「よし、遮断容量(IR)が50kAの最強ブレーカーを選んだから、盤は安全だ!」
そう思った方、ちょっと待ってください。その盤、UL認証試験で不合格になる可能性が高いです。最悪の場合、火災事故につながるリスクさえあります。
この記事では、実務9年の電気設計者が、新人が必ずつまづく「SCCR(短絡電流定格)」の基礎と、コストをかけずに規格をクリアする「現場の裏技」を解説します。
結論から言うと、SCCR対策の特効薬は「絶縁トランスを入れること」です。 この記事を読めば、高価なハイグレード部品を買い集めることなく、スマートに海外規格をクリアできる設計力が身につきます。ただし、「単巻トランス」を選ぶと意味がないので注意してください。
まずは、多くの初心者が誤解している「IR」と「SCCR」の違いから見ていきましょう。
IRとSCCRの決定的な違い

- IR(Interrupting Rating):
ブレーカーが「止める」能力。いわば「門番」です。暴徒(短絡電流)が押し寄せたとき、力ずくで食い止める能力です。 - SCCR(Short-Circuit Current Rating):
機器が「耐える」能力。こちらは機器個々の「盾」の強さです。門番が扉を閉めるまでのほんの一瞬、機器自身が壊滅的な爆発を起こさずに耐え忍ぶ限界値のことです。
いくら門番(ブレーカー)が強くても、後ろにいる兵士の盾(マグネットや端子台)がペラペラなら、門番が動く前に盾が砕け散ります。これが「SCCR不足」の正体です。
最重要ルール:「鎖」の強さは「最弱」で決まる

では、制御盤全体としてのSCCR(盤定格)はどう決まるのでしょうか?UL508Aのルールは非常にシンプルかつ残酷です。
「盤全体のSCCRは、内部に含まれる部品の中で『最小のSCCR値』になる」
これは「鎖」に例えると分かりやすいでしょう。どれだけ太い鋼鉄の輪(高SCCR部品)を繋ぎ合わせて鎖を作っても、その中に一箇所でも「プラスチックの輪(低SCCR部品)」が混ざっていたらどうなるでしょうか? その鎖を引っ張った時、プラスチックの輪が最初に壊れ、そこで鎖全体が切れてしまいますよね。
制御盤もこれと同じです。
例えば、以下のような構成を見てみましょう。
- メインブレーカー:50kA
- マグネットスイッチ:50kA
- インバータ:50kA
- 中継用の端子台:10kA
この場合、盤全体の定格は「10kA」になります。どれだけ高価なブレーカーを使っても、たった一つの弱い部品(端子台)に引っ張られて、盤全体の性能が決まってしまうのです。
Q. 盤内の部品、全部チェックしなきゃダメなの?
「鎖の理論はわかったけど、盤の中にあるリレーやPLC、端子台…これら全部のSCCRを調べるなんて不可能だよ!」 そう絶望した方、安心してください。
UL508AでSCCRの計算対象になるのは、基本的に「動力回路(Power Circuit)」の部品だけです。
- チェックが必要なもの(動力回路): ブレーカー、マグネットスイッチ、インバータ、サーボアンプ、動力ラインにある端子台など。
- チェック不要なもの(制御回路): PLC、タッチパネル、センサー、小型リレー、パイロットランプなど。
「モーターなどを動かす太い電気の通り道」にある部品だけ気を付ければOKです。制御回路(DC24Vや操作回路)の細かい部品までは、基本的にSCCR計算に含める必要はありません。(※ただし、動力回路から制御電源を取る分岐点のヒューズなどは確認が必要です)
なぜ下がる?恐怖の「Table SB4.1(みなし認定)」
「でも、端子台にSCCRなんて書いてないよ?」と思った方。そこが最大の落とし穴です。
UL508A規格には、SCCRの表示がない部品に対して「試験をしていない部品は、これくらいしか耐えられないだろう」と勝手に決めつける値(みなし短絡電流定格)が設定されています。
これを定めたのが、UL508AのTable SB4.1です。
【Table SB4.1による標準的な認定値】
- 端子台 (Terminal block):10kA
- ブレーカー (Circuit breaker):5kA
- スイッチ類 (Switches):5kA
- 補助機器 (Overload relayなど):5kA
つまり、何も考えずに汎用の端子台やスイッチを選定した瞬間、あなたの盤のSCCRは自動的に「5kA」や「10kA」に固定されてしまうのです。 北米向けの盤では50kA以上のSCCRが求められることが多いため、これでは出荷できません。
実務での悩み:SCCRを上げるのは「修羅の道」
「じゃあ、全部高SCCR対応品(ハイグレード品)にすればいいじゃないか」言うのは簡単ですが、実務でこれをやろうとすると地獄を見ます。
- 部品代が跳ね上がる(特殊なヒューズや高機能ブレーカーが必要)
- 納期が掛かる(海外メーカーの特殊品など)
- 選定が面倒(メーカーが認定した「ブレーカーとマグネットの特定の組み合わせ(Type Fなど)」でしか認められない)
「すべての部品を高SCCR品にするなんて無理だ…」と悩む設計者のために、「魔法のアイテム」が存在します。
解決策:魔法のアイテム「絶縁トランス」を使おう

ここで登場するのが「絶縁トランス(制御トランス)」です。実は、電源ラインにトランスを挟むだけで、SCCRのハードルは劇的に下がります。
理由はシンプル。トランスが持つインピーダンス(抵抗成分)がクッションとなり、短絡電流そのものを物理的に小さくしてくれるからです(限流効果)。
UL規格が認める「トランスの免除規定」
なんとなく安全、という話ではありません。UL508AのSupplement SB4.3.1には、明確に以下のルールが定められています。
【トランス使用時の特例(SB4.3.1)】
- 10kVA以下のトランスを使用し、二次側の部品のSCCRが5kA以上ある場合: → 二次側のSCCR計算は免除され、一次側の保護装置(ブレーカー等)のSCCR値を採用してよい。
- 5kVA以下のトランス(120V以下)を使用し、二次側の部品のSCCRが2kA以上ある場合: → 同様に、一次側の保護装置のSCCR値を採用してよい。
つまり、トランスを通した二次側(出力側)の回路では、わざわざ高いSCCR対応部品を探す必要がなくなるのです。日本の盤で使い慣れた、安価で入手性の良い汎用部品(5kA対応品など)を使っても、盤全体の高いSCCR定格(例:50kA)を維持できる。これがトランスを使う最大のメリットです。
※玄人向け補足:限流デバイスについて
トランス以外にも、「限流ヒューズ」や「限流ブレーカー」を使ってピーク通過電流(Ip)を抑え、SCCRを上げる方法(シリーズ定格)もあります。 しかし、これらはIp特性曲線の読み解きや、メーカーごとの複雑な組み合わせ認定の確認が必要になり、初心者には茨の道です。まずは「トランスを入れる」という一番シンプルで確実な方法をマスターしましょう。
まとめ:困ったらトランスへ
SCCR対策の要点は以下の3つです。
- SCCRは「盾」の強さ:ブレーカー(門番)だけ強くても、中の機器(盾)が弱ければ意味がない。
- 鎖の理論:汎用部品(端子台など)を一つでも使うと、規格(Table SB4.1)により盤全体が5kA/10kAに引き下げられる。
- トランスが救世主:トランスを挟めば、二次側は汎用部品でも高SCCR盤として認められる(SB4.3.1)。
「じゃあ、自分の設計では具体的にどのトランスを選べばいいの?」「小さくなるって言うけど、実際50kAが何kAになるの?計算式はあるの?」
そう思った方は、ぜひ以下の記事を確認してください。トランスを使ったSCCR対策と突入電流の計算について、実務レベルで詳しく解説しています。
