「試運転の時は動いたのに、現場でお客さんが使い始めたら誤動作した!」 「インバータが回ると、センサーが勝手にONになる…」
これらはすべて、電気設計者の天敵「ノイズ」の仕業です。 ノイズは目に見えず、いつ発生するかも分かりません。だからこそ、設計段階で「入らせない」「逃がす」対策をしておく必要があります。
今回は、教科書の難しい電磁気学は抜きにして、現場でこれだけは守りたい「アース(接地)」と「シールド線」の鉄則を解説します。
1. そもそも「ノイズ」って何?
難しく考える必要はありません。ノイズとは「本来の信号に混ざり込んだ、余計な電気の波」です。
- 加害者(ノイズ源): 大きな電流を高速でON/OFFするもの(インバータ、サーボ、リレーの開閉など)。ここから「余計な電気の波」が撒き散らされます。
- 被害者(ノイズを受ける側): 微弱な電流で動くもの(センサー信号、アナログ信号、通信線)。
対策の基本は、「加害者と被害者を離すこと」そして「被害者にバリアを張ること」です。
2. 鉄則①:アースは「一点接地」が最強
ノイズ対策の基本はアース(接地)ですが、つなぎ方を間違えると逆にノイズを引き込みます。 初心者が絶対に守るべきルール、それは「一点接地(スター配線)」です。
❌ ダメな例:「渡り配線(デイジーチェーン)」
「端子台が近いから」といって、アース線を次々と数珠つなぎにしていく方法です。 これだと、遠くの機器で発生したノイズ電流が、他の機器のアースを通って戻ってくるため、すべての機器がノイズの影響を受けてしまいます。また、「グランドループ」というノイズのアンテナを作ってしまいがちです。
⭕ 良い例:「一点接地(スター配線)」
すべての機器のアース線を、制御盤内の「メインアースバー(接地母線)」という一箇所に直接つなぐ方法です。 これなら、ある機器がノイズを出しても、汚れた電気は最短距離で大地へ逃げていき、他の機器には回り込みません。
現場の合言葉: 「アースはケチるな、横着するな。一本ずつ親元(アースバー)へ返せ!」
【図解:一点接地 vs 渡り配線】

- 左(良い例): 各機器からメインアースバーへ個別に配線されています(スター配線)。ノイズの逃げ道が確保され、他の機器への干渉を防ぎます。
- 右(悪い例): 機器間でアース線が数珠つなぎになっています(渡り配線)。これにより、赤矢印のような「グランドループ」が形成され、ノイズが循環してトラブルの原因となります。
3. 鉄則②:動力線と信号線は「離す」
これは物理的な距離の話です。 インバータの動力線(200Vなど)は、強力な磁界を出しています。その真横に微弱なセンサー線(24V)を這わせると、電磁誘導によりセンサー線にノイズが乗ります。
- ルール: 動力線と信号線は、最低でも 200mm(20cm) 以上離す。
- ダクト: 可能ならダクトを分ける。分けられない場合は、ダクトの中に「セパレーター(仕切り板)」を入れる。
「きれいな水(信号)」と「汚水(動力)」を同じパイプに通してはいけません。
4. 鉄則③:信号線のシールドは「片端接地」が基本
ノイズに弱い信号(アナログ信号など)には、アルミ箔や編組で覆われた「シールド付きケーブル」を使います。 さて、このシールド。両端をアースにつなぐべきか、片方だけか?
結論から言うと、FA(工場自動化)の信号線においては「片端接地(制御盤側のみ)」が基本ルールです。
なぜ「両端接地」だとマズイのか?
工場の大地には、インバータなどから漏れ出たノイズ電流が常に流れています。 もし両端をアースにつなぐと、このノイズ電流がシールド線の中を通ってしまい(グランドループ)、シールド自体がノイズを放射するアンテナになってしまいます。 本来守るはずの信号線に、自分からノイズを引き込んでしまうのです。
※例外:Ethernetケーブルやサーボのエンコーダケーブルなど、メーカー仕様書で「高周波対策のため両端接地」と指定されている場合はそれに従ってください。
【図解:シールド線の片端接地】

- 構造: ケーブル内部の信号線が、金属の網組(シールド)で覆われている様子が分かります。
- 片端接地: 制御盤側(左)のみアースに接続し、センサー側(右)は未接続(オープン)にします。これにより、点線で示したような「グランドループ」が形成されるのを防ぎ、ノイズ電流の流入を防止します。
【コラム】えっ?「両端接地」するケースもあるの?
ここで鋭い読者は気づくかもしれません。「高圧受電設備のケーブルは両端接地だぞ?」と。 実は、目的によって正解が変わります。
① 高圧ケーブル(6600Vなど)の場合:
- 正解:両端接地
- 理由(安全優先): ケーブルが長く電圧が高いため、電磁誘導によってシールド自体に危険な電圧(数十ボルト以上)が発生する恐れがあります。人が触れた時の感電を防ぐため、両端をアースに落として電圧をゼロにする「安全」が最優先されます。
② 高周波通信・サーボエンコーダの場合:
- 正解:両端接地(またはコンデンサ接地)
- 理由(高周波特性): EthernetやMHz帯の高周波ノイズに対しては、シールドが「隙間のない金属の筒」として機能する必要があります。両端をつなぐことでインピーダンス(抵抗)を下げ、高周波ノイズを効率よく逃がす効果があります。
結論:
- 低周波・アナログ信号(FAの主流): ループ電流を防ぐために「片端接地」。
- 高圧・高周波通信: 目的(安全・高周波特性)に合わせて「両端接地」。
5. 鉄則④:DC24V電源のマイナス(GND)は必ず落とす!
制御電源(DC24Vスイッチング電源)のマイナス側をアースにつなぐかどうか。 昔は「ノイズをもらいたくないから浮かす(非接地)」という流儀もありましたが、現在は「必ずアースに落とす」のが世界標準です。
これは、国際規格 IEC 60204-1(機械の電気装置) でも明確に要求されているルールです。
理由は「地絡事故」の安全対策
もし非接地の状態で、プラス側の電線が切れて金属フレームに触れたらどうなるでしょうか? ヒューズは飛びません。そのまま動き続けます。 この状態で、もし別の箇所でも漏電すると、「スイッチを押していないのに機械が勝手に動き出す」という最悪の誤動作(2点地絡)が起こる可能性があります。
マイナス側をアースに落としておけば、プラス側が漏電した瞬間に「ショート」として検知され、ブレーカーや保護回路が働いて安全に停止できます。 「IEC規格準拠と安全のために、マイナス接地(機能接地)!」 これが現代の常識です。センサー選定で一番の落とし穴、「NPNとPNP、どっち選べばいいの問題」。海外装置との接続で火花を散らさないための知識を解説します。

まとめ:ノイズ対策は「確率」を下げる作業
- アース: 横着せずに「一点接地」する。
- 分離: 動力線と信号線は「20cm離す」。
- シールド: アナログ線などは「盤側のみ接地(片端)」が基本。
ノイズは見えませんが、これらの基本ルールを守ることで、トラブルの発生確率を劇的に下げることができます。 「動かない!」と現場で泣く前に、図面の段階で「きれいな配線」を意識しましょう。
