- モーター負荷に標準のCP(M形)を選んでいる
- CPを付ければ「短絡(ショート)」でも安心だと思っている
二次側の「特性」選定を間違えると、突入電流による道連れリセットという地獄を見ます。 現役FA設計者の私が、カタログの「動作特性曲線」の実践的な読み解き方と、メカ式CPが抱える残酷な限界を徹底解説します。
結論、負荷に合わせてI形・M形を使い分けるのが鉄則です。しかし、完璧に選定しても「短絡時には大元の電源が全落ちする」という物理的な限界は防げません。
この記事を読めば、特性曲線を実務で使いこなし、ワンランク上の「止まらない制御盤」を設計できるようになります。
【一次側の実践】カタログから導き出すAT選定と「突入電流」の回避
前編(▶パワーサプライ保護の鉄則【前編】一次・二次CP選定と全落ちの罠)で解説した通り、保護設計の目的は「一次側は突入電流の回避」「二次側は機器の保護」です。では、具体的にどの仕様のブレーカー(またはCP)を選べばいいのでしょうか。
《補足:一次側はNFB(MCCB)か、CPか?》
一次側のブレーカーは「配線保護を優先してNFB」にするか、「機器保護を優先してCP」にするか、設計者の意図によって選択が分かれます。(※省スペース化や定格の細かさから、あえて一次側にCPを選ぶケースも多々あります)。 しかし、NFBであれCPであれ「スイッチング電源の凶悪な突入電流から逃げ切れるか」という問題は共通して発生します。 適当な定格を選ぶと電源を入れた瞬間に飛びます。これを防ぐために必須となるのが「動作特性曲線」の読み解きです。
動作特性曲線は「一次側・二次側で発生する一瞬の過大電流を、いかにやり過ごすか(誤作動を防ぐか)」を確認するための必須ツールです。

上図は、流体電磁式サーキットプロテクタの特性曲線の概念図です。横軸が「電流(%)」、縦軸が「作動時間(秒)」を示しており、作動スピードの違いによって中速形(M)、高速形(F)、瞬時形(I)などの種類が存在します。 この曲線をどう読み解き、実務の設計に落とし込むのかを解説します。
AT(定格電流)の決定と「突入電流」のプロット
まずは一次側の定格電流(AT:アンペアトリップ)を決めます。基本は、パワーサプライの「定常入力電流」の1.25倍程度を目安にします。(※どれくらいの余裕を持たせるかは、各社の設計基準や盤内温度のディレーティング等によります。)
例えば、入力電流が最大2.4Aの電源なら、1.25倍で「3.0A」となります。ここから「同等、もしくは直近の上位の定格」である3Aの製品を候補とします。
次に、この「3AのCP」が電源投入時の突入電流に耐えられるか(飛ばないか)を検証します。
例えばオムロンのS8VK-S(240W)をAC230Vで起動した場合、カタログ値で「32A・約5ms」の突入電流が発生します。これをCPの定格(3A)で割ってみましょう。
32A ÷ 3A = 約10.6倍(1066%)
では、この「電流1066%・時間5ms(0.005秒)」という数値をどう使うのでしょうか。 答えは簡単です。メーカーのカタログにある特性図を開き、X軸(1066%)とY軸(0.005秒)が交差する位置に「点」を打つ(プロットする)のです。
ジャッジの基準は非常にシンプルです。 打った点が、ブレーカーの特性曲線(帯)よりも「左下(下側)」の何もない空間に収まっていれば、ブレーカーは落ちません。逆に、帯に少しでも触れていたり、帯を突き抜けて「右上(上側)」に位置していれば、電源を入れた瞬間にトリップの危険性があります。
【なぜ曲線は「線」ではなく「帯」なのか?】
カタログの曲線が太い帯状になっているのは、製品の製造上のバラツキ(個体差)を示しているためです。帯の右側の線は「最も粘ってから落ちる最大時間」、そして左側の線は「最も早く落ちてしまう最小時間」を意味します。 私たちは「絶対に誤作動させない(不意に落とさない)」ための設計をしているのですから、最悪のケースである「左側の線(下限ライン)」を基準にジャッジしなければなりません。
《実務の罠》ギリギリを攻めると「ホットスタート(再投入)」で飛ぶ
ここまでカタログの特性図を基準に解説してきました。突入電流が発生するのは「電源を投入した瞬間(=まだ電流が流れておらず、ブレーカーが冷え切っているコールドスタート状態)」であるため、まずはカタログに載っている基準曲線(コールドスタート前提)に当てはめて計算するのは正しいアプローチです。
しかし、実際の現場ではどうでしょうか。 朝一番の立ち上げ(冷えた状態)なら計算通り耐えられたとしても、稼働中に何らかの理由で盤の電源を落とし、すぐに再投入する場面(ホットスタート)は頻繁に発生します。
流体電磁式に限らず、熱動電磁式などのメカ式ブレーカーは、盤内温度が高かったり、直前まで電流が流れて熱を持っている状態で再投入すると「カタログのグラフよりもさらに早くトリップする(曲線が左にシフトする)」という厄介な特性を持っています。
標準品の限界と、イナーシャルディレイの防衛線
実際の三菱電機のカタログ(CP30-BAなど)で仕様を確認すると、標準の「中速形(M)」が誤作動せずに耐えられる限界ラインは、0.01秒の時点で「1000%付近」に設定されています。
つまり、先ほど計算した「1066%」の突入電流は、M形の限界を超えて完全にトリップの危険領域に入ってしまいます。標準品では電源を入れるたびにブレーカーが飛ぶ「ギャンブル盤」になるということです。
この確実な誤作動を回避するために選ぶのが「イナーシャルディレイ(慣性遅延機構)」を備えたブレーカーです。これは、トランスやランプ負荷などの突入電流で不要動作しないように特別に工夫された装置です。
三菱電機のカタログには、MD形の耐量について「定格電流の20倍(2000%)の波高値(パルス時間=8ms)の非繰返し1発パルスに耐える」と記載されています。
突入電流は1066%(約5ms)ですから、MD形を選べば「十分な余裕を持ってパルスをやり過ごせる」のです。コンデンサ・インプット型の鋭い突入電流をいなすためには、このイナーシャルディレイ付(三菱電機のCPなら末尾が「MD」や「SD」の型式)を選ぶのが定石です。
【MD形は「魔法の盾」ではない】
「じゃあMD形にしておけば、盤内に240Wの電源を2台並列で繋いでも大丈夫だね!」 ……もしここでそう判断してしまったなら、その設計は現場で確実に「電源を入れた瞬間にブレーカーが飛ぶ」というトラブルを引き起こします。電源が2台になれば、突入電流は単純計算で2倍の「64A(2133%)」に達します。 MD形の公式限界値は「2000%」です。いくら突入電流に強いMD形であっても、2133%という大電流がぶつかれば公式の限界値を突破し、完全に即トリップの領域に激突します。
つまり、「大容量のスイッチング電源を複数台繋ぐ場合、1つのブレーカーでまとめて受けようとすると、MD形を使っても突入電流で落ちる」ということです。これが「電源ごとに一次側のブレーカー(回路)を分ける」という設計を行う根拠なのです。
回路を分けずに「分母(AT)」を操作して逃げ切る手法
「MD形でも耐えられない。でも盤のスペース的にブレーカーの数は増やしたくない。」
ここで設計者が使うもう一つのカードが、「CPの定格電流(AT)そのものを一段階上げる」という力技です。
突入電流が32Aのとき、CPの定格(分母)を変えると、特性グラフ上でプロットする位置(%)がどれほど劇的に変わるか計算してみましょう。
- 3A選定時: 32A ÷ 3A = 約1066%(MD形でさえ首の皮一枚の危険域)
- 5A選定時: 32A ÷ 5A = 640%(MD形なら余裕、標準のM形でも安全圏)
定格を「3Aから5A」に一段階引き上げるだけで、突入電流のダメージは640%まで激減します。先ほどの特性図を思い出してください。640%という数値は、どの特性曲線においても「垂直落下」が始まる前の、まだ十分にタメが効く安全領域です。 つまり、定格を上げるという行為は、グラフ上のプロット地点を強引に「左側の安全地帯」へ引きずり戻す、極めて実務的で有効な回避策なのです。
「定格UP」の代償。保護機器の「設計意図」を忘れるな
「なるほど! じゃあ突入電流で落ちないように、最初から5Aや10Aの余裕のあるブレーカーを選んでおけば安心だ」
……もしここでそう判断してしまったなら、その設計は現場に時限爆弾を仕掛けることになります。
そもそも、NFB(配線用遮断器)は「電線(配線)の保護」、CP(機器保護用遮断器)は「機器の保護」を目的として設計されています。設計意図は異なりますが、「設定された電流値を超えたら物理的に遮断する」という動作原理はどちらも同じです。
定格(AT)を上げるということは、ブレーカーが「より大きな電流が流れるまで遮断しなくなる(鈍感になる)」ことを意味します。突入電流から逃げるためだけに、本来3Aで守れる回路に対して「10A」のブレーカーをつけてしまったらどうなるでしょうか。
万が一、電源本体の内部劣化などで一次側にジワジワとした異常電流(例えば9A)が流れ続けたとします。10Aのブレーカーは、それがNFBであれCPであれ「9Aならまだ定格内だ」と判断して一切遮断しません。結果として、ブレーカーが静観している間に、守るべき電源本体が限界を超えて発熱し、最悪の場合は焼損・火災を引き起こします。
《補足:絶対に忘れてはならない「分岐配線」との整合性》
電源の保護限界を見極めることとセットで絶対に忘れてはならないのが、ブレーカーから電源へと繋がる「一次側配線(電線)の太さ」です。「ブレーカーの定格(AT)を上げるなら、その電流値に耐えうる太さの電線(例:0.75sqや1.25sqなど)へと張り直す。」定格UPという手法をとる場合、このルールは絶対です。
「突入電流を避けるために定格(AT)を上げるのは有効な手段だが、それは無制限に上げて良いわけではない。あくまで『機器がその上がった電流値に耐えられるか』、そして『配線の太さは適切か』という保護協調の限界点を探る作業である」
「盤の立ち上げ時の誤作動(突入)を恐れるあまり、機器の焼損リスク(過負荷)を生み出してはならない。」
これが、定格UPという裏技に潜む最大の罠です。突入電流からの回避と、機器保護のジレンマ。
このバランスを正確に見極めることこそが、CP選定の最大の要所なのです。
【二次側の実践】末端保護の定格選定と、負荷に応じた「特性(カーブ)」の使い分け
二次側(DC24V側)の分岐回路のCPの定格は、「電源の総容量」に合わせるのではなく、「その回路の最も弱い部分(機器の定格電流)」に合わせて選定します。
常に「負荷の電流値 < CPの定格 ≦ 配線の許容電流」という力関係を維持するのが基本です。
定格が決まったら、次は「動作特性(どれくらいの速さで遮断するか)」の選定です。 二次側の特性選びは、その回路に繋がる「負荷の性質」によって答えが変わります。
- ① 突入電流が大きい負荷(DCモータ、電磁弁、大容量コンデンサ内蔵センサーなど):
これらの機器は、起動時に一瞬だけ定格を大きく超える「起動電流(突入電流)」が流れます。この回路に動作の速い瞬時形(I)や高速形(F)を使ってしまうと、電源を入れた瞬間に誤作動してしまいます。突入電流をカタログの特性曲線にプロットし、パルスをやり過ごせる『中速形(M)』や、場合によっては『イナーシャルディレイ付(MD)』を意図的に選定します。 - ② 突入電流がほぼ無い負荷(LED表示灯、単純なリレー、一般的な小型センサーなど):
起動電流が発生しない回路に、わざわざ動作の遅いM形を使う理由はありません。誤作動のリスクが無いのであれば、万が一の過負荷が起きた際、機器が熱を持つ前に1ミリ秒でも早く回路を切り離すのが鉄則です。この場合は、迷わず最も動作の速い『瞬時形(I)』や『高速形(F)』を選定します。
二次側のCP選定とは、単なる容量合わせではありません。「負荷が持つ起動時のクセを理解し、誤作動を避けつつ、極限まで早く遮断できる最適なカーブを見つけ出すこと」なのです。
《警告》CP選定以前の問題! 電源の「容量不足」が招く道連れリセット
ここで、現場の設計者が陥りがちな落とし穴をお伝えします。
DCモータなどの突入電流に合わせて、正しく『中速形(M)』のCPを選び、CPが誤作動しない設計をしたとします。しかし、安心するのは早いです。
「そもそも、その巨大な突入電流を吐き出すための『大元の電源の容量』は足りているか?」という問題です。
モーターの突入電流がパワーサプライの限界を超えてしまったら、電源本体の過電流保護(OCP)が作動し、出力電圧(DC24V)を強制的にドロップ(低下)させます。
電圧が落ちると、同じ電源をもらっているPLCやセンサー類も道連れに低下するトラブルが発生します。これを回避するため、以下の2つの手を打ちます。
- ピーク電流対応電源を選ぶ: 突入電流の数秒間だけ、定格の150%の電流を数秒出しても電圧が落ちない特殊なパワーサプライ(例:オムロン S8VK-WAなど)を選定する。
- 電源本体を物理的に2台に分ける: 前編で解説した「CPによる回路のグループ化」ではなく、大元のパワーサプライ自体を2つに分割する対策です。突入電流を出す「動力系(モーターやバルブ)」と、電圧低下を極端に嫌う「制御系(PLCやセンサー)」で電源を完全に独立させます。
(※注意:電源を2台に増やした場合、本記事の前半で解説した通り、一次側のブレーカーも電源ごとに分けてください。1つのブレーカーでまとめると、突入電流の倍増によって立ち上げ時に落ちる可能性が高まります。)
CPの選定と同時に、「大元の電源の体力は足りているか?」を常に疑うこと。これが盤の安定稼働を約束する最後のピースです。
【限界】短絡時に牙を剥く「電源OCP vs 機械式CP」の不都合な真実

ここまで読めば、一次側も二次側も特性曲線を駆使して選定できるはずです。 過負荷(ジワジワとした発熱)や突入電流に対しては、メカ式CPは間違いなく機能します。
しかし、二次側で「完全な短絡(ショート)」が起きた時は話が別です。
短絡が発生した瞬間、スイッチング電源は自身の焼損を防ぐため、標準搭載されている過電流保護機能(フの字特性などの垂下特性)を作動させます。このOCPは物理的な接点を持たない「電子回路」であるため、目にも止まらぬ速さで出力を絞り、電圧をドロップさせます。
対して、メカ式CPが接点を切り離すまでには、どうあがいても「約0.01秒〜0.02秒(10ms〜20ms)」という物理的な時間がかかります。
お分かりでしょうか。 相手(電源)が数ミリ秒以下で落ちるのに対し、守る側(メカ式CP)は物理的に10ミリ秒以上かかってしまうのです。 「CPがショートを検知して動こうとしている間に、電源の電圧が落ちてしまい、短絡していない他の正常な分岐回路まで全て道連れにして盤が沈黙する。」
これが、特性曲線の時間軸と電源の電子回路スピードが噛み合わないことによって起こる、メカ式CPでは原理的に防ぎようがない「完全短絡時の道連れダウン」の正体です。
メカ式の限界を突破する「唯一の解決策」へ
突入電流を回避するためにCPの特性を遅くすればするほど、短絡時には電源OCPに確実に負けてしまう。この物理法則のジレンマを、メカ式CPで解決することは不可能です。
「じゃあ、DC24Vの分岐回路でショートが起きたら諦めるしかないのか?」 「突入電流を避けるために、わざわざ物理的なブレーカーを何個も並べて盤を大きくするしかないのか?」
相手(電源)が電子回路のスピードで落ちるなら、守る側(プロテクタ)も電子回路のスピードで遮断すればいいのです。 メカ式CPが抱える0.01秒の壁を突破し、短絡が起きた瞬間に「確実」に異常回路だけを切り離す最強の機器。それが「電子式サーキットプロテクタ」です。
さらに、多チャンネルの電子式CPを使えば、何個もメカ式CPを並べることなく、たった1台の省スペースで各回路の独立した保護と突入電流の管理が可能になります。
なぜメカ式の限界を突破できるのか、そして盤の小型化にどれほど貢献するのか。その圧倒的なメリットと使い方については、以下の記事で徹底解説しています。
▶【電子式ブレーカー】DC24V保護に「普通のブレーカ」は危険!配線が燃える理由と電子式のススメ