【制御盤】トランス選定は容量だけ見るな!現場で泣かないための「熱・突入電流・SCCR」の常識

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制御盤の設計をしていて、現場での試運転中にこんな冷や汗をかいた経験はありませんか?

  • 「容量計算通り選んだはずなのに、電源を入れた瞬間にメインブレーカが落ちる…」
  • 「マグネットが入るたびに、盤内の照明が暗くなったり『ガガガッ』と異音がする…」
  • 「盤を開けたら、トランスの熱で上のPLCがチンチンに熱くなっている…」

これらは全て、トランス(変圧器)の選定・配置ミスが原因です。

トランスは単に「電圧を変える箱」ではありません。盤内の「熱源」であり、強烈な「突入電流の発生源」であり、時には回路を守る「防波堤(SCCR)」にもなる重要な部品です。

今回は、教科書にはあまり詳しく書かれていない「現場でトラブルを起こさないためのトランス選定・配置のセオリー」を、実務目線で徹底解説します。


目次

【容量選定】電流の足し算だけじゃダメ?「隠れた敵」を見抜け

「負荷の電流(A)を全部足して、それに合う容量(kVA)を選べばいいんでしょ?」

もしそう考えているなら、それは黄色信号です。

トランス選定で最も重要なのは、定常時の電流ではなく、「一瞬の突入電流」に耐えられるかどうかです。

「保持電流」と「始動電流」の違い

電磁弁(ソレノイドバルブ)や電磁接触器(マグネットスイッチ)のカタログをよく見てください。消費電力の欄に2つの数字がありませんか?

  1. 消費電力(常時 / 保持): 吸着した後に流れ続ける電流。
  2. 消費電力(始動 / 突入): 吸着する瞬間に流れる電流。

実は、コイルモノの部品は、ONする瞬間に定格(保持)の約10倍もの電流が流れます。

  • 自転車の漕ぎ出しと同じです。スピードに乗れば(保持)力はいりませんが、止まった状態から漕ぎ出す瞬間(始動)はめちゃくちゃパワーがいりますよね。
トランスの突入電流と保持電流の比較グラフ

容量不足で起きる「チャタリング」の恐怖

もし「保持電流」だけの足し算でギリギリのトランスを選ぶとどうなるか?

  1. 大きなマグネットがONしようとする(突入電流発生)。
  2. トランスの容量がいっぱいいっぱいで、電圧がガクンと下がる(電圧降下)。
  3. 電圧が足りず、マグネットの磁力が弱まりOFFになる。
  4. OFFになると電圧が戻り、またONしようとする…。

これを高速で繰り返すのが「チャタリング(ガガガガッ!という異音)」です。最悪の場合、接点が溶着したりコイルが焼損します。

プロが使う容量計算式

トランスの容量(VA)を決める時は、以下の式を目安にしてください。

推奨トランス容量 ≧ 全機器の保持VA合計 + 最大機器の突入VA

ただ全部足すのではなく、「一番デカい負荷がONした時の衝撃(突入)」を足しておくのがポイントです。これだけで、電圧降下トラブルは激減します。

【Q&A】なぜ「全機器の突入VA」を足さないのか?

鋭い方は「もし停電復帰などで、全ての機器が同時にONしたらどうするの?」と心配になるかもしれません。

結論から言うと、「全台同時起動」が起こりうるのは電源投入時くらいですが、それはシーケンス制御(ソフト)で回避するのが定石です。

  1. 基本は経済設計: 「万が一の全台同時ON」のためにトランスを数倍のサイズにするのは、コストとスペースの無駄です。
  2. 起動タイミングをズラす: もし全台同時に立ち上がる仕様だと、トランス以前に元電源への負担も大きすぎます。 電源投入時は、PLCのタイマー等を使って「0.5秒ずつズラして順次投入する」などのシーケンスを組むのが設計のセオリーです。

「ハード(トランス容量)で解決するのではなく、ソフト(制御)で解決する」のが、スマートな設計と言えます。「ベースの負荷」+「最大の一撃(突入)」さえ見ておけば、実用上は電圧降下トラブルを防げます。


【ブレーカ選定】トランス自身が引き起こす「励磁突入電流」

トランスの容量が決まったら、次は一次側のブレーカ選定です。ここにも大きな罠があります。

電源投入時の「即落ち」現象

「トランスの定格電流が10Aだから、10Aや15Aのブレーカでいいや」

これで選定すると、盤のメインスイッチを入れた瞬間にブレーカが「バチン!」と落ちることがあります。

原因は、トランス特有の「励磁突入電流(れいじとつにゅうでんりゅう)」です。

トランスは電源投入時、定格電流の10倍〜20倍もの電流が一瞬だけ流れます。普通のブレーカはこれを「ショートした!」と勘違いして遮断してしまうのです。

トランスを守るブレーカの選び方

この「誤遮断」を防ぐには、以下の2つのどちらかの対策が必要です。

1.特性で逃げる(推奨):一般的なブレーカではなく、「モータ保護用(D特性)」やメーカー推奨のトランス用遮断器を選びます。これらは一瞬の過電流では落ちないように設計されています。

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2.容量で逃げる:定格電流の 2〜3倍 程度の容量を持つブレーカを選定します。(例:定格10Aなら、30Aのブレーカにする)。ただし、配線サイズも太くする必要が出るため、コストやスペース面で不利になることがあります。

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【配置設計】「熱」か「重さ」か?究極の選択

図面を描く際、トランスをどこに配置していますか?

「熱は上に上がるから、トランスは上の方が放熱に有利では?」と考える方もいるかもしれません。

鉄則:それでもトランスは「盤の最下段」へ

理屈の上では、熱源を上に置けば排熱効率は良いです。しかし、制御盤設計では「安全(重心)」が最優先されます。

  • 重心と耐震性: トランスは鉄と銅の塊です。これを盤の上部に置くと重心が高くなり、搬入時の転倒リスクや、地震時の揺れが大きくなります。だから「重いものは下」が鉄則です。
  • 熱への対策: 下に置く代わりに、トランスの上には熱に弱い機器(PLCや電源)を直置きせず、十分な離隔距離を確保したり、ダクトで熱の通り道を作ったりして対策します。
制御盤内のトランス配置比較 熱対策と重心の安定

【応用】SCCRと短絡電流の計算方法

ここからは少しプロ向けの内容ですが、知っておくと役立つ「SCCR(短絡電流定格)」と計算の話です。

トランスは電気の「ダム」

トランスには内部抵抗(インピーダンス)があり、これがダムのような役割を果たします。

一次側にどれだけ強大な短絡電流(例:50kA)が来ていても、トランスを通すことで二次側の短絡電流は劇的に小さくなります。

【実践】中学生でもできる短絡電流計算

では、実際にトランスの二次側で最大何アンペアの事故電流が流れるのか?

これはカタログに載っている「%Z(パーセントインピーダンス)」を使えば、簡単に計算できます。

計算式:

短絡電流の計算式

計算例(容量1kVA、電圧200V、%Z=4.0% の場合):

1.まず定格電流を出します。

定格電流の計算過程

2.次に%Zを使って計算します。

短絡電流の計算結果

メリット:二次側は「SCCRの聖域」になる

計算の結果、二次側の最大短絡電流は125Aしかないことが分かりました。

つまり、トランス二次側に接続するマグネットや端子台は、SCCRが5kA(5000A)程度の安い汎用品でも、「5000A > 125A」なので余裕で合格となります。

結果として、「トランス一次側のブレーカ」さえ高遮断タイプにしておけば、盤全体のSCCRはクリアできることになります。トランスはコストダウンの強力な武器にもなるのです。

【重要】「オートトランス(単巻)」の罠

ここで一つだけ注意点があります。

防波堤の役割を果たすのは、一次側と二次側が分離されている「絶縁トランス(複巻)」だけです。

コストダウンのために「単巻トランス(オートトランス)」を使うことがありますが、これは電気的に直結しているため、短絡電流を制限する効果が期待できない(規格上認められない)ケースがほとんどです。

SCCR対策として使うなら、必ず「絶縁トランス」を選定しましょう。


まとめ:トランス選定の4つのチェックリスト

たかがトランス、されどトランス。

最後に、設計時に確認すべきポイントをまとめました。

  1. 容量計算: 「全台の突入」ではなく「最大機器の突入」を足して経済設計したか?
  2. ブレーカ: トランスの「励磁突入電流」で落ちない選定(D特性など)になっているか?
  3. 配置: 「熱効率」より「重心」を優先して下に置き、離隔距離で熱対策しているか?
  4. SCCR: 「絶縁トランス」を選び、二次側部品の選定を楽にしているか?

これらを意識するだけで、盤の品質と信頼性はグッと上がります。ぜひ次の設計から取り入れてみてください。

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