「プラスですか?」と聞く前に
配属されたばかりの現場で、先輩に質問しようとして言葉に詰まったことはありませんか?
「先輩、この赤い線……プラスですか?」 「(いや待てよ、もしこれが家のコンセントと同じ交流だったら、プラスなんてないぞ……?)」
その「戸惑い」こそが、電気設計者としての第一歩です。 もし何も考えずにテスターも当てず触っていたら、重大な事故に繋がっていたかもしれません。
制御盤の中には、大きく分けて「2種類の電気」が流れています。 この2つは、人間でいう「筋肉」と「神経」のような関係です。絶対に混ぜてはいけません。
実務経験9年の設計者として断言しますが、「ACは筋肉、DCは脳みそ」と覚えてください。 この記事では、新人が最初に知っておくべきAC(交流)とDC(直流)の決定的な違いと、現場で必ず出くわす「三相200V」や「COM」といった記号の意味を解説します。
これさえ読めば、明日から「どっちがプラス?」という質問が、いかに危険な言葉だったかが理解できるようになります。
ただし、現場では「記号(銘板)すら間違っている」ことがあります。 記事の最後には、ACかDCか分からない時の「プロの生存術(安全な測り方)」も伝授します。
なぜ制御盤には「2種類の電気」があるのか?
そもそも、なぜ工場に来ている電気(AC)をそのまま使わず、わざわざDCなんてものを作るのでしょうか? それは、役割が違うからです。

① AC(交流):暴れる「筋肉」
- 電圧: AC200V(三相)、AC100V(単相)など
- 役割: モーター、ファン、ポンプを回す「パワー」の源。
- 特徴: 力は強いが、電圧が常に変動(波打っている)していて、制御(コントロール)には向きません。
- イメージ: 「水車を回すための、激流の川」
② DC(直流):冷静な「脳みそ」
- 電圧: DC24V(制御盤ではこれが標準)
- 役割: PLC(脳)、センサー(目)、リレー(神経)を動かす「信号」の源。
- 特徴: パワーはないが、電圧が一定で安定しているため、精密機器を壊さずに動かせます。
- イメージ: 「精密機器を洗うための、一定圧の水道管」
鉄則: AC(筋肉)の配線を、DC(脳)の端子に繋いだらどうなるか? 一瞬で「爆発(ボンッ!)」して、数万円~数十万円の機器がゴミになります。だから区別が必要なのです。
危険な筋肉「AC200V / 100V」の正体
現場で「強電(きょうでん)」と呼ばれるエリアです。 家庭用コンセントとは違い、工場の電気は少し複雑です。
① まずは「三相200V(動力)」が入ってくる
日本の工場の壁から出ている太いケーブル。これは大抵「三相200V」です。 モーターを力強く回すために、3本の線(R/S/T または L1/L2/L3)で電気を送っています。
- RST(3本): どれか1本でも触れれば、身体を通して電気が流れるリスクがあります。「3本とも危険」という認識でいてください。
② トランスで「単相100V」を作る
しかし、盤内にはサービスコンセント(PCや測定器用)や、盤内照明など「100V」で動かしたい機器もあります。 そこで、「トランス(変圧器)」という装置を使って、200Vを100Vに変換します。 ここで初めて、皆さんがよく知る「コンセントの電気(単相100V)」が生まれます。
- L(ライブ): 電気が来ている危険な線。
- N(ニュートラル): 接地(アース)されている側の線。
新人の勘違い: AC(交流)は電気が行ったり来たりしているので、「プラス・マイナス」という概念がありません。 あるのは「電圧側(L)」か「接地側(N)」かだけです。「どっちがプラス?」と聞くのが間違いなのは、このためです。※トランスの二次側は接地されていない場合もあるので、感電リスクは変わりません。
安全な頭脳「DC24V」の正体
現場で「弱電(じゃくでん)」や「制御電源」と呼ばれるエリアです。 「スイッチング電源(パワーサプライ)」という装置で、ACをDCに変換して作ります。 ここで初めて、皆さんがよく知る「プラス(+)」「マイナス(-)」が登場します。
P(Positive:正)と N(Negative:負)
図面では「P24 / N24」や「+24V / 0V」と書かれます。
- P(プラス): 電圧がかかっている側。
- N(マイナス): 基準となる0V側。
「赤=プラス」という「学生気分の常識」を捨てろ!
ここが一番の落とし穴です。 皆さんは学校の理科実験や、車のバッテリーいじりで「赤=プラス」「黒=マイナス」と刷り込まれていませんか?
その常識をそのまま制御盤に持ち込むと非常に危険です。 現在の主流である国際規格(IEC)や多くの現場ルールでは、以下のように決まっています。
- 赤色 = AC制御回路(交流100Vなど)
- 青色 = DC制御回路(直流24V)
つまり、「お、赤い線だ。プラス(24V)だな」と思ってうっかり触ると、実はAC100Vの感電ビリビリだった……という事故が実際に起きているのです。
この「色のルール」については、非常に奥が深く危険なため、以下の記事で詳しく解説しています。必ずセットで読んでください。

新人を惑わせる「COM(コモン)」の正体

最後に、新人が必ず混乱する「COM」という記号について解説します。 端子台を見ると、やたらと「COM」と書かれた端子がありますよね。
COM(Common)=「乗り合いバス」
コモンとは、「共通」という意味です。 一本一本線を引くのが面倒なので、「みんなで使う共通の線」をまとめてCOMと呼んでいます。
ここで注意すべきは、「ACのコモン」と「DCのコモン」は全く別物だということです。
- ACのコモン: N(ニュートラル)を束ねたもの。
- DCのコモン: ここが厄介です。「プラス」の場合もあれば「マイナス」の場合もあります。
DCのコモンは「カメレオン」だと思え
DC回路のCOM端子に、「プラス」を繋ぐか「マイナス」を繋ぐか。 これは、使用するセンサーやPLCが「NPN(日本仕様)」か「PNP(海外仕様)」かによって逆転します。
「COM=マイナスだろう」と適当に繋ぐと、ショートして機器が壊れます。 COMは、相手によって色を変えるカメレオンです。 必ず図面を見て、「このCOMはP(プラス)なのか? N(マイナス)なのか?」を確認する癖をつけてください。
※NPNとPNPの詳しい違いについては、以下の記事で図解しています。

【実戦】ACかDCか分からない時の確かめ方
ここまで記号の話をしてきましたが、現場ではもっと恐ろしいことが起きます。 それは、「記号(銘板)が間違っている」というパターンです。
「ACと書いてあるのにDCだった」あるいはその逆。 人間が作っている以上、ミスは必ずあります。だからこそ、最後は自分の手(テスター)で確認する必要があります。
しかし、「そもそもACかDCか分からない線」はどうやって測ればいいのでしょうか? 設定を間違えると、テスターのヒューズが飛んでしまいます。
手順①:線をたどって「親」を見つける
いきなり端子に当たるのはギャンブルです。 まずはその線を目で追いかけてください。
- トランスから来ている線なら → ACです。
- パワーサプライから来ている線なら → DCです。
これが最も確実で安全な方法です。
手順②:テスターは「ACレンジ」から当たる

どうしても線をたどれない場合(ダクトの中に入っているなど)は、テスターを使います。 この時、必ず「ACレンジ(交流)」に設定して測ってください。
- 理由: もしAC100Vの線に、DCレンジで当ててしまうと、テスターに過大な負荷がかかり危険だからです。
- 判定法:
- ACレンジで100Vや200Vと出た → AC確定
- ACレンジで0V付近になった → DCの可能性が高い(レンジをDCに切り替えて再測定)
「迷ったら、より危険な方(AC)だと思って行動する」。これが命を守る鉄則です。
まとめ:色は疑え、文字(記号)を信じろ、最後は測れ
電気には2種類あり、それぞれ「呼び名」が違います。
- AC(筋肉): R/S/T(三相)、L/N(単相)
- DC(脳みそ): P(プラス)、N(マイナス)
明日から現場で配線を見る時は、線の色だけで判断せず、必ず端子台の「記号(RST/LN/+-)」を確認してください。 そして、その記号すらも疑わしい時は、「ACレンジ」でテスターを当ててください。
「自分の目で見て、自分の手で測ったこと以外は信じない」。 その慎重ささえあれば、あなたは現場で立派にやっていけます。
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