制御盤のノイズ対策:FGとSGは混ぜるな。インバータとPLCのアース分離術

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ノイズトラブルが起きた時、現場のリーダーは決まってこう言います。 「アースを強化しろ(抵抗値を下げろ)」

新人は言われるがままに、アース線を極太にしたり、別の盤からアースを引っ張ってきたりします。 しかし、ノイズは消えません。なぜか?

それは、あなたがアースを「何でも吸い込んでくれる魔法のゴミ箱」だと思っているからです。

電気の世界において、アース線は「ゴミ箱」ではありません。 機器が立っている「足場(基準となる地面)」です。

もし、暴れん坊のインバータと、繊細なPLCを、強度の低い「同じ足場」に乗せたらどうなるでしょうか? インバータが暴れるたびに足場が揺れ、PLCが転倒(誤動作)します。

この記事では、実務経験9年の電気設計者である私が、現場で数々のトラブルを解決してきた知見に基づき、多くの設計者がやりがちな「FGとSGの混触」を防ぐ鉄則を解説します。

これを読めば、もう現場で「アースはどう配線すればいいですか?」と迷うことはなくなり、「ノイズに強い盤」を自信を持って設計できるようになります。

結論は「物理的にアースバーを分けること」です。 ただし、単に分けるだけでは不十分です。ある「専用の部材」を使って合流させないと、結局ノイズが逆流して失敗します。

その具体的な施工方法まで包み隠さず伝授します。


目次

多くの設計者が誤解している「D種接地」の正体

まず、最大の勘違いを正します。 「テスターで導通チェックしたら0Ωだった(あるいは仕様書の『D種接地』を信じている)。だからアースは正常だ(原因ではない)」と思っていませんか?

結論から言うと、その「100Ω」や「導通」はノイズ対策には何の意味もありません。

D種接地は「人間」を守るためのもの

電気設備技術基準(法律)におけるD種接地の目的は、ただ一つ。 「漏電した時に、人間が感電死しないようにすること(保安用)」です。

  • 商用周波数(50/60Hz): 100Ωあれば十分に地面へ逃げます。
  • ノイズ(数MHz〜): 高周波にとって、100Ωという抵抗値は「壁」のように巨大です。全然逃げません。

「法律を守るためのアース」と「ノイズを逃がすためのアース」。 この2つは、目的も動きも全く別物だと認識してください。


盤内の危険地帯「FG」と「SG」の違い

図面上では、どちらも同じ「アース記号(⏚)」で書かれることも多いですが、役割は正反対です。

① FG(Frame Ground):震源地

  • 正体: 盤の筐体、インバータの放熱フィン、モーターのフレーム。
  • 流れるもの: インバータのスイッチングノイズ、漏れ電流。
  • 性質: 「激しく揺れている」。常にビリビリと振動している危険地帯。

② SG(Signal Ground):静寂の地

  • 正体: PLCの内部回路、タッチパネルの信号基準(0V)、センサーのマイナス。
  • 流れるもの: 通信信号の基準電位。
  • 性質: 「静止」していなければならない。足元が揺れると信号を読み間違える。

【現場の悲劇】 多くの現場では、「アース端子台」という一本のバーの上で、この「FG(震源地)」と「SG(静寂地)」を隣同士に接続してしまいます。 これが、原因不明の誤動作(チョコ停)の正体です。


なぜアースバーを共有してはいけないのか?(足場の法則)

「一点接地(スター配線)にすればいいんでしょ?」 そう言って、盤内の銅バー(アースバー)にすべての線を繋ぐ人がいます。 それがなぜNGなのか。現場の「足場」に例えて説明しましょう。

共通インピーダンス結合の概念図。1枚の足場板(共有アースバー)の上で、インバータの振動がPLCに伝播して揺らしている様子。

NG例:ノイズ源と同じ「足場」に乗るな

想像してください。 あなた(PLC)は、精密な溶接作業をするために、「一枚の長い足場板(銅バー)」の上に立っています。 その同じ板の隣に、暴れん坊の「インバータ(ノイズ発生源)」が乗ってきました。

  1. インバータが足場の上で、激しく暴れて振動(スイッチング動作)しました。
  2. 足場板は一本で繋がっています。しかも、ちょっと薄い(インピーダンスがある)板です。
  3. 当然、インバータが暴れるたびに、板全体がしなって、あなたが立っている場所も激しく揺れます。
  4. あなたは立っていられず、手元が狂って作業ミス(誤動作)をしました。

電気の世界では、この「足場の共有によって振動が伝わる現象」を、専門用語で「共通インピーダンス結合」と呼びます。

  • 共通(Common): 同じ足場に乗っている
  • インピーダンス(Impedance): 足場が完全な剛体ではなく、しなる(抵抗がある)
  • 結合(Coupling): そのせいで、振動が相手に伝わってしまう

「足場(インピーダンス)を共有してしまったせいで、基準となる足元(グラウンド)が揺らされ、まともな仕事ができなくなる」こと。 これが、ノイズトラブルの正体なのです。

OK例:足場を分けろ

では、どうすればいいか? 答えはシンプル。「足場を切り離す」ことです。

  • インバータ専用: 「極太の頑丈な足場(動力用バー)」
  • あなた専用: 「専用の足場(制御用バー)」

物理的に板を分けてしまい、「地面(アース端子)」だけで繋ぐようにします。 これなら、インバータが隣でどれだけ暴れても、地面を経由して振動が伝わることはありません。あなたの足元は常に水平(0V)です。

これがプロのやる「一点接地(スター配線)」の極意です。

【中級者向け】なぜ銅バーの上で「電圧」が発生するのか?(クリックで展開)

「銅バーは極太の導体だから、抵抗なんてゼロ(0Ω)でしょ?」
そう思った方。それは「直流(DC)」の世界だけの常識です。

インバータが吐き出すノイズは、数MHz〜数十MHzという超高速の「高周波」です。
この世界では、以下の2つの物理現象により、銅バーは「導体」ではなく「抵抗体(邪魔者)」へと姿を変えます。

1. 自己インダクタンス(リアクタンス)

どんな金属も、電流が流れると磁界が生まれ、その磁界が電流の変化を邪魔します。周波数が高いほど、この「邪魔する力」は強くなります。

数式: Z = 2πfL

(周波数 f が上がれば、抵抗 Z も増大する)

2. 表皮効果

高周波になるほど、電流は銅バーの中心を通れず、「表面の皮一枚」しか流れません。
通路が極端に狭くなるため、実質的な抵抗値が激増します。

■ 結論:共通インピーダンス結合の発生

この状態で、インバータの大電流(I)が流れるとどうなるか?
オームの法則により、銅バーの上で「電圧降下(激しい揺れ)」が発生します。

V (揺れ) = I (ノイズ) × Z (抵抗化)

もし同じバーにPLCを繋いでいると、この「揺れ(電圧V)」がそのままPLCの足元(基準電位)に加わります。
これが、ジャイアン(インバータ)が暴れると、離れた場所にいるPLCが誤動作する物理的な理由です。

対策は一つ。「Z(共通部分)」を無くすこと。
つまり、物理的にバーを分けて、ジャイアンの電流が流れる経路からPLCを退避させるしかありません。

【重要】よくある勘違い:「動力バーの末端」から取ればいいの?

アース接続の比較図。上がNGとなる数珠つなぎ(渡り配線)、下がOKとなるスター配線(一点接地)を示す回路図

ここで、勘の良い人はこう考えるかもしれません。

「じゃあバーを2本に分けよう。

動力バーの端っこから線を伸ばして、制御バーを繋げばいいんでしょ?

ノイズ(水)は左のアースへ流れるから、右の制御バーには来ないはずだ!」

残念ながら、それは「最悪の接続方法」です。

理由は「電位の坂道」ができるから

インバータの大電流が動力バーを流れる時、バーの抵抗によって電圧降下(V=IR)が起きます。これにより、動力バーの上には「ノイズの坂道」ができます。

アース側(根元)は0Vですが、末端に行けば行くほど、激しく揺れているのです。

その「一番揺れている末端」に制御バーを継ぎ足すこと。それは、「揺れる吊り橋の先端に、さらに新しい吊り橋を継ぎ足す」ようなものです。元の橋が揺れれば、継ぎ足した橋はもっと激しく揺れます。

だからこそ、次章で紹介する「根元での分岐(並列接続)」しか正解はないのです。


究極の分離術「メイン端子+2本バー」の鉄則

制御盤アースの推奨スター配線図(3D CAD風)。中央の銅ブロック端子から動力用・制御用アースバーへそれぞれ片側のみ14sqケーブルでY字接続され、各機器からは1本ずつアース線が接続されている、リアルな質感の構成図。

「理屈はわかった。で、現場ではどう施工すればいいんだ?」 そんな設計者のために、私が推奨する「最強のアース構成」を紹介します。

例え話に出てきた「揺るぎない地面(合流点)」を作るための専用パーツを使います。

使うのは「メインのアース端子(銅ブロック型)」

通常の銅バー1本でやりくりするから失敗します。 最初から「合流専用のパーツ」を用意するのです。

定番は篠原電機の「アース端子(EC型)」ですが、同等の機能を持つ銅ブロック状の端子なら何でも構いません。 これを盤の底面に配置し、建物のアース線が繋がる唯一の「基礎」にします。

【手順1】アースバーを「2本」用意する

ケチらずに、「動力用銅バー(インバータ等)」と「制御用銅バー(PLC等)」を別々に用意してください。 これが物理的な「足場の分離」です。

【手順2】「メイン端子」で一点合流させる

盤の底面に、先ほどのアース端子(銅ブロック)を取り付けます。 ここが、建物のアース線が繋がる唯一の「基礎(アンカー)」になります。

【手順3】Y字型に配線する

ここが最重要ポイントです。メイン端子を中心にして、2本のバーへ配線を伸ばします。

  1. 左ルート(動力用):
    メイン端子の大穴から、「主電源ケーブルと同等サイズ以上の極太線」で動力用銅バーへズドンと繋ぐ。
    ※安全規格(IEC 60204-1)では「主電源が16sq以下なら同サイズ」と決まっています。これを守った上で、なるべく太く短く配線するのがコツです。
  2. 右ルート(制御用):
    メイン端子の別の穴から、「3.5sq〜5.5sq」程度で繋ぎます(必須ライン)。
    ※制御側に大電流は流れませんが、もし余裕があれば動力側と同じ太さにサイズアップすることを推奨します。インピーダンスを極限まで下げられ、盤屋さんも電線の種類を統一できて楽だからです。

【手順4】各機器へ配線する

  • 動力機器: 動力用銅バーの各穴へ。
  • 制御機器: 制御用銅バーの各穴へ。

この「並列(パラレル)接続」こそが、共通インピーダンス結合を回避する唯一の物理的解決策です。 決して、動力バーの末端から制御バーへ渡り配線(数珠つなぎ)をしてはいけません。それは自ら揺れる足場に乗りに行く自殺行為です。


まとめ:アースは「おまじない」ではない

ノイズ対策において、アースは「とりあえず繋げばOK」というおまじないではありません。 建築の基礎工事と同じように、「震源(FG)」と「静寂(SG)」を厳格に管理する設計技術です。

  • FGとSG: ノイズ源と被害者。同じ足場に乗るな。
  • 施工: 銅ブロック端子(基礎)で、ガッチリと一点接地を作る。
  • 理論: 共通インピーダンス結合(Z)を物理的に断つ。

この3つを守れば、あなたの制御盤は「ノイズに強い要塞」に生まれ変わります。 明日からの図面、アースバーを一本増やしてみませんか?

今回は「攻め(盤内配線)」の話でしたが、そもそも「シールド線の処理」や「アース線の基礎」はどうなってるの?という方は、こちらの記事で基礎を固めてください。

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共通インピーダンス結合の概念図。左は1枚の足場板を共有して振動が伝わるNG例、右は足場板を分けて中央のブロックでのみ一点接地したOK例を示すイラスト。

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