「センサーを注文しようとしたら、『NPNですか? PNPですか?』と聞かれた」 「海外製の装置に日本のセンサーを付けたら動かない!」
電気設計の初心者が必ず一度はハマる落とし穴、それが「NPN / PNP 問題」です。 カタログには「シンク(Sink)」「ソース(Source)」なんて専門用語も出てきて頭が痛くなりますが、仕組みは単純です。
今回は、「どっちを選べばいいのか?」の判断基準と、配線で一番間違えやすい「COM(コモン)端子の極性」、そして間違えて買ってしまった時の「現場の裏技」まで解説します。
1. そもそもNPN / PNPって何が違う?
難しく考えず、「スイッチがONした時、信号線がどうなるか?」の違いだと覚えましょう。
① NPN出力(シンク / 吸い込み)
- 動作: スイッチONで、信号線が「0V(マイナス)」につながる。
- イメージ: 電流をセンサーの中に「吸い込む(Sink)」。
- 分布: 日本・アジアで圧倒的シェア。日本の古い設備はほぼこれ。

② PNP出力(ソース / 吐き出し)
- 動作: スイッチONで、信号線から「24V(プラス)」が出てくる。
- イメージ: 電流をセンサーから「吐き出す(Source)」。
- 分布: 欧州(ヨーロッパ)・アメリカで標準。最近は日本でも安全規格対応のために増えている。

覚え方:
- NPN = No voltage (0V) になる
- PNP = Positive voltage (+24V) が出る
2. 最大の難所:「コモン(COM)」のつなぎ間違い
センサーを選ぶ時、一番大事なのは「つなぐ相手(PLC入力ユニット)」に合わせることです。 ここで「コモン(共通端子)」の極性を逆にすると、絶対に動きません。
NPNセンサーを使う場合
- センサーが「0V」にするスイッチなので、PLC側の入力は電流を流し込む必要があります。
- PLCのCOM端子: 「+24V」につなぐ! (※ここが直感と逆で混乱ポイントです!)

PNPセンサーを使う場合
- センサーから「24V」が飛んでくるので、PLC側の入力は電流を受け取る必要があります。
- PLCのCOM端子: 「0V」につなぐ! (※こちらは素直な感覚です)

3. なぜ世界(欧州)は「PNP」なのか?
「日本で普及しているNPNの方が、マイナス制御で分かりやすいじゃん」と思うかもしれません。 しかし、グローバルスタンダードがPNPなのは、明確な「安全上の理由」があります。
怖いのは「地絡(ショート)誤動作」
現場のケーブルが擦れて被覆が破れ、金属フレーム(アース/0V)に触れてしまった事故を想像してください。
- NPNの場合(危険): 信号線がフレーム(0V)に触れると、センサーはOFFなのに、電気的には「0Vになった(ONした)」のと同じ状態になります。 つまり、「配線がショートしただけで、機械が勝手に起動してしまう」リスクがあります。これは非常に危険です。
- PNPの場合(安全):信号線がフレーム(0V)に触れても、センサーがOFFの間は何も起きません(勝手に動くことはありません)。もし地絡したままセンサーがONになれば、その瞬間に24Vと0Vがぶつかってショートし、ヒューズが飛んだりセンサーの保護機能が働いて停止します。 「異常があれば、動かさずに止める」。これがPNPが安全とされる理由です。
この「壊れた時に、安全側に倒れる(フェイルセーフ)」という思想から、安全規格に厳しいヨーロッパではPNPが標準化されているのです。
| 状況 | NPNの場合(危険) | PNPの場合(安全) |
| 地絡した瞬間 | センサーOFFなのに機械が勝手に動く。(一番怖い!) | 何も起きない。 |
| センサーON時 | 普通に機械が動く(地絡に気づけない)。 | ショートして電源が落ちる。(異常を知らせて止まる!) |


4. どっちを選べばいいの?
設計時の判断チャートは以下の通りです。
Q1. 接続先のPLCは決まっているか?
- YES(盤がすでにある): PLCの入力カードの型式を確認。「シンク入力(NPN用)」か「ソース入力(PNP用)」かに合わせるのが絶対条件。 (※最近の三菱iQ-Fやキーエンスなどは、配線次第でどっちも使える「共用タイプ」が多いので楽です。)
- NO(これから設計): Q2へ進む。
Q2. 輸出案件か? 安全規格(セーフティ)が必要か?
- YES: 海外向け、あるいは安全カテゴリ(PL/SIL)を要求される回路(非常停止やライトカーテン)なら、迷わず「PNP」を選びましょう。
- NO(国内の一般設備): 特に指定がなければ、入手性が良く慣れている「NPN」でも問題ありません。ただし、上記の地絡リスクは頭に入れておきましょう。
5. 【現場の裏技】間違えて買った時は「リレー」で逃げろ!
「NPNのPLCなのに、間違えてPNPセンサーを買ってしまった…」 「納期がないから買い直せない!」
そんな時、現場のプロが使う必勝の変換テクニックがあります。 それは、「リレーを一つ挟むこと」です。
仕組みは単純
センサーで直接PLCに入力するのではなく、「センサーで一旦リレーをONさせ、そのリレーの接点をPLCに入れる」のです。
- センサー側: センサーの出力で、小型リレー(オムロンMY/G2Rなど)のコイルをON/OFFさせる。(NPNならコイルの片側を+24Vへ、PNPなら0Vへつなぐ)
- PLC側: リレーのa接点(ドライ接点)をPLCの入力につなぐ。
リレーの接点には極性(プラス・マイナス)がありません。 そのため、この方法を使えばNPNだろうがPNPだろうが、どんなPLCにでも無理やり接続することが可能になります。
注意点: ただし、リレーは機械的に動くため、反応速度が遅いです(数ms〜数十ms)。1秒間に何十回もON/OFFするような高速なセンサー(光ファイバーなど)には使えません。あくまで「通過確認」や「着座確認」などの低速信号用として使いましょう。
まとめ:コモンの極性に注意せよ!
- NPN: 日本の標準。0VでONする。PLCのコモンはプラス(+24V)。
- PNP: 世界の標準。24Vが出る。PLCのコモンはマイナス(0V)。
- 安全: 配線ショート時に勝手に動かないのはPNP。
- 困ったら: リレーを挟めばなんとかなる(低速信号に限る)。
「間違えて買ったけど、なんとかならない?」と現場で青ざめないように、注文前の型式確認(末尾が-Cか-C3か、などメーカーによる違い)を徹底しましょう!
次回は、電気図面の読み書き基礎。「a接点・b接点」の真の意味と、シーケンス図の「自己保持回路」を3分で理解する!

