【図面】「a接点・b接点」の真の意味と、なぜ非常停止はb接点なのか?(自己保持・タイムチャート入門)

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「電気図面(シーケンス図)を渡されたけど、迷路みたいで目で追うのが辛い…」 「回路図は何となく読めるけど、機械が動くイメージが湧かない」

電気制御を学び始めた人が最初にぶつかる壁が、この「静止画(図面)から動画(動き)を想像する」というプロセスです。

今回は、図面を読むための基礎単語である「a接点・b接点」の本当の意味と、プロが頭の中で再生している動画の正体「タイムチャート」、そして現場の命を守る「非常停止の重要機構」について解説します。


目次

1. 「a接点」と「b接点」の語源を知っていますか?

単に「押すとON」「押すとOFF」と暗記していませんか? 語源を知ると、設計者の「意思」が見えてきます。

① a接点 (NO: Normally Open)

  • 語源: Arbeits contact(ドイツ語で「働く」)
  • 状態: 通常は開いている(OFF)。
  • 役割: 指令を出した時だけ「仕事をする(つながる)」接点。
  • 用途: 起動ボタン、センサーの検知信号など。

② b接点 (NC: Normally Closed)

  • 語源: Break contact(英語で「壊す・遮断する」)
  • 状態: 通常は閉じている(ON)。
  • 役割: 指令を出した時に「回路を遮断する(切る)」接点。
  • 用途: 停止ボタン、インターロック(禁止回路)など。

ここがポイント: 単にON/OFFが逆というだけでなく、「働かせる(a)」か「遮断する(b)」か、という意思が名前に込められています。


2. 【最重要】なぜ「非常停止」は絶対にb接点なのか?

前回の記事(PNPセンサー)でも触れましたが、ここでも「安全(フェイルセーフ)」の思想が決定的な差となります。

b接点(押してOFF)なら安全

非常停止ボタンを「b接点」にしておけば、常時電気が流れています。 もし「配線が断線」したら、その瞬間に電気が止まり、機械は停止します。

  • ボタンを押した時 → 止まる(安全)
  • 線が切れた時 → 止まる(安全)

このように、「何があっても安全側に倒れる」ように設計するために、停止系のスイッチには必ずb接点が使われます。


3. 【深堀り】b接点なら何でもいいの?「溶着」の恐怖

「よし、b接点を使ったから安全だ!」 実は、これだけではまだ50点です。

電気スイッチには、「溶着(ようちゃく)」という恐ろしい現象があります。 大電流が流れたり、アーク(火花)が飛んだりして、接点の金属同士が溶けてくっついてしまう現象です。

もし接点が溶着していたら、いくらb接点でも、バネの力だけでは引き剥がすことができず、ボタンを押しても回路が切れなくなります。これではb接点の意味がありません。

そこで必須になるのが、「強制開離機構(きょうせいかいりきこう)」です。 (英語では Direct Opening Action と呼ばれます)

普通のスイッチ vs 非常停止用スイッチ

  • 普通のスイッチ: バネの力で接点を開こうとする。「くっついてたら、バネの力じゃ負けちゃう…(開かない)」
  • 非常停止スイッチ(強制開離): あなたがボタンを押し込む力を、機構内部で直接接点に伝えて、無理やり引き剥がす!

「何が何でも回路を遮断する」という執念のメカニズム。 非常停止スイッチの側面に「◯の中に→(矢印)が入ったマーク」が刻印されているのは、この機構が入っている証(あかし)なのです。


4. シーケンス制御の「Hello World」=自己保持回路

さて、安全の話から制御の話に戻りましょう。 工場の機械は、ボタンを「ポチッ」と一瞬押しただけで、ずっと動き続けます。ボタン自体はバネで戻るのに、なぜ機械は止まらないのでしょうか?

それは、電気が自分自身を捕まえて離さない「自己保持回路(ラッチ回路)」が組まれているからです。

仕組みは「自分のa接点」での迂回

1.起動: 起動ボタンを押すと、リレー(コイル)に電気が流れてONする。

2.保持: リレー(Y0)がONすると、そのリレー自身についている「a接点」もONする。

3.迂回: 起動ボタンを離しても、電気がその「自分のa接点」を通ってコイルに流れ続ける

これが、電気制御の基本中の基本、「自己保持」です。


5. 動きを可視化せよ!「タイムチャート」の読み方

ここまでの話を言葉や回路図だけで理解するのは大変です。 そこでプロが使う道具が「タイムチャート(タイミングチャート)」です。

回路図が「楽譜」なら、タイムチャートは「演奏そのもの」。時間の流れが見えます。

自己保持回路をチャートで見る

想像してみてください。(横軸が時間です)

  1. 起動ボタンのライン
    • 一瞬だけ「ポン」と山ができます(押して、すぐ離す)。
  2. リレーコイルのライン
    • 起動ボタンが立ち上がると同時にONになります。
    • ここが重要! 起動ボタンがOFFになって山が消えても、リレー出力のラインはずっと高いまま(ONのまま)右へ伸び続けます。

この「入力は一瞬なのに、出力はずっと続く」というズレこそが、自己保持の正体です。 タイムチャートを見れば、「あ、ここでボタンを離しているのに、機械は動いたままなんだな」と一目で分かります。

どうやって止めるの?

走り続けたリレー出力を止めるには、電気の通り道をどこかで断ち切る必要があります。ここで「停止ボタン(b接点)」の出番です。

  • 停止ボタンを押した瞬間
    • タイムチャート上で、伸び続けていたリレー出力の線が「ストン」と落ちてOFFになります。

まとめ:図面とチャートを行き来しよう

  • a接点: つなぐ、働かせる接点。
  • b接点: 切る、止める接点。非常停止は絶対にこれ!
  • 強制開離: 接点が溶けても無理やり引き剥がす、非常停止の必須機能。
  • 自己保持: 一瞬の入力を、永続的な出力に変える魔法。
  • タイムチャート: 「時間の流れ」を可視化する道具。

「安全」を守るための接点選定と、「動き」を理解するためのタイムチャート。この2つがあれば、複雑な図面も怖くありません。

次回はいよいよこのリレー回路をプログラム化した、現代制御の主役「PLC(ラダー図)」の世界へ踏み込みます。

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