【制御盤の熱対策】ファンは適当に選ぶな!「真面目な計算」と「現場の抜け道」で寿命を守る鉄則

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「とりあえず、デカいファンを付けておけば冷えるだろう」

「盤が熱いけど、ブレーカーが落ちてないから大丈夫でしょ」

もしあなたがそう思っているなら、それは装置の寿命を半分、いや4分の1に縮めているかもしれません。

電気部品にとって、熱は「静かなる大敵」です。今は動いていても、3年後、5年後に突然故障ラッシュが始まります。

今回は、設計者が知っておくべき「熱と寿命の怖い関係」と、教科書通りの「真面目な計算方法」、そして忙しいあなたのための「現場の抜け道(時短テクニック)」を解説します。


目次

恐怖の法則:「10℃・2倍則(アレニウスの法則)」

まず、なぜ冷やさなければならないのか?

それは、電子部品(特にコンデンサ)の寿命が熱によって劇的に変わるからです。ここに有名な経験則があります。

【10℃・2倍則(10℃半減則)】

周囲温度が 10℃ 上がると、その機器の寿命は 半分(1/2) になる。

逆に言えば、「10℃冷やせば、寿命は2倍に伸びる」ということです。

  • 40℃ で使うと 10年 持つ電源ユニットが…
  • 50℃ の盤内で使うと、寿命はたったの 5年
  • 60℃ になると、なんと 2.5年 で壊れます。

「動いているからヨシ」ではありません。お客様に長く使ってもらうためには、盤内温度を意地でも下げなければならないのです。


ステップ1:敵を知る(総発熱量 Q の計算)

ファンを選ぶ前に、まず「敵の強さ(発熱量)」を知る必要があります。ここで、「理想」と「現実」の2つのアプローチがあります。

【理想】真面目な計算方法(教科書通り)

本来であれば、盤内に入っているすべての機器のカタログを開き、「発熱量(または損失)」を調べて足し合わせるのが正解です。

  • インバータの損失
  • 電源の損失
  • トランスの発熱
  • リレーのコイル消費電力 × 個数
  • PLCユニットの消費電力
  • 電線の抵抗分発熱……

これをすべて合算すれば、完璧な Q(総発熱量)が出ます。

しかし、実務で部品が100個あるときに、これをやる時間はありますか? 正直、厳しいですよね。

【現実】現場の抜け道(熱の御三家メソッド)

そこで、プロの設計者はこう考えます。

「盤内の熱の9割は、たった3種類の部品(熱の御三家)から出ている」

残りの細かい部品(リレーやランプ)は誤差のようなものです。

ですから、「御三家だけ計算して、残りは係数でドン!」と処理しても、実用上は問題ありません。

▼ カタログを見ないで計算する「御三家」の目安

熱の御三家発熱量の目安(損失率)計算例
① インバータ / サーボモーター容量の 約5%2.2kW(2200W) × 0.05 = 110W
② スイッチング電源定格出力の 約10〜15%300W × 0.15 = 45W
③ トランス(変圧器)定格容量の 約3〜5%500VA × 0.05 = 25W

【現場流の計算手順】

  1. 御三家の発熱量を合計する。(例:110 + 45 + 25 = 180W
  2. 計算しなかった細かい部品分として、1.2倍のマージンを掛ける。
「熱の御三家」の発熱量を合計し、安全率1.2倍を掛けることで総発熱量Q(W)を求める簡易計算式。カタログを全て調べる手間を省くための現場の抜け道テクニック。

これで、カタログを1冊も開かずに「敵の強さ(約216W)」が判明しました。

制御盤内の発熱源内訳を示す円グラフ。インバータ・サーボ(約50%)、スイッチング電源(約30%)、トランス(約10%)の「熱の御三家」だけで全体の約9割を占めることを示し、細かい計算を省略できる根拠を図示。

このように、御三家だけで全体の9割近くを占めているため、ここを押さえれば計算は十分なのです。

【コラム】なぜ「他は無視」していいの?(100個のリレー vs 1台のインバータ)

「本当に細かい部品を計算しなくて大丈夫?」と不安になるかもしれません。 しかし、これには物理的な裏付けがあります。扱っているエネルギーの桁が違うのです。

例えば、制御盤によくある「ミニチュアリレー(MY2など)」のコイル消費電力は、わずか 約0.9W です。 一方、2.2kWの「インバータ」が熱として捨てる損失は 約110W です。

つまり、「インバータ1台の発熱」は「リレー約120個分の発熱」に匹敵します。 盤内にリレーが50個あっても100個あっても、たった1台のインバータの前では誤差のようなもの。これが、御三家だけを押さえれば計算が合う理由です。

⚠️ ただし、唯一の例外「SSR」に注意! この「御三家ルール」には、たった一つだけ例外があります。 ヒーター制御などで使う「SSR(ソリッドステートリレー)」です。 こいつは小さな顔をして、猛烈な熱を出します(電流1Aあたり約1.5W)。もしSSRを10個、20個と並べて使う場合は、必ず計算に入れてください。こいつは「隠れ御三家」です。なぜSSRはそれほど熱が出るのか?という理由は、こちらの記事を読むとよく分かります。

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ステップ2:目標を決める(許容温度上昇値 ΔT)

次に、「盤の中を何度まで許せるか」を決めます。

  • 盤内目標温度: 一般的に 40℃以下 が理想(電子機器の寿命のため)。
  • 外気温度(MAX): 設置場所の夏場の気温。例えば 30℃ とします。

この差が、許される温度上昇値 ΔT(デルタT)です。

制御盤内の許容温度上昇値(ΔT)を求める式。目標とする盤内温度(例:40℃)から、設置場所の外気温度(例:30℃)を引いた差分(10℃)が冷却設計のターゲットとなることを示す。

つまり、「216Wの熱が出続けても、温度上昇を10℃以内に抑えたい」というのが今回のミッションです。


ステップ3:ファンを選定する「魔法の公式」

敵(216W)と目標(10℃以内)が決まりました。

あとは、それを実現するために必要な風量 V (m3/min) を求めるだけです。

難しい流体計算は不要です。実務ではこの簡易式を使います。

必要風量V(m³/min)を求める簡易公式。「0.05 × 総発熱量Q(W) ÷ 許容温度上昇ΔT(℃)」という式で、難しい流体計算なしで必要なファンの能力を算出する方法。

(※定数0.05は空気の比熱や密度をまとめた実用的な概算値です)

先ほどの例で計算してみましょう。

具体的な数値を入れた風量計算の例。総発熱量216W、温度上昇10℃の場合、必要風量は1.08m³/minとなる計算結果。

⚠️ 最後の罠:実効風量は下がる

計算値 1.08 m3/min が出ましたが、このスペックギリギリのファンを選んではいけません。

カタログの風量は「障害物が何もない状態」の値です。実際には「フィルター(防塵網)」を付けたり、盤内がケーブルで混雑していたりするため、風の流れが悪くなります(圧力損失)。

一般的に、フィルター付きファンを使う場合、カタログ値の「6掛け(0.6倍)」程度しか風が出ないと考えます。

結論として、カタログスペックで「最大風量 1.8〜2.0 m3/min以上」のファンを選定するのが「プロの安全策」です。


配置の鉄則:空気の道を作れ

いいファンを選んでも、付け方を間違えると意味がありません。

① 対角線に配置する(ショートサーキット防止)

空気の入り口(吸気)と出口(排気)が近すぎると、空気が盤全体に行き渡らず、そこだけ回って終わってしまいます。これをショートサーキットと呼びます。

盤の「右下から吸って、左上から出す」ように対角線に配置し、盤全体を空気が流れるようにします。

② 「下から吸って、上から吐く」

温かい空気は軽くて上にたまります(煙突効果)。この自然な流れに逆らわないよう、吸気口(フィルター)は下排気ファンは上に付けるのが鉄則です。

冷却ファンの配置による空気の流れ比較図。左側(Good)は吸気と排気を対角線上に配置し、スムーズな冷却を実現。右側(Bad)は吸排気が近く、ショートサーキットが発生して熱だまり(ホットスポット)ができている悪い例。

図のように、対角線に配置することで盤全体を冷却できます。逆に吸排気が近いと、ショートサーキット(右図)が起こり、下部に熱がこもってしまいます。


まとめ:ファン選びは寿命選び

  1. 熱は寿命を削る: 10℃上がると寿命は半分になる。
  2. 計算はメリハリをつける:
    • 理想: 全部品を積算する。
    • 抜け道: 「御三家(インバータ・電源・トランス)」だけ計算して1.2倍する。
  3. マージンを見る: フィルターの抵抗を考え、計算値の1.5倍〜2倍のファンを選ぶ。

「真面目な計算」を知っているからこそ、「抜け道」を使っても安全な設計ができます。

たった3分の計算で、数年後のトラブルを防ぐことができます。次の設計からは、ぜひ電卓を叩いてみてください。

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