【電線選定の鉄則】カタログ値で選ぶと火を吹く?「許容電流」と「補正係数」の正しい計算式

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「2sq(ニスケ)の電線だから、許容電流は27Aだよね。20Aのブレーカーにつないでも余裕!」

もしあなたが、電線メーカーのカタログに載っている「許容電流一覧表」をそのまま信じて選定しているなら、今すぐその設計を止めてください。

その電線、盤内のダクトの中で高熱を持って被覆が溶け出し、最悪の場合はショート・火災につながるかもしれません。

今回は、カタログの数字がなぜ「罠」なのか、そして現場のプロが使っている「ダクト配線の安全ルール(魔法の係数0.5)」について解説します。


目次

1. そもそも「許容電流」とは何か?

許容電流とは、電線に流してもよい電流の限界値のことです。

しかし、これは「これ以上流すと電気が通らなくなる」という値ではありません。

「これ以上流すと、発熱で被覆(ビニールなど)が溶けたり燃えたりする限界」

を指します。

電線は抵抗を持っていますから、電流が流れると必ず発熱します(ジュール熱)。その熱で被覆が耐熱温度(一般的なIV/KIV線なら60℃〜75℃)を超えないように制限するのが、許容電流の正体です。


2. カタログ値の「罠」:条件が良すぎる!

では、なぜカタログの「ニスケ = 27A」を信じてはいけないのでしょうか?

カタログの欄外にある「算出条件」という小さな文字を読んだことはありますか? 大抵はこう書かれています。

条件:周囲温度30℃、気中1条布設(碍子引きなど)

これはつまり、「涼しい部屋(30℃)で、空中にたった1本だけピンと張った状態」という、放熱にとって最高の環境での数値なのです。

しかし、制御盤の中はどうでしょうか?

  1. 暑い: 盤内温度は夏場なら40℃〜50℃になります。
  2. 密集: 狭いダクトの中に、数十本の電線がギチギチに詰め込まれています。

これでは熱が逃げません。最高の条件の数字が当てはまるはずがないのです。


3. これがプロの計算式!「電流減少係数」

現実の環境に合わせて、カタログ値を減らして計算する必要があります。これを「ディレーティング(低減)」と呼びます。

この2つの係数が、電線の運命を左右します。

① 周囲温度補正係数 (k1)

「元々その場所がどれくらい暑いか」です。

電線の被覆が60℃まで耐えられるとして、周囲が30℃なら残り30℃分の発熱が許されます。しかし、周囲が50℃なら、あと10℃分しか余裕がありません。

  • 盤内(40〜50℃想定):係数 0.7〜0.8 程度

② 多条布設(束ね)補正係数 (k2)

「何本束ねているか」です。これが最も影響が大きいです。

  • 1本(カタログ条件):係数 1.0
  • 3本束ね:係数 0.7 程度
  • 10本以上:係数 0.5以下 になることも!

4. 【現場の疑問】ダクトの中で「バラバラ」なら大丈夫?

ここで、よくある質問があります。

「結束バンドで縛らずに、ダクトの中でバラバラに置いてあれば、放熱するから大丈夫でしょ?」

結論から言うと、「ダクトのフタをしたら、縛っていてもバラけていても『密』とみなせ」が正解です。

配線ダクト(カッチングダクト)は、プラスチックで囲まれた空間です。一度フタをしてしまえば、内部の空気の対流はほとんど起きず、そこは「蒸し風呂」状態になります。

重要なのは「占積率(せんせきりつ)」

ダクトの断面に対して、電線がどれくらい詰まっているか(占積率)がカギを握ります。

  • スカスカ(占積率20%以下): 電線同士に隙間があり、まだマシな状態。
  • パンパン(占積率60%以上): 右図のように、中心部の電線(赤色)は自分の熱に加え、周囲の電線の熱も受け取り、逃げ場を失います。こうなるとカタログ値の半分も流せません。

プロが使う「魔法の係数 0.5」

毎回ダクトの占積率を計算するのは現実的ではありません。

そこで、多くの設計者は「ダクトを通す動力線は、無条件で係数0.5(半分)で計算する」といった安全ルールを使っています。

例:KIV 2sq(カタログ27A)の場合

  • 負荷が10Aなら → 2sqでOK
  • 負荷が15Aなら → 2sqじゃ怖いから3.5sqに上げる

「計算がややこしいから、とりあえずワンサイズ上げておく」

電線コストは数百円の差ですが、これで火災リスクがゼロになるなら安いものです。

【深掘り】なぜ「0.5」なのか?本当にそれで安全か? 鋭い設計者のために、もう少し詳しく解説します。

「0.5」という数字は適当な経験則ではありません。

電線選定のルールブックである「JCS(日本電線工業会規格)」に基づくと、必然的に導き出される数字なのです。

具体的な根拠を見てみましょう。

① 温度補正係数が「約0.8」になる理由

電線に流せる電流は、周囲温度が上がると以下の「平方根の法則」で減少します。

一般的な制御盤(周囲温度 40℃)で、普通のKIV線(耐熱 60℃)を使った場合を計算してみます。

つまり、「盤内温度が 40℃ になった時点で、性能はカタログ値の 約0.8倍 に落ちる」ことが物理的に決まっているのです。

② 多条布設補正係数が「約0.6」になる理由

次に、束ねた時の減少率です。JCS0168-1(電気機器用配線指針)などの規格表では、以下のように定められています。

  • 1〜3本:0.70 〜 0.80
  • 4〜6本:0.56 〜 0.65
  • 10本以上:約0.50 〜 0.60

ダクトの中に電線が10本以上入るのは当たり前ですから、ここでは甘めに見積もっても 「0.6倍」 程度の影響を受けます。

③ 結論:掛け合わせると…

このように、計算結果はほぼ 「0.5(半分)」 になります。

「魔法の係数0.5」とは、どんぶり勘定ではなく、「40℃環境でダクト配線をするなら、物理的に半分しか流せない」 という冷徹な事実なのです。

【要注意】「0.5」でも燃える最悪のケース

ここが重要です。もし「耐熱60℃の普通のKIV線」を「50℃の灼熱の盤内」で使うとどうなるか?

温度補正係数はガタ落ちし、トータルで0.3倍(カタログの3割)しか流せなくなります。0.5倍の計算で選定していると、被覆が溶ける危険があります。

「係数0.5」が通用するのは、以下の条件の時だけです。

  • 耐熱温度の高い電線(HIV:75℃など)を使っている。
  • または、ファンやクーラーで盤内温度が40℃以下に保たれている。

「ファンなし、真夏は50℃、普通のKIV」という環境なら、迷わず「係数0.3」で計算するか、電線を1ランク太くしてください。


5. 鉄則:ブレーカーとの協調

最後に、前回の記事で決めた「ブレーカー容量(AT)」との関係を確認します。

ブレーカーは電線を守るためにあります。もし「20Aのブレーカー」の下に、「実効許容電流 13.5A(ダクト内2sq)」をつないだらどうなるか?過負荷で18A流れたとき、ブレーカーは落ちませんが、電線は限界を超えて発熱し続けます。これでは保護になりません。

ブレーカーが20Aなら、ダクト補正を考慮しても20A流せる太さ(3.5sq以上)を選ぶ

これが鉄則です。


まとめ

  1. カタログの許容電流(2sq=27A)は「最高の環境」での数値。そのまま信じてはいけない。
  2. ダクト内は「結束バンドの有無」に関わらず、熱がこもると考えよ。
  3. 計算が面倒なら、「電流値は半分(0.5倍)になる」と想定して電線サイズを選べ。
  4. ただし、盤内温度が50℃を超える過酷な環境では「0.5」でも危険。「0.3」を見るかHIV線を使え。
  5. 「ニスケ(2sq)で20A」は危険信号。 迷ったら3.5sqへ。

「たかが電線」ですが、盤内で最も長く、最も熱を持つ部品です。

余裕を持った選定が、10年後のトラブルを防ぎます。

次回は、これまでの知識を総動員した「制御盤の熱対策」。電線だけでなく、盤全体を冷やすためのファンの選定や熱計算の基礎について解説します!

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