「なんで今どき、お絵描きみたいなラダー図でプログラム組まなきゃいけないんだ! C言語なら3行で終わるのに!」 「なんだこのST言語とかいう英語の羅列は! モニタしてもどこで電気が止まってるか一瞬で分からんやないか!」
FA業界の休憩所やSNSでは、今日も「ラダー(LD) vs ST言語」の終わらない宗教戦争が繰り広げられています。
一昔前まではラダー一択でしたが、IEC 61131-3(国際標準)の普及や、情報系出身のエンジニアが増えたことで、この対立は激化する一方です。
結論から言います。 「どっちか」を選ぼうとしている時点で、あなたの技術はそこで止まっています。
今回は、ハードウェアの「ねじ vs スプリング」に続くパラダイムシフト第2弾。 ラダーとST、それぞれの致命的な弱点を暴露し、現場で最も賢い「ハイブリッド設計(インラインST & FB)」の極意を解説します。

なぜ「ラダー至上主義」は消えないのか?
若手エンジニアからすると「古い、ダサい、面倒くさい」と言われがちなラダー図。 しかし、日本の製造現場においてラダーは依然として「最強の言語」です。
その理由はたった一つ。「保全性(トラブルシューティング)」において、ラダーの右に出るものは存在しないからです。
夜中の3時に叩き起こされても読めるか?
想像してください。 深夜3時、ラインが停止して呼び出されました。眠い目をこすりながら盤を開け、PCを繋ぐ。 その時、モニタ画面に映るのが「英語のテキストコード(ST)」だったらどう思いますか?
- STの場合: 変数の値をウォッチウィンドウで確認し、IF文の分岐を頭の中で追う必要がある。
- ラダーの場合: 「切れている箇所(OFF)」が一目でわかる。
「ここが繋がっていない=このリミットスイッチが入っていない」 この直感的な視認性こそが、ラダーが現場の共通言語であり続ける理由です。設備を「止まらせない」ことに関しては、ラダーはC言語やPythonよりも圧倒的に優秀なのです。
それでも「ST言語」が必要な理由
では、なぜ最近になってST言語(Structured Text)がもてはやされているのでしょうか? それは、ラダーには「致命的に苦手なこと」があるからです。
それは、「複雑な計算」と「文字列処理」です。
【比較】CSVログデータの作成
例えば、トレーサビリティのために「ロット番号(文字列)と重量(数値)を繋げてCSV形式にする」という処理を考えてみましょう。 やりたいこと:"LOT-001, 12.5" という文字列を作りたい。
▼ ラダーで書いた場合: 文字列転送、数値→文字列変換、文字結合……これらをパズルのように組み合わせる必要があります。 「一時メモリ(バッファ)」を大量に消費し、どのレジスタに何が入っているか管理するだけで一苦労です。途中で1箇所間違えても気づきにくい。「スパゲッティコード」の完成です。
▼ STで書いた場合:
// ロットNo, カンマ, 重量を結合
LogString := CONCAT(LotNo, ', ', REAL_TO_STRING(Weight));
たった1行です。 「文字列操作」「複雑な数式」「IF文による条件分岐」。これらをラダーで書くのは、スプーンで穴を掘るようなものです。ショベルカー(ST)を使ったほうが圧倒的に早いのです。
解決策:【ハイブリッド設計】のススメ
「保全のラダー」か、「効率のST」か。 答えは「混ぜる」です。 現代のPLC(三菱電機 GX Works3やキーエンス KV STUDIO、オムロンSysmacStudioなど)には、この2つを共存させる機能が備わっています。
百聞は一見にしかず。まずは「ハイブリッド設計」の形をご覧ください。

▲ 上段: ラダーの中に埋め込まれた「インラインST」 ▲ 下段: STで書かれた中身を持つ「FB(ファンクションブロック)」
この2つの使い方を解説します。
① その場の計算なら「インラインST」
「わざわざ部品を作るほどでもないけど、この計算だけはラダーで書きたくない…」 そんな時は、ラダー回路の中に直接STを書ける「インラインST」機能を使います。
- イメージ: ラダー回路の途中に「STの小窓」を作る。
- 使い方: ラダーの接点条件(X0)の先に、ボックスを置いて処理を書く。
画像の通り、面倒な CONCAT(文字結合)や REAL_TO_STRING(数値変換)も、ラダー上の小窓の中でサクッと記述できます。変数定義の手間もなく、ここだけSTの恩恵を受けられる便利な機能です。
② 使い回すなら「ST記述のFB(ファンクションブロック)」
同じ計算や制御を何度も使うなら、「中身をSTで書いたFB」を作ります。
- 外側(メインルーチン):ラダーで書く
- 画像の下段を見てください。保全マンが見るのはこのシンプルな「箱」だけです。全体の流れが一目でわかります。
- 中身(ブラックボックス):STで書く
- 箱の中を開けると、以下のようになっています。

複雑な計算ロジックは、このようにFBの中に隠蔽します。 ラダーで見ても意味不明な計算式は、隠してしまった方が逆に見やすいからです。
【補足】変数の型について
STをやるなら、変数の型(データタイプ)の意識が必須になります。 GX Works3なら、以下のようにリストから選ぶだけなので難しくありません。実数を扱うなら「単精度実数」、文字なら「文字列」を選びましょう。

「ラダーとSTのハイブリッド設計、面白そうだけど会社でいきなり試すのは怖い…」という方は、自宅でこっそりスキルアップしてしまうのが一番の近道です。
新しい設計(変数・構造化)を学ぶなら『実践 PLCプログラム設計』
この記事で紹介した「変数(ラベル)」や「FB(ファンクションブロック)」を使った設計手法が、体系的にまとまっています。 「Dレジスタの管理に疲れた……」という人が読むと、世界が変わる一冊です。
万が一のために自宅に置いておきたい実機
『三菱電機 FX5S シーケンサ』
⚠️ 注意:古い「FX3S」などはインラインSTに対応していません。
まとめ:二刀流こそが次世代の標準
- 「ラダーしか書けない」 = 複雑な制御から逃げている、計算が苦手なエンジニア。
- 「STしか書けない」 = 現場の泥臭いトラブル対応を知らない、独りよがりなエンジニア。
これからのFAエンジニアに必要なのは、「ラダーで骨格を組み、STで頭脳を作る」という二刀流のスキルです。
「どっちがいい?」と戦っている暇があったら、両方の武器を磨きましょう。 ラダーの中に「インラインST」を一行書くだけで、あなたのプログラムは見違えるほどスッキリするはずです。
※本記事で使用している画面は、三菱電機株式会社「GX Works3」の操作画面です。
※GX Works3、MELSECは、三菱電機株式会社の登録商標です。
※本記事で紹介しているプログラムや回路図は、技術解説のためのサンプルです。実機での動作を保証するものではありません。
※実際に使用する際は、十分な検証を行った上で、安全に配慮して運用してください。
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