【図面】その「赤線」は本当にDC24Vか? 盤屋が震える「電線色」の罠と、図面より信じるべきもの

  • URLをコピーしました!

「この赤い線、DCのプラスですよね?」

テスターも当てずにそう判断しようとした新人に対し、私は静かに、しかし強い口調で「ちょっと待って」と制止しました。

なぜなら、その盤は「赤=AC100V」のルールで作られていたからです。

電気設計において「線の色」は、ただのデザインではありません。電圧の種類や危険度を伝える重要なメッセージです。しかし、現場には新旧規格の混在や、図面と現物の不一致という恐ろしい罠が潜んでいます。

今回は、初心者がやりがちな色の勘違いと、特に「既存機の改造案件」で必ず確認すべき鉄則について解説します。


目次

1. 恐怖の「赤色」ガチャ(DC24Vか? AC100Vか?)

現場で一番怖いのが、この「赤色の線」です。

皆さんの現場や、担当している顧客の設備では、どちらのルールが適用されていますか?

  1. 古いルール・社内独自ルール
    • 赤色 = DC24V(プラス)
    • 青色 = DC0V(マイナス)
    • ※メーカー独自の規格や古い設備では、「白=24V」「黒=24V」など、JISやIECとは異なるルールが採用されている場合も多々あります。
  2. 新JIS (IEC準拠) / 海外標準
    • 赤色 = AC制御回路(100V/200V)
    • 青色 = DC制御回路(24V)

ここが最大の落とし穴です。

「赤=DCのプラス」という感覚が染み付いている人が、新規格の盤(赤=AC制御)を見たとき、「DC24Vだろう」と油断して作業にかかると、AC100Vで短絡事故を起こしたり、感電したりするリスクがあります。

逆に、新規格しか知らない若手が、古い盤の「赤(DCプラス)」を見て混乱することもあります。

「赤」を見たら、まずは警戒してください。その赤は、あなたの知っている赤ではないかもしれません。


2. 一目でわかる!電線色のルール(IEC規格)

現場での感覚やローカルルールだけに頼らず、まずは「本来のルール(世界標準)」を知っておきましょう。

現在、国際標準(IEC 60204-1)および日本のJIS規格(JIS B 9960-1)では、以下のように推奨されています。

No回路の種類電線の色意味・注意点
交流電力回路動力(L1, L2, L3)など。中性線はライトブルーを使うことが多い。
直流電力回路規格上は黒だが、現場では識別のため色分けすることも多い。
保護導体緑・黄アース線(PE)。これは絶対の聖域。
交流制御回路AC100V/200Vの操作回路。
直流制御回路DC24Vなどの操作回路。
例外回路オレンジ最重要注意! メインブレーカーを切っても電気が来ている線。

特に気をつけたいのが⑥の「オレンジ色(例外回路)」です。

「盤のメインブレーカーを落としたからヨシ!」と思って作業していたら、他所の盤から来ているインターロック信号(オレンジ)が生きていて、「ビリッ!」と感電する……。

現場ではよくある「ヒヤリハット」の典型例です。

オレンジ色は「ブレーカーを切っても通電されたままの線」です。絶対に見落とさないでください。


3. センサ交換の罠:「黒い線」の裏切り

盤内の配線だけでなく、現場のセンサ交換にも「色の罠」があります。

古い機械のメンテナンスで、近接センサや光電センサを交換しようとした時、こんな経験はありませんか?

「あれ? 新しいセンサの線の色が違うぞ…?」

1990年代始めごろまで使われていた一般的なセンサと、現行の規格(IEC準拠)のセンサでは、ケーブルの色の意味が大きく異なります。

信号の意味一昔前のセンサ現行のセンサ (IEC準拠)
電源 (+V)
0V (GND)
出力 (OUT)

ここでの最大のリスクは「黒色」です。

  • 昔の黒 = 0V(マイナス)
  • 今の黒 = 出力(信号)

「黒はマイナスだろ」という昔の常識で、新しいセンサの黒線(出力)を電源のマイナス端子に繋いでしまうと、出力回路が短絡状態になります。

最近のセンサには保護回路が入っているものも多いですが、保護回路がないタイプであれば、最悪の場合センサが故障します。

センサ交換の際は、「同じ場所に同じ色を繋げばいい」とは限りません。必ずそのセンサの取扱説明書を確認してください。


4. 新規は「規格準拠」、では既存機は?

ここがプロとして腕の見せ所です。

当然ですが、新規案件であれば最新の規格(新JIS/IEC)に則って設計するのが大原則です。これからの標準に合わせていくべきだからです。

しかし、既存設備の改造・更新工事では話が変わります。

古いルール(赤白黒・黄色)で組まれた盤の中に、一部だけ新ルール(黒・赤・青)を持ち込むとどうなるでしょうか?

「同じ盤内に、違う意味を持つ『赤線』や『黒線』が混在する」 という、最も危険な状態になります。

改造工事の鉄則:「合わせる」か「変える」かを取り決める

だからこそ、既存機を触る際は、技術以上に「顧客との認識合わせ」が重要になります。

  • A案: 安全重視で、既設の盤に合わせて古い色で配線する。
  • B案: 将来を見据えて新規格にするが、混在箇所には明確な表示(タグなど)を行う。

設計者の独断で決めてはいけません。

「原則は新規格ですが、今回は誤認防止のために既設色に合わせますか?」

この一言を確認し、お互いの認識を揃えておくこと。これが事故を防ぐための防波堤です。


5. 究極の教訓:「図面」すら疑え

最後に、現場で生き残るために最も重要なことを伝えます。

それは、「図面を信じすぎるな」ということです。

  • 改造工事をした人が、図面を修正していない。
  • 現場あわせで、勝手に線の色を変えて配線されている。
  • 図面上は繋がっていないはずの電源が、裏で渡り配線されている。

何十年も稼働している機械では、「図面と現物が違う」ことは日常茶飯事です。

「図面に青と書いてあるからDCだ」「ブレーカーを切ったから安全だ」という思い込みは捨ててください。

まとめ:信じられるのは「テスター」だけ

  1. 色で判断しない(赤はACかもしれない)。
  2. 新規は規格準拠だが、既存機は「混在」のリスクを考慮し、顧客と仕様を決める。
  3. センサの「黒線」の意味違いに注意する。
  4. 触る前には必ず当たる(検電する)。

「基本を疎かにしない」「安全は何よりも優先する」。

この言葉の意味は、「自分の目で確認するまでは、何も信用しない」ということなのです。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次