「負荷が20Aだから、30Aのブレーカーをつけておけばヨシ!」
もしあなたが、定格電流(AT)だけを見てブレーカーを選んでいるとしたら、それは時限爆弾を設置しているのと同じかもしれません。 万が一の短絡事故が起きたとき、そのブレーカーは遮断できずに爆発してしまう恐れがあるからです。
今回は、実務9年の電気設計者が必ず確認している3つの重要パラメータ、「AT(定格電流)」「IR(遮断容量)」そして「AF(アンペアフレーム)」の正しい決定手順を解説します。
結論から言うと、ブレーカー選定は「過負荷」と「短絡」の両方を防ぐバランスが命です。
ただし、ネットでよく見かける「AF(枠番)はAT(定格)の2倍あればOK」という情報を鵜呑みにするのは危険です。 この言葉を信じると、工場の受電設備によっては重大な焼損事故につながる恐れがあります。
ステップ1:過負荷保護のための「定格電流(AT)」決定
まずは基本の「定格電流」です。カタログではAT(Ampere Trip)と表記され、ブレーカーが「使いすぎ」を検知してトリップする電流値を指します。
決定の基本ルール
ブレーカーの定格電流(AT)は、以下のバランスで決定するのが鉄則です。

実務的な計算手順
ギリギリの値ではなく、余裕(マージン)を持たせて選定します。
- 最大負荷電流(IL)を算出する: 全ての機器が同時に動いたときの電流値を計算します。
- マージンを乗じる:
- 一般的なヒーターや制御機器:IL × 1.25
- モーター回路:始動時の突入電流で落ちないよう、メーカーの選定表や専用の「モータブレーカー」を使用します。
- 直近の上位定格を選ぶ: 計算値が18Aなら、直近上位の「20A」または「30A」を選定します。
ここまでは簡単です。問題は次のステップです。
ステップ2:短絡保護のための「遮断容量(IR)」決定
多くの設計者が見落としがちなのが、このIR(Interrupting Rating:定格短絡遮断容量)です。
【深掘り】IR(遮断容量)とは何か?
IRとは、ブレーカーが「自身の破壊を起こさずに安全に遮断できる、最大の短絡電流値(kA)」のことです。
通常時は関係ありませんが、短絡(ショート)事故が起きた瞬間に生死を分けます。
もし、設置場所の短絡電流が50kAあるのに、IRが10kAしかないブレーカーを使っていたらどうなるか?
ブレーカーはアーク(電気火花)を消しきれず、筐体が破裂・爆発し、盤全体を焼損させる大事故になります。
IRと密接な関係!「アンペアフレーム(AF)」の役割
ここで登場するのが、カタログにあるAF(Ampere Frame)という数値です。
これはブレーカーの「物理的な容器(筐体)のサイズ」を表しています。
- AT (Ampere Trip): 何アンペアで回路を切るか(中身の機能・設定)
- AF (Ampere Frame): どれだけの衝撃に耐えられるか(外側の頑丈さ・物理サイズ)
なぜAFが重要なのか?
短絡時の巨大なエネルギー(電磁力・熱・ガス圧力)に耐えてアークを消すには、頑丈で大きな物理スペースが必要です。つまり、「AF(筐体サイズ)が大きくなければ、高いIR(遮断能力)は出せない」という物理的な制約があるのです。
実務上のジレンマ:小電流でも大きなAFが必要なワケ
設計現場では、よくこんな悩ましい状況が発生します。
「負荷電流はたったの20A(AT)しかない。でも、設置場所は大工場の変電設備のすぐ近くで、短絡電流が50kAもある…」
この場合、安価で小さな「30AF / 20AT」のブレーカーは使えません。30AFの小さな筐体では50kAもの衝撃に耐えられないからです。
プロの判断:
中身は20A(AT)の設定のまま、外側だけ大きな「100AF」や「225AF」のブレーカーを選定します。
(例:100AF / 20AT のブレーカー)
- コスト増: 筐体が大きくなるため高価になる。
- スペース増: 制御盤のサイズが大きくなる。
これらは設計者にとって痛手ですが、安全には代えられません。「電流が小さいから小さいブレーカーでいい」という思い込みは捨てましょう。
IR決定の鉄則
選定のルールはシンプルですが絶対です。

装置を納入する工場の電源トランス容量などを確認し、推定短絡電流を算出(または工場側に提示を依頼)して、それを上回るIRを持つAFを選定してください。
【警告】「AFはATの2倍あればOK」という情報を鵜呑みにしないでください
インターネット上や古い資料で、「AF(枠番)は、AT(定格電流)の2倍程度のサイズを選んでおけば安心」という解説を見かけることがありますが、これは非常に危険な誤解です。
なぜなら、AFを決める決定的な要因は「倍率」ではなく、「その場所の短絡電流(IR)に耐えられるか」だからです。
よくある危険な選び方:
- 「負荷電流(AT)が10Aだから、2倍のマージンを見て30AFのブレーカーを選ぼう」
これがなぜ危険なのか?: 一般的な30AFのブレーカーは、遮断容量(IR)が2.5kA〜5kA程度しかありません。もし、装置を納入する工場の短絡電流が20kAあった場合、万が一の事故でブレーカーは遮断しきれずに破裂・焼損します。
「負荷電流(AT)が小さくても、短絡電流(IR)が大きければ、100AFや225AFといった大きな枠番が必要になる」。これがプロの選定基準です。倍率の数字遊びに惑わされないでください。

【実務の裏話】納入先のトランス容量なんて分からない時は?
ここまで「トランス容量から短絡電流を計算して…」と解説してきましたが、機械メーカーの設計者からはこんな声が聞こえてきそうです。
「量産機だから、納入先のトランス容量なんていちいち把握できないよ!」
まさにその通りです。全ての納入先の設備状況を確認するのは不可能です。では、現場のプロはどうやってこの問題をクリアしているのでしょうか?
答えは「安全側のスペックで標準化してしまう」です。
具体的には、以下のような基準でメインブレーカーを選定しておきます。
- 国内一般向け:遮断容量(IR)25kA〜30kA
- 中小規模の工場ならほぼカバーできます。
- 大規模工場・海外向け:遮断容量(IR)50kA以上
- 配線による減衰もあるため、盤の入り口で50kA対応なら、国内の9割以上の工場(製鉄所などの超特殊環境を除く)で安全に使用できます。
「ギリギリを狙って計算する」のではなく、「どこに行っても大丈夫なように、入り口のブレーカーだけは少し良いもの(高遮断型)を使っておく」。これが、事故とクレームを防ぐための実務的な「逃げ道」であり、賢い設計です。
【プロの深掘り】カタログにある「Icu」と「Ics」の違いは?
三菱電機などのカタログを見ると、遮断容量の欄に2つの数字が書かれています。
- Icu (Ultimate):限界短絡遮断容量「とりあえず1回は爆発せずに遮断できる」限界値。通常、選定計算にはこの値を使います。
- Ics (Service):使用短絡遮断容量「遮断した後も、壊れずに再利用できる」実用値。
設計の鉄則:
基本的には Icu(限界値) が、工場の短絡電流を上回っていれば安全上の規格はクリアできます。
しかし、データセンターや重要インフラなど「事故後すぐに復旧したい」場所では、Ics(実用値)まで考慮して選定する。これがワンランク上の設計です。
ステップ3:協調(セレクティビティ)とバックアップ保護
最後に「協調」を確認します。これは、ブレーカー同士の「上下関係」のルールです。
もし、あなたの装置内で短絡事故が起きたとき、装置のブレーカーだけが落ちれば被害は最小限で済みます。しかし、さらに上流にある工場の配電盤のメインブレーカーまで一緒に落ちてしまうと、工場のライン全体がストップする大損害になります。
これを防ぐのが「協調」です。

左側(良い協調)のように、事故が起きた場所のすぐ上にある「下流ブレーカー」だけが落ちるのが理想的な状態です。右側(悪い協調)のように、上流まで巻き込んで落ちてしまう事態は避けなければなりません。
協調が取れているか確認するには、主に2つの方法があります。
この良い協調を実現するために、設計者はメーカーの「協調表」や「動作特性曲線」を確認します。
- 協調表(セレクティビティ・テーブル)を見る:
メーカーが発行している一覧表(マトリクス)です。「親ブレーカーAと子ブレーカーBの組み合わせはOK」といった判定がひと目でわかります。実務ではまずこれを確認します。 - 動作特性曲線(タイム・カレント・カーブ)を重ねる:
ブレーカーが「どのくらいの電流で、何秒で落ちるか」を示したグラフで、下記の図のようなグラフです。 上流(青線)と下流(赤線)の曲線を同じグラフにプロットし、線が重ならない(常に下流が左下にある)ことを確認します。これが、「同じ電流が流れても、下流の方が先に落ちる」という技術的な証明になります。協調表に載っていない組み合わせや、より詳細な検討が必要な場合に使用します。

赤い曲線(下流)が青い曲線(上流)より常に下にあるため、どんな電流でも下流が先に動作することが視覚的にわかります。
一般的には、上流と下流の定格電流比を1.6倍〜2倍以上離すといった手法がとられますが、最終的にはこのような曲線やメーカーのデータで確認するのが確実です。
【コラム】IRが高ければ安心…ではない!?「SCCR」の罠
「よし、遮断容量(IR)が50kAの最強ブレーカーを選んだから、盤は安全だ!」 そう思った方、ちょっと待ってください。そのブレーカーの下に繋ぐ機器(コンタクタや端子台)は大丈夫ですか?
実は、ブレーカー以外の機器にもSCCR(短絡電流定格)という、「短絡に耐えられる限界値」が決まっています。 いくらブレーカーが強力でも、その下の機器のSCCRが低ければ、ブレーカーが切れる前に機器が爆発してしまいます。
- IR:ブレーカーが「止める」能力
- SCCR:機器や盤が「耐える」能力
この2つはセットで考える必要があります。 特にUL508A(北米規格)では、「盤の中に一つでも弱い部品(5kAなど)があると、盤全体の定格も5kAに格下げされる」という厳しいルールがあります。これを知らずに海外輸出して、現地の認証試験で不合格になるケースが後を絶ちません。
「じゃあ、どうすればコストをかけずにSCCRを上げられるの?」 その具体的な解決策と、50kAのブレーカーを使っていても陥る「5kAの罠」については、以下の記事で徹底解説しています。海外案件に関わる方は必読です。

まとめと実務チェックリスト
ブレーカー選定は、AT(過負荷)とIR(短絡)、そしてAF(枠番)の組み合わせパズルです。最後に、図面を書く前のチェックリストを用意しました。
✅ ブレーカー選定 実務チェックリスト
- ATの確認: 負荷電流に対して適切なマージン(x1.25等)を持った定格電流(AT)か?
- 電線の保護: 選んだATは、接続する電線の許容電流以下になっているか?
- IRの確認: 納入先の短絡電流を調査し、それを上回る遮断容量(IR)を持っているか?
- AFの選定: 必要なIRを満たすために、適切なアンペアフレーム(AF)を選んでいるか?(ATが小さくてもAFを大きくする必要はないか?)
- 協調: 短絡時に工場の大元のブレーカーをトリップさせない構成になっているか?
さて、ブレーカーの容量と枠番が決まりました。
次はそのブレーカーに繋ぐ「電線」を選ばなければなりません。
「20Aのブレーカーだから、許容電流20Aの電線でいいよね?」
……実は、それも間違いのもとです。温度や束ねる本数によって、電線の能力は激減するからです。
次回は、「【電線選定の鉄則】カタログ値で選ぶと火を吹く?「許容電流」と「補正係数」の正しい計算式」について解説します。カタログ値だけ見て電線を選ぶと、盤内で発熱トラブルになるかもしれませんよ!
