装置が原因不明の誤動作(チョコ停)を起こした時、新人が真っ先にやる対策。それは「ケーブルをシールド付きに交換する」ことです。
「シールドしたんで、もう大丈夫です!」そう報告に来る新人に、私はこう問います。
「で、ノイズの『発生源』はどこなの?」
もし答えられないなら、その対策は「雨漏りしているのに、屋根を直さずに家の中で傘をさしている」のと同じです。傘(シールド)の隙間から濡れるかもしれないし、いつか傘も突き破られるでしょう。
実務9年の電気設計者として断言します。 プロのノイズ対策の鉄則、それは「守り(シールド)」ではなく、「攻め(発生源の除去)」です。
盤内でカチカチと音を立てている「リレー」や「ソレノイドバルブ」。 犯人は十中八九、こいつらです。
この記事では、ノイズの息の根を止める最終兵器「サージキラー」について、物理的根拠から現場での型番選定まで徹底解説します。 ただし、選ぶ武器を間違えると、逆に機械の寿命を縮めることになります。正しい知識を身につけてください。
真犯人「逆起電力(サージ)」の正体
なぜ、リレーやソレノイドがノイズを出すのでしょうか?その正体は、コイルが持つ「現状維持バイアス」です。

コイルは「変化」を嫌う(レンツの法則)
コイル(誘導負荷)には、「流れている電流の変化を妨げようとする」性質があります(レンツの法則)。
- ONしている時: 電流が気持ちよく流れている。
- OFFした瞬間: いきなり電流を止められる。
- コイルの激怒: 「ふざけるな! 今まで通り流し続けろ!」と暴れる。
この時、コイルは無理やり電流を流し続けようとして、電源電圧の10倍〜20倍もの「高電圧(逆起電力)」を一瞬にして発生させます。 DC24Vの回路であっても、OFFした瞬間には数百ボルト〜数千ボルトのスパイク電圧(サージ)が発生しているのです。
この「断末魔の叫び」が、接点のアーク(火花)となり、強烈な電磁波ノイズとなって、近くにいるPLCやタッチパネルの脳を破壊します。
武器を選べ(3大サージキラー)
この「逆起電力」を殺すための部品が「サージキラー(スパークキラー)」です。 外付け部品を買ってきてもいいですが、「最初から内蔵されたリレーを買う」のがプロの定石です。
| 種類 | 特徴(ここを見ろ) | 主な用途・型式例 |
|---|---|---|
| ① ダイオード |
最強の殺し屋。 サージ電圧を100%還流させて熱に変える。 ※サージ抑制能力:◎ |
DCコイル専用 DCリレー、DCソレノイド おすすめ(内蔵型) 1. オムロン:G2RV-ST (標準でダイオード内蔵済) 2. オムロン:MY2N-D2 (表示灯付は D2、なしは D) |
| ② CR方式 |
バランス型。 コンデンサと抵抗で吸収する。 ※サージ抑制能力:○ |
ACコイル推奨 ACマグネット、ACソレノイド おすすめ(内蔵型) オムロン:MY2N-CR (型式末尾 CR が目印) |
| ③ バリスタ |
電圧クリップ。 ある電圧を超えるとショートして吸収。 ※サージ抑制能力:△ |
汎用・保護用 雷サージ対策、簡易的な接点保護など |
① ダイオード方式(DC専用)
DC24Vのリレーやソレノイドなら、迷わずこれを選んでください。 コイルと並列に、電流の向きと「逆向き(カソードをプラス側)」に入れます。
- 効果: OFFした瞬間の逆起電力を、ダイオードを通してグルグル回し(還流させ)、コイル自身の抵抗で熱として消費させます。ほぼ完全にサージを消せます。
- 内蔵リレー: オムロンなら型式末尾に「-D」「-D2」がついているものを選べば、最初からダイオードが入っています。後付けの手間がゼロです。
- 注意: 極性を逆に繋ぐと、電源ショートでヒューズが飛びます(新人の洗礼)。
② CR方式(AC/DC両用)
コンデンサ(C)と抵抗(R)を直列にしたものです。
- メリット: 交流(AC100V/200V)のリレーや電磁接触器にはこれ一択です。ダイオードは交流では使えません(ショートします)。
- 内蔵リレー: オムロンなら型式末尾に「-CR」がついているものを選びます。
③ バリスタ方式
「ある電圧(バリスタ電圧)」を超えると、抵抗値が急激に下がって電気を通す素子です。雷サージ対策などによく使われますが、コイルのサージ対策としては「電圧を一定以下に抑える」だけで、エネルギーを消し去る能力はダイオードに劣ります。
※ちなみに「雷対策」で使うSPD(避雷器)も、中身はこのバリスタの親玉(巨大版)です。今回は「盤内のリレー」の話なので、SPDとは別物と考えてください。

設置場所を間違えるな(距離の罠)
「サージキラーが必要なのは分かりました! 盤内が汚くなるのが嫌なので、端子台のところにまとめて付けました!」
その対策、0点です。
サージキラーには、「発生源の直近(1cmでも近く)に付けろ」という絶対の鉄則があります。

※図の赤い波線について: サージキラーを遠くに設置すると、そこまでの配線が「送信アンテナ」となり、図のようにノイズ電波を周囲に撒き散らしてしまいます。だから「発生源の直近」で殺さなければならないのです。
なぜ「遠く」ではダメなのか?
コイル(リレー)から、離れた端子台までの「電線」を想像してください。サージキラーまでの距離が長いと、サージ電流がその長い電線を往復することになります。
高周波のサージ電流が流れる電線。それはもはや電線ではなく、「ノイズを撒き散らすアンテナ」です。遠くに付ければ付けるほど、盤内に強力なノイズ電波を発信することになります。
- × NG: 離れた中継端子台に付ける。
- 〇 OK: リレーのコイル端子に共締めする。
- ◎ ベスト: 「サージキラー内蔵型」のリレーや、「サージキラー付きDINコネクタ」(ソレノイド用)を使う。
特にソレノイドバルブは盤外にあることが多いため、必ず「サージキラー付き」のコネクタを選定してください。数十円をケチって数百万の設備を止めるのは愚策です。
副作用に注意せよ(復帰遅れ)
「じゃあ、全部のリレーにダイオードを入れればいいんですね?」基本はYESですが、一つだけ「副作用」があることを知っておいてください。
それは、「復帰時間(OFFするまでの時間)が遅れる」ことです。
なぜ遅れるのか?
ダイオード方式は、コイルに残ったエネルギーを「還流」させて、使い切るまでグルグル回し続けます。
エネルギーが残っている間、コイルは磁力を持ち続けるため、「OFF信号を出したのに、リレーや弁がしばらく戻らない」という現象が起きます。
- サージキラーなし: 瞬時に切れる(サージは出る)。
- ダイオードあり: 数十ms〜数百ms 遅れて切れる(サージは出ない)。
実害が出るケース
通常の搬送ラインなら問題ありませんが、以下のケースでは致命傷になります。
- 高速選別機のエアーブロー: 「プシュッ!」と吹くタイミングがズレて、不良品を弾き損ねる。
- 高頻度開閉リレー: 接点が離れる速度が遅くなるため、アークが飛びやすくなり、逆に接点が溶着する(貼り付く)。
この場合は、CR方式にするか、ダイオードにツェナーダイオードを組み合わせて「適度に電圧を逃がしつつ、素早く止める」という上級テクニックが必要になります。「対策には必ず副作用がある」。これもプロの常識です。
【現場の常識】なぜ「電磁クラッチ」にはバリスタを使うのか?
現場では、モーターの動力を切る「電磁クラッチ/ブレーキ」の保護に、ダイオードではなく「バリスタ」がよく選ばれます。なぜか分かりますか?
理由は、ここまで解説した「復帰遅れ」を嫌うからです。
- ダイオードを入れた場合:
電流が還流しすぎて、OFF信号を出してもクラッチがなかなか切れず、機械が滑って停止位置がズレたり、最悪の場合は事故になります。 - バリスタを入れた場合:
ある程度の電圧までは許容してピークだけをカットするため、エネルギーの消費が早く、「スパッ」と切れ味よく動作します。
「保護したいけど、動作速度(切れ味)も大事」。そんな時は、あえて最強のダイオードを使わず、バリスタを選ぶ。これが設計者のバランス感覚です。
▼ アースとシールドの「鉄則」はこちら 今回は「発生源(攻め)」の話をしましたが、「ノイズを防ぐアースの引き方(一点接地)」や、「シールド線は片端・両端どっちで落とすべきか?」といった、配線の基本ルールについてはこちらの記事で解説しています。

まとめ:ノイズは見えない。だからこそ理論で殴れ
ノイズトラブルは目に見えないため、どうしても「おまじない(とりあえずシールド、フェライトコア)」に頼りたくなります。
しかし、電気は物理法則に従って動いています。
- レンツの法則を知っていれば、コイルが犯人だとわかる。
- アンテナの理屈を知っていれば、直近に付ける理由がわかる。
理論で発生源を特定し、適切な武器(サージキラー)で確実に仕留める。
それが「原因不明のトラブル」を根絶する唯一の道です。