「SCCRが『一番弱い部品』で決まることはわかった。でも、実際の図面を見て、どうやって計算すればいいの?」
以前の記事では、SCCRの基礎概念と「トランス」を使った裏技について解説しました。

今回は、より実践的な「制御盤全体のSCCR(短絡電流定格)の計算手順」を解説します。
図面に書くSCCRの値、なんとなく「全部5kAでいいや」と適当に決めていませんか? UL508A規格には、厳格な「決定ルール(Supplement SB4)」が存在します。これを知らずに適当な値を銘板に書くと、虚偽記載で重大なコンプライアンス違反になりかねません。
本記事では、実務9年の設計者が、UL508Aに準拠した「正しいSCCRの導き出し方」を4つのステップで分かりやすく解説します。
結論から言うと、計算自体は「一番小さい値(最小値)を探す」だけの単純作業です。
しかし、ただ低い値を拾うだけでは二流の設計です。 プロは、カタログ値が低くても「メーカー認定の組み合わせ(コンビネーション)」を駆使して、合法的に「50kA」として計上するテクニックを使います。 この記事では、そんな「値の読み替え術」を含めた、実務的な4ステップ計算手順を解説します。
全体像:UL508Aが定める「4つのステップ」
制御盤のSCCR決定手順は、UL508A Supplement SB(セクション4)で明確に定義されています。難しそうに見えますが、やることは以下の4つと非常にシンプルです。
- 【Step 1】 個々の部品のSCCRを調べる(SB4.2)
使用している動力回路の部品一つひとつの戦闘力を確認します。 - 【Step 2】 限流要素で補正する(SB4.3)
トランスや限流ヒューズなど、「電流を抑えるアイテム」がある場合、値をアップグレードします。 - 【Step 3】 盤全体のSCCRを決定する(SB4.4)
最終的に一番低い値を盤の定格とします。 - 【Step 4】 盤の銘板にSCCRを記載する(SB5.1)
計算して終わりではありません。最終的な値を盤の銘板に打刻します。
それでは、一つずつ具体的に見ていきましょう。
【Step 1】個々の部品のSCCRを調べる
まずは、動力回路(モーターなどを動かす主回路)に使っている部品のSCCRをリストアップします。 確認方法は以下の3通りがあります。
1. 機器の銘板やカタログを見る
一番確実な方法です。メーカーのカタログやデータシートに「Short Circuit Rating: 50kA」や「SCCR: 100kA」といった記載があれば、その値をそのまま採用します。
2. UL508A Table SB4.1(みなし定格)を使う
もし、カタログにSCCRの記載がなかったらどうすれば良いでしょうか? ここで登場するのが、前回の記事でも紹介した恐怖の「Table SB4.1(みなし短絡電流定格)」です。
UL規格では、SCCR表示がない部品は、自動的に以下の低い値であると「みなされ」てしまいます。
- 端子台 / バスバー:10kA
- ブレーカー / スイッチ:5kA
- マグネット / サーマル:5kA
※これは50HP(約37kW)以下のモーター用の場合です。51〜200HPの巨大なコンタクタの場合は物理的に頑丈なため「10kA」とみなされますが、一般的なFA機器ではほぼ「5kA」に該当します。 - 補助プロテクタ(CPなど):0.2kA
※制御盤内で多用するCP(サーキットプロテクタ:UL1077)等が該当します。「わずか200A(0.2kA)」という絶望的な数値になるため、自己申告表示のないCPを使うと盤全体が0.2kAで即アウトになる、実務上の最大トラップです! - コンセント:一般品は10kA
※漏電保護付きの「GFCIコンセント」は、内部構造が弱いため2kAと極端に低く設定されています。盤内コンセントの選定時は要注意です!
「カタログに書いてないから分からない」は通用しません。「書いてない=5kA(部品によっては2kA)で確定」という厳しいルールが課せられるため、適当な部品選びが盤全体の首を絞めることになります。
3. メーカー認定の「コンビネーション」を使う

モーター回路では、ブレーカーとマグネットをセットで使うことが多いですよね。 この時、単体ではSCCRが低くても、「三菱のブレーカー型番〇〇と、マグネット型番△△の組み合わせなら50kAまでOK」というメーカー認定(Type Fなど)を受けている場合があります。
これを使えば、単体のSCCRが低くても、セットで高SCCRとして扱うことができます。ULのWebサイトなどで認定された組み合わせを確認可能です。
【Step 2】限流要素ごとに補正する
次に、回路の中に「電流を抑えるアイテム(限流要素)」がないか確認します。これがあれば、Step 1で調べた低い値を、高い値に書き換える(補正する)ことができます(SB4.3)。
1. 絶縁トランスによる補正(SB4.3.1)
これが前回の記事で紹介した「最強の時短テクニック」です。

特定の条件を満たす絶縁トランスを使えば、二次側の部品のSCCRが低くても、一次側の保護装置(ブレーカー)のSCCR値を採用できます。
- 条件a:10kVA以下のトランスで、二次側部品のSCCRが5kA以上の場合。
- 条件b:5kVA以下のトランス(120V以下)で、二次側部品のSCCRが2kA以上の場合。
例: 一次側ブレーカー(30kA) → トランス(10kVA) → 二次側マグネット(5kA)
結果: トランスの補正により、この回路のSCCRは30kAになります(5kAが無視できる!)。
※注:本記事で紹介したのは、現場で最も多用される「簡易テーブル方式」です。より大容量・複雑な盤ではトランスのインピーダンス(%Z)を用いた計算が必要になりますが、まずはこの基本ルールを押さえましょう。
2. 限流ヒューズ・ブレーカーによる補正(SB4.3.2 / 4.3.3)
「トランスを置くスペースがない!」 「どうしてもトランスなしで50kAを取りたい!」
そんな時のための上級テクニックがこれです。 フィーダ回路(大元)に「限流ヒューズ」や「限流ブレーカー」を入れることで、下流に流れる短絡電流のピーク(Ip)をカットし、下流の弱い部品を守る手法です(限流補正:Current-Limiting Method)
ただし、これを行うには以下のハードルがあります。
- メーカーの技術資料から「ピーク通過電流特性曲線(Ipカーブ)」を読み解く必要がある。
- ヒューズとブレーカーの「組み合わせ認定」を確認する必要がある。
これは少し難易度が高いため、まずは「一番簡単なトランス補正」をマスターしましょう。 「限流テクニック」を使った計算方法は、また別の【上級編】記事で、グラフの読み方からじっくり解説します。
【Step 3】盤全体のSCCRを決定する
最後に、全ての回路の値を比較して、盤全体の定格を決めます(SB4.4)。 ルールはこれだけです 。
「各分岐回路のSCCRの中で、最小のものが盤全体のSCCRになる」
計算サンプルの例:よくある「インバータ盤」の悲劇

実際に、現場でよくある構成の制御盤で計算してみましょう。 メインと主軸(インバータ)は完璧に選定したつもりでも、意外なところに落とし穴があります。
- フィーダ回路(大元)
- メインブレーカー(MCCB):50kA(高遮断型)
- 分岐回路 1(主軸モーター)
- インバータ(メーカー指定ヒューズ付):100kA
- (ここは完璧です)
- 分岐回路 2(冷却ポンプ)
- 分岐ブレーカー:18kA
- 汎用マグネットスイッチ:5kA
- (この回路の最小値は5kA)
さあ、この盤のSCCRは何kAでしょうか?
答えは、全ての要素(50kA, 100kA, 18kA, 5kA)の中で一番小さい「5kA」です。
いくらメインに50kAのブレーカーを使い、主軸に100kAの高級インバータを使っていても、脇役のポンプ用マグネットが汎用品(5kA)である限り、盤全体は5kAの評価になります。 「100kAの鎖」の中に「5kAの輪」が混ざっていれば、その鎖は5kAの力で切れてしまうのと同じです。
【Step 4】盤の銘板にSCCRを記載する(SB5.1)
Step 3で盤全体のSCCR(最小値)が確定したら、最後の仕上げです。 その値を制御盤の銘板(ネームプレート)に「Short-Circuit Current Rating: 5kA rms symmetrical, 480V maximum」のように明記して貼り付けます。
UL508Aでは、この「銘板への記載」をもって初めて規格への準拠が完了すると定められています。どれだけ完璧な計算をしても、銘板に書き忘れたら検査でアウトになるため、図面の銘板指示まで確実に行いましょう。
まとめ:5kAの壁を超えるには?
SCCRの計算は、以下の4ステップで行います。
- 部品単体の値を調べる(なければTable SB4.1で5kA/10kA)
- トランス等で補正する(ここが腕の見せ所)
- 最小値を盤の定格とする
- 決定した値を盤の銘板に打刻する
もし計算結果が「5kA」になってしまい、顧客の要求(例えば30kA)を満たせない場合はどうすればいいでしょうか? 方法は2つしかありません。
- 全ての5kA部品を、高SCCR品(またはメーカー認定コンビネーション)に置き換える。
- 絶縁トランスを入れて、Step 2の補正テクニックを使う。
すべての部品をハイグレード品にするコストと手間を考えると、やはり「トランス」の活用が現実的な解になることが多いです。 次回の記事では、このトランスを使った補正計算の詳細と、実際にどのトランスを選べばいいのかを解説した「トランス選定の決定版」記事へと続きます。
