はじめに
現代の製造業や産業分野では、効率的な生産と運用を実現するために、様々な自動化技術と通信プロトコルが欠かせません。自動化と通信の重要性はますます高まっています。その中でもEtherNet/IPは、産業用通信プロトコルの中でも幅広い利用と普及を果たしているものの一つです。この記事では、EtherNet/IPの基本的な特徴について見ていきましょう。
EtherNet/IPの基本
産業分野における通信技術の進化は、効率的な自動化と制御に不可欠な要素となっています。イーサネットベースの通信プロトコルのEtherNet/IPは、工業用ネットワークにおいてデバイス間のリアルタイム通信と制御を可能にします。自動化システムや製造ライン、プロセス制御など、多岐にわたる産業アプリケーションにおいて、デバイス同士の円滑な情報共有が重要です。
産業用通信の基本構造を見てみましょう。EtherNet/IP産業用通信ネットワークでは、通信システムの異なる要素がどのように連携しているかを理解するために、通信の OSI モデルおよび TCP/IP モデルを考えることが役立ちます。
データ通信は、Common Industrial Protocol（CIP）を使用して上位層やアプリケーション層で生成されます。これは、HTTP や SMTP などの機能を含む層です。CIPを使用することで異なるベンダーのデバイス同士でも互いに通信が可能です。
トランスポート層では、CIP情報がカプセル化され、EtherNet/IPではTCPヘッダーまたはUDPヘッダーが使用されます。
ネットワーク層では、論理アドレス情報が追加されます。EtherNet/IP の場合、インターネットプロトコル（IP）情報が含まれ、これによりパケットはネットワークにアクセス可能な状態になります。
データリンク層と物理層では、パケットを送信メディアに変換し、衝突を避けるための対策が施される場合もあります。これをまとめてネットワークアクセス層と呼びます。
CIP の主要なユーザーデータは、トランスポート層、ネットワーク層、データリンク層、物理層を独立して経由し、この階層構造のおかげで様々なネットワークや送信メディアが使用可能となります。つまり、レイヤー 2の スイッチやレイヤ ー3 のルータを介して有線、ワイヤレスなどを使って EtherNet/IP プロトコルを利用できます。
EtherNet/IPの特徴
冗長化による信頼性の向上
EtherNet/IPのリング・トポロジによる冗長化システムについて、見ていきましょう。このシステムは通信の信頼性を高めるための重要です。
製造プロセスや制御システムにおいて、通信の中断は大きな影響を及ぼす可能性があります。こうした課題に対処する手段として、EtherNet/IPはリング・トポロジによる冗長化システムをサポートしています。リング・トポロジは、複数のデバイスがリング状に接続されるネットワーク構造です。各デバイスは前後のデバイスと接続され、データは順番にデバイスからデバイスへと伝達されます。この双方向通信の仕組みにより、データの流れがシームレスに保たれるのです。
では、なぜリング・トポロジが冗長化に有効なのでしょうか？それは、複数の伝送経路が存在するからです。
もし通信経路の一部が異常によって切断されたとしても、他の経路を通じてデータがリング内を循環し続けるため、通信の継続性が保たれます。この冗長性によって、通信中断による生産や制御への影響を最小限に抑えることが可能です。異常が発生した際には、システムは自動的にその異常箇所を検出し、通信経路を切り替えます。これにより、通信の継続性が確保され、安定したネットワーク運転が可能となります。異常が解消されると、システムは元の経路に戻ります。
特にリアルタイム性が求められる産業分野において、リング・トポロジによる冗長化システムは非常に有用です。製造プロセスや制御システムでは、データ通信の中断が生産停止や制御不能な状況を招く可能性があります。こうしたリスクを回避するために、リング・トポロジの冗長化システムが導入されています。産業分野における通信の要として、異常時でも安定したネットワーク運転を保証する頼もしいツールと言えます。
CIP Safety on EtherNet/IPによる安全機器と非安全機器の共存
産業分野におけるネットワーク設計では、安全性と生産性のバランスを取ることが求められます。その中で、CIP Safety on EtherNet/IPという概念は、安全性と効率性のバランスを保つための鍵となります。この概念はEtherNet/IPネットワーク内で安全機器と非安全機器を効果的に統合できる方法を提供します。
1. セーフティ通信の確保
CIP Safety on EtherNet/IPは、セーフティ関連のデータをリアルタイムで効率的に送受信するための機能を提供します。このプロトコルは、セーフティデバイスとの安全な通信を保障し、適切なタイミングでセーフティ情報が共有されることを可能にします。セーフティ関連のイベントや状態変化が迅速に伝達されることで、安全な作業環境が確保されます。
2. リアルタイム性の確保
EtherNet/IPベースのCIP Safetyは、産業制御においてリアルタイム性が不可欠です。このプロトコルは、高いパフォーマンスと正確性を提供し、通信の遅延を最小限に抑えます。リアルタイム性の確保により、安全データの送受信が予測可能なタイムフレームで行われ、セーフティ関連の問題がすばやく特定および対処できるようになります。
3. セーフティレベルの分離
CIP Safety on EtherNet/IPは、セーフティデータと通常の制御データを物理的に分離する機能を提供します。これにより、セーフティデータが他の通信に干渉せず、安全性の確保が容易になります。異なるデータタイプがネットワーク上で効果的に共存し、セーフティ制御が正確かつ信頼性の高い環境で実現されます。
4. 統合性と拡張性
CIP Safety on EtherNet/IPは、一般的なEtherNet/IPベースの制御システムとシームレスに統合できるように設計されています。既存のネットワークに新たなセーフティデバイスや機能を追加する際にも柔軟に対応でき、システムの拡張が容易です。これにより、セーフティの向上と生産プロセスの最適化が持続的に進められます。
5. ネットワーク管理の簡素化
CIP Safety on EtherNet/IPにより、ネットワーク内で安全機器と非安全機器を統合する際の管理が簡素化されます。セーフティデバイスと通常の制御デバイスが効果的に共存し、複雑なネットワーク設計が容易になります。これにより、運用および保守がスムーズに行え、効率性が向上します。
6. 運用コストの削減
セグメント分離により、セーフティデータと通常の制御データの通信が分離されるため、通信の遅延が抑制されます。これにより、運用コストが削減され、リアルタイムなセーフティデータの伝達が確保されます。効率的な通信と運用により、トータルコストが低減される効果が期待されます。
CIP Safety on EtherNet/IPは、産業分野における安全性向上と効率性の向上を両立させるための重要なプロトコルです。このプロトコルの特徴と利点を最大限に活用することで、工場内の安全性を高めつつ、生産性を向上させることが可能です。
高度な同期制御で可能にする
自動化技術が製造業界を効率的に変えていく中、EtherNet/IPプロトコルは高度な同期制御の重要な要素となっています。CIP Sync時刻同期とCIP Motion多軸同期制御という特徴にフォーカスし、EtherNet/IPの特性を探ってみましょう。
CIP Sync時刻同期：精密なタイミング制御の実現
製造プロセスや制御システムにおいて、デバイス間の正確なタイミング同期は欠かせません。CIP Sync時刻同期は、EtherNet/IPプロトコル上でデバイスの時刻を高度に同期させる機能です。これにより、データ通信や制御動作のタイミングを精密に調整し、製造プロセスの一貫性を保ちます。異なるデバイス間での正確な同期が実現されることで、生産ライン全体の効率が向上し、品質向上にも寄与します。
CIP Motion多軸同期制御：運動制御の高精度化
製造ラインやロボットの複数のアクチュエータやモーターを同時に制御することは、生産性向上と運動制御の精度向上につながります。CIP Motion多軸同期制御は、EtherNet/IPプロトコルにおいて複数のアクチュエータの同期制御を実現する機能です。これにより、異なる動作を正確に同期させ、スムーズな運動制御が可能となります。生産プロセスの効率化と品質の向上を達成するために、CIP Motionは不可欠な要素として活用されています。
セキュリティ強化で信頼性を高める：CIP SecurityとEtherNet/IP
世界中の製造メーカーが未来に向けてデジタルトランスフォーメーションを推進し、その中でも重要な要素としてサイバーセキュリティが注目されています。この戦略の中で、サイバーセキュリティはどのような役割を果たすのでしょうか。その答えには、強力なポリシー、物理的な保護、ネットワークインフラ、および機器の保護という要素が含まれています。特に機器の保護においては、IEC62443-3-3規格を活用して、使用される機械の安全性を評価することが重要です。この規格は、産業用オートメーションおよび制御システムのサイバーセキュリティを評価するための共通の基準として位置付けられています。
産業用制御システムにおいて、セキュアな通信を実現するためには、デバイスベンダー間での協力が不可欠です。この協力を通じて、セキュリティ対策を効果的かつ効率的に実装することが可能です。CIP Securityの登場により、エンドユーザーはセキュリティ対策を迅速かつ徹底的に実装できるようになりました。ODVAはCIP Securityの仕様を作成し、リリースすることで、産業用オートメーションネットワークのセキュリティ向上を支援しています。ここで注目すべきは、EtherNet/IPの機密性プロファイルの機能です。これに焦点を当ててみましょう。
デバイスの識別
銀行や電子メールシステムで用いられる暗号化による信頼性の確立と同様に、産業用制御システムでもデバイスの識別が重要です。CIP Securityを使用する多くのベンダーは、デバイスに証明書を組み込むことで識別を行います。これにより、信頼できるルートを提供し、システム内での信頼性を確保します。システムを構築する際には、どのデバイスやシステムを信頼するかを制御することができます。
デバイス認証とデータの整合性
デバイス認証とデータの整合性も重要な側面です。秘密鍵を使用して、メッセージの送信元とデータの改ざんの有無を認証できます。CIP Securityでは、ハッシュメッセージ認証コード（HMAC）が使用され、データの信頼性を確保します。
データ機密性
データの暗号化もセキュリティの重要な要素です。CIP Security対応デバイスは、TLSやDTLS暗号化を通じてデータを保護し、機密情報やプロセス情報の安全性を確保します。これにより、産業用制御システムの最終レベルのセキュリティが向上します。
CIP Securityは、産業用オートメーションネットワークのセキュリティ強化を推進し、信頼性と安全性を確保するための強力なツールとなっています。デバイスの識別、認証、データの整合性、データの機密性といった側面がCIP Securityの重要なメリットとして挙げられます。このセキュリティ対策により、製造業界はデジタル時代においても安全かつスムーズな運用を実現できるでしょう。
まとめ
製造業や産業分野において、EtherNet/IPは重要な役割を果たしています。このプロトコルは、製造プロセスのリアルタイム通信や運動制御、セキュリティ強化など、さまざまな側面で効果を発揮しています。冗長化システムやCIP Safety、CIP Sync時刻同期、CIP Motion多軸同期制御、CIP Securityなどの特徴により、高度な安定性と制御性が実現されています。
