【図解】モーターを守る「3人の守護神」を理解せよ! なぜブレーカーだけではモーターが燃えるのか?

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「おい、この図面。このままだとモーターから煙が出るぞ」 新人の頃、自分が描いた図面をチェックしていた先輩が、赤ペンで図面を指しながら言いました。

私は反論しました。 「え? でもブレーカー(MCCB)は入ってますよ? これで何かあっても切れますよね?」

先輩は、私の目を真っ直ぐ見て、こう返しました。 「あのな、ブレーカーは電線を守るもんだ。モーターを守るもんじゃない。お前のその『ブレーカーがあるからヨシ』という考えが、火災事故を起こすんだ」

電気設計において、保護機器の「守備範囲」を理解していないと、検図で必ず突っ返されます。 今回は、設計審査で指摘されがちな「MCCBとサーマルリレーの決定的な違い」について、図解を交えて解説します。


目次

1. モーター回路の登場人物(王様と3人の守護神)

モーター回路を理解するには、各機器を「キャラクター」として捉えるのが一番の近道です。 ここには1人の「王様」と、彼を支える「3人の守護神」がいます。

  • 👑 モーター(王様)
    • 役割: 動力を生み出す主役。
    • 性格: 超・頑固者。 仕事がキツくなると「もっと電気(パワー)をよこせ!」と無茶をして電流をガブガブ飲み込む。自分の体が熱くなっても意地を張り続け、最後は自分の熱で自滅する。
  • 🛡️ MCCB:配線用遮断器(門番)
    • 役割: 「電線」を守る。
    • 性格: 大雑把。電線が焼き切れるような大事故(ショート)は防ぐが、王様が多少苦しんでいても「電線は無事だから」と無視する。
  • ⚡ MC:電磁接触器(筋肉スイッチ)
    • 役割: 電気の通り道をON/OFFする。
    • 性格: タフ。1時間に何百回命令されても文句を言わずにスイッチを切り替える。ただし頭脳はないので、自分では判断しない。
  • 🩺 サーマルリレー(専属医)
    • 役割: 「モーター」を守る。
    • 性格:繊細。暴走しがちな王様の顔色(電流値)を常に監視し、「これ以上は危険です!」と判断したら、MCに強制停止命令を出す。

2. 【図解】これが基本の「4点セット」だ!

これらをつなぐと、以下のような構成になります。これが、何十年も続くモーター回路の「基本の型」です。

💡 現場用語の補足

よく現場で「マグネット(電磁開閉器)」と呼ばれるのは、上記の ②MC③サーマル が合体したセットのことです。 (MC単体のことは「コンタクター(接触器)」と呼び分けます)


3. 【シミュレーション】もし検図をすり抜けていたら?

もし、先輩のチェックをすり抜けて、サーマルなしの回路を組んでしまったら現場で何が起きるでしょうか?

  • 状況: 定格10Aのモーターに異物が挟まり、15Aが流れ続けた(過負荷)。
  • 回路: サーマルなし、20AのMCCB(門番)のみ。
  1. モーター: 「15Aも流れて熱い! コイルの被覆が溶ける!」(SOS)
  2. MCCB: 「ん? 15A? 俺の定格は20Aだし、電線にとっては余裕だね。どうぞ通ってよし。
  3. 結果: モーターが加熱し、あの独特の焦げ臭い匂い(絶縁破壊の臭い)が辺りに充満するまで、ブレーカーは絶対に落ちない。

MCCBは、モーターの悲鳴を聞いてくれません。 彼が守っているのはあくまで「電線」だからです。だからこそ、モーターの熱(過負荷)を監視する「サーマルリレー(専属医)」が不可欠なのです。


4. 現代のトレンド「MMP」で盤を小さくする!

「毎回3つも並べるのは大変だし、盤が狭くなる…」 そんな現場の声に応えて登場し、最近の装置設計で採用が増えているのが、MMP(マニュアルモータースタータ)です。

これは、「①MCCB(門番)」と「③サーマル(専属医)」がフュージョン(合体)した機器です。「守る人(保護)」と「動かす人(制御)」の役割分担が整理され、非常にスッキリした構成になります。海外ではすでに主流ですが、日本でも「盤を小さくしたい」という要望から導入が進んでいます。

【図解】MMPを使った「新・3点セット」

なぜMCは残るのか?

MMPは優秀な保護機器ですが、あくまで手動操作が基本です。PLCや押しボタンで自動運転(ON/OFF)させるためには、今まで通り「②MC(筋肉スイッチ)」の力が必要です。

つまり、「MMPでガッチリ守って、MCで動かす」

MMPを使うメリット

  1. 省スペース: 機器が1つ減るので、盤の横幅がスッキリします。
  2. 配線削減: MCCB⇔MC間の配線作業が不要になります。
  3. 選定が楽: モーター容量に合わせたMMPを選ぶだけで、短絡保護と過負荷保護の両方をカバーできます。

もちろん、メンテナンス性や在庫の都合で「従来の3点セット」を使い続ける現場も多いですが、「輸出仕様の機械」や「小型装置」に関わるなら、必ず出会うことになる機器です。


5. 現場あるある:その「リセット」が命取り

最後に、現場でよくある「やってはいけないサーマルの扱い方」を紹介します。

💀 ① 謎の「リセットボタン連打」

サーマルがトリップして機械が止まった時。 原因(過負荷)を調べもせず、「あ、青いボタン(リセット)押したら動いたわ!」といって再開させる人がいます。

これは、モーターにとどめを刺す行為です。 サーマルが落ちたということは、必ず「異常(ゴミ噛み、欠相、過負荷など)」があります。それを無視してリセットを繰り返すと、最後はサーマルが反応するより先にモーターが焼き付きます。

💀 ② 禁断の「ダイヤル回し」

「なんか最近よく止まるから、サーマルの設定値(ダイヤル)を上げといたよ!」

これも最悪です。 サーマルの設定値を勝手に上げるのは、「痛覚を麻痺させている」のと同じです。 止まらなくはなりますが、次に止まる時は、モーターの故障(焼損交換)時です。


まとめ:図面には「意志」がある

  • MCCBは「電線」を守る。
  • サーマルは「モーター」を守る。
  • MCはそれらをON/OFF制御する。
  • MMPは「MCCB」と「サーマル」を1つにまとめたもの。

ただ図面通りに線を繋ぐのではなく、「この機器は、何を守るためにここにいるのか?」を理解してください。それができれば、モーターを燃やすことはなくなります。

🚀 次のステップ:さらに知識を深めるために

基本を理解したら、次は「正しい設定」と「応用のルール」を知る必要があります。 以下の2つの記事で、モーター回路を完全にマスターしてください。

① ダイヤル、適当に回してない? 「銘板の電流値ぴったりでいいの?」「1.1倍って本当?」 意外と知らない「サーマル設定の正解」と「銘板の読み方」はこちら。

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