り続ける搬送コンベア群、単一の大型ポンプ盤など)
- 需要率 80%〜90%(0.8〜0.9): 一般的な自動機や工作機械。複数のモーターやヒーターが連動して動くが、同時に全開になる瞬間は少ない設備。
- 需要率 60%〜70%(0.6〜0.7): 多数の駆動部品があるが、順番に動作する(待機時間が長い)など、同時稼働率が極めて低い設備。
▼ 正確に計算するための「ワーストケースの洗い出し」
上記の目安で「だいたい80%くらいかな」とアタリをつけるのは良いですが、そのままなんとなく決定してしまうのは危険です。本当に安全で無駄のない主幹ブレーカーを選ぶためには、ここから機械の「タイムチャート(動作サイクル)」を確認し、正確な需要率を洗い出していく必要があります。
- 交互運転がないか?:
2台のポンプ(各10A)があっても、制御上「1台稼働・1台待機」なら最大消費は10A(需要率50%)になります。 - ヒーターのピークはいつか?:
例えばヒーターを搭載した装置の場合、「立ち上げ時」はヒーターが100%でフル加熱しますが、モーターは停止しているかもしれません。逆に「生産中」はモーターがフル稼働(100%)しますが、ヒーターは温度維持のため50%の出力に落ち着いているかもしれません。
「ヒーター100%+モーター0%」の立ち上げ時と、「ヒーター50%+モーター100%」の生産中。タイムチャートを比較し、盤全体として足し算した電流が最も大きくなる瞬間を見つけ出し、その数値を現実的な最大電流(実質負荷)として割り出します。
このように、「機械全体が最も電気を食う瞬間(ワーストケース)」の電流値をタイムチャートから論理的に算出し、STEP1の仮のMAX値から現実的な最大電流(実質負荷)を割り出します。これができれば、誰に対しても自信を持って「この盤の主幹は〇〇Aです」と根拠を説明できるようになります。
② 制御回路は「実負荷率」と「大物機器のタイミング」を見る
制御回路(DC24V電源やトランスなど)の計算は、盤の規模や接続されている機器によって、2つの視点を使い分ける必要があります。
A. ベース負荷(PLC・小型センサー・小型電磁弁など)
【真面目な計算式(教科書通り)】
本来、最も正確に計算するのであれば、タイムチャートから「同時にONになるセンサーや電磁弁の最大数」を洗い出し、それぞれの消費電力(W)をすべて足し合わせ、そこからパワーサプライの一次側電流を逆算して算出します。几帳面に極限まで精度を追求したい場合はこの方法を取ります。
【現場の抜け道(実務のざっくり計算)】
しかし、主幹容量(数十A〜)を決める計算において、数WのセンサーのON/OFFによる電流変動は誤差レベルです。そのため実務では、STEP 1で算出した数値(設計マージンを逆算した現実的な限界値)を、「常に100%かかり続けているベース負荷」としてそのまま採用し、計算に加算する「ざっくり計算」が一般的です。
B. 大物アクチュエータ(電動シリンダなど)の需要率計算
DC24V駆動でも数A〜数十Aを消費する大物機器が複数存在することがあります。これらが制御回路に含まれる場合は、動力回路と全く同じようにタイムチャートを確認し、「同時に何軸動くのか?」という需要率(ワーストケース)を掛け算して実質負荷を割り出してください。
【STEP 3】将来の「増設マージン」を見込んでATを決定する

STEP2で現実的な最大電流(実質負荷)を割り出したら、最後に将来のための「マージン(余裕分)」を足し合わせます。
ここで初心者が陥りがちなのが、「計算が間違っていたら怖いから、とりあえず全体に20%~30%くらい足しておこう」という根拠のないどんぶり勘定です。
これをやってしまうと、せっかくSTEP2で需要率を計算してスリムにした主幹容量が再び巨大化し、一次側の極太ケーブルや大型ブレーカーによって盤のコストとサイズを無駄に圧迫してしまいます。
正しいマージンの取り方は、「客先の仕様書(要求)や将来の構想に基づくこと」です。
例えば、「将来的に同じモーター(10A)をもう1台増設するスペースを空けておく」「予備の分岐ブレーカー(15A分)を2つ設けてほしい」といった、明確な根拠となる数値を加算します。特段の増設計画がなければ、無闇に巨大なマージンを取る必要はありません。
▼ 定格電流(AT)の最終計算式
(STEP2で算出した制御回路の実質負荷 + 動力回路の実質負荷) + 増設マージン = 最終的な最大電流値(A)
この最終計算値が出たら、各ブレーカーメーカーのカタログを開きます。ブレーカーのAT(アンペアトリップ)は、15A、20A、30A、40A、50A、60A、75A、100A…といったように標準的な規格が決まっています。カタログの中から、算出した最大電流値の「直近上位の標準定格(AT)」を選定します。
(例:計算値が42Aになった場合、直近上位である「50AT」のブレーカーを選定する)
これで、誰に聞かれても堂々と根拠を説明できる、無駄のないスッキリとした主幹容量(AT)の計算は完了です!
次のステップへ:容量(AT)が決まったら…
AT(アンペア数)の計算ができたら、主幹ブレーカーの選定はあと一息です。
しかし、主幹ブレーカーは盤の大元を守る絶対的な門番です。容量(AT)が合っていても、工場の短絡電流に耐えられる枠番(AF)と遮断容量(IR)を選ばなければ、万が一のショート時に火災に繋がります。また、インバータやサーボアンプの載った盤では、漏電遮断器(ELCB)の不要トリップ対策も必須の知識となります。
完璧な主幹ブレーカーを選定するために、以下の専用記事へ進み、安全規格と漏電対策の総仕上げを行ってください。
- 型式の決定(AFとIRの確認):
▶【ブレーカー選定】ブレーカー選定の鉄則!AT・AF・IRの決定手順と危険な誤解 - 主幹用漏電遮断器(ELCB)の選び方:
▶【ELCB誤動作対策】インバータでブレーカーが落ちる! 感度を上げる前の「保護協調」の正解