【緩む vs 緩まない】ねじ式端子 vs スプリング式端子:プロが選ぶ接続方法

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「制御盤の点検に行ったら、まず全ての端子を増し締めしろ」

新人時代、先輩からそう教わった方は多いのではないでしょうか。 何百個もある端子台を一つひとつドライバーで回していく作業は、地味で時間がかかり、そして終わりのない戦いです。

「なぜ、ねじは勝手に緩むのか?」 「スプリング式(プッシュイン)なら、本当にメンテ不要なのか?」

今回は、電気接続の永遠のテーマである「ねじ式 vs スプリング式」について、物理的なメカニズムと、現場が直面する「コストとスペース」の問題も含めて徹底解説します。

目次

1. 王道!「ねじ式(丸型圧着端子)」が信頼される本当の理由

スプリング式が増えてきた今でも、大型のMCCB(配線用遮断器)やマグネットスイッチの主回路には、依然として「ねじ締め」が多く採用されています。これには明確な理由があります。

それは、圧倒的な「接触圧(Contact Pressure)」です。

ボルトやねじを使って工具(レンチ・ドライバー)で締め付ける力は、バネの力よりも遥かに強力です。

銅線と端子金具を強烈な力で押し付け合うことで、接触抵抗を極限まで下げることができます。

  • 大電流に強い: 抵抗が低いので、何百アンペア流しても発熱しにくい。
  • 機械的強度: 太くて重いケーブルでも、ガッチリと物理的に固定できる。

つまり、「大電流を流す動力回路」においては、物理学的にねじ式が非常に有利なのです。

🚨トレンドの変化:MCCBもスプリングの時代へ?

ただし、「MCCB=ねじ」という常識も変わりつつあります。

近年では、30AF〜100AFクラスの中小容量MCCBを中心に、スプリングクランプ式(ねじレス)の製品が各メーカーから登場しています。

「定期点検の増し締めをなくしたい」というユーザーの声に応え、主回路でもスプリング式を採用する動きは確実に広がっています。


2. なぜねじは緩むのか? メカニズムを科学する

ねじ式の最大の弱点は、「緩む」ことです。

「振動があるからでしょ?」と思われがちですが、実は振動がなくても緩みます。犯人は「金属の性質」そのものです。

① クリープ現象(へたり)と初期緩み

銅は金属の中では比較的柔らかい素材です。ねじで強く締め付けると、時間はかかりますが、銅線が圧力に負けて少しずつ変形(ペチャンコになる)していきます。これをクリープ現象と呼びます。

銅線が薄くなれば、当然ねじとの間に隙間ができ、接触圧(締め付け力)が低下します。

② 熱膨張と収縮(ヒートサイクル)

これが最も厄介な敵です。

電流が流れると電線は発熱して膨張し、電流が止まると冷えて収縮します。

膨張したとき、ねじは逃げ場がないため電線をさらに押し潰します。その状態で冷えて収縮すると……そこには「隙間」が生まれます。

これを繰り返すことで、誰も触っていないのにねじが緩んでいくのです。

【図解:ねじが緩むメカニズム(ヒートサイクル)】

【図解:ねじが緩むメカニズム(ヒートサイクル)】

「加熱(膨張)」と「冷却(収縮)」を繰り返すことで、徐々に隙間(Gap)が生まれ、接触圧が失われていく様子です。これが定期的な「増し締め」が必要な物理的理由です。


3. 革命!「スプリング式(プッシュイン)」が選ばれる理由

この「緩み問題」を構造的に解決したのが、スプリングクランプ式(バネ式)やプッシュイン式です。

メリット①:バネが「追従」するから緩まない

スプリング式の最大の特徴は、金属バネの弾性(元に戻ろうとする力)を利用して電線を押さえ続ける点です。

もし、電線がクリープ現象で変形したり、振動で動いたり、温度変化で収縮したりしても、バネがその分だけ伸びて追従します。

常に一定の力で押し続けるため、原理的に「緩む」という現象が起きません

【図解:スプリング式の追従性】

  • 構造: 挿入された電線が、特殊な形状のバネによって導電バーに押し付けられる構造です。
  • 常に一定の接触圧: バネの弾性力により、常に一定の力で電線が保持されます。
  • バネが追従: 右下の拡大図のように、もし電線が変形したり収縮したりしても、バネがその動きに合わせて変形し、接触を維持します。これにより「隙間」が生まれず、メンテナンスフリーを実現しています。

メリット②:圧倒的な省スペース化

ねじ式からスプリング式に変えるもう一つの大きな理由、それは「盤の小型化」です。

ねじ式端子台は、ねじの頭や絶縁壁が必要なため、どうしても一定の幅が必要です。

一方、スプリング式は構造がシンプルなため、幅3.5mmや5mmといった極薄サイズが実現可能です。

  • 例: 100本の線を接続する場合
    • 一般的なねじ端子(8mm幅)× 100本 = 800mm
    • スプリング端子(5mm幅)× 100本 = 500mm
    • 差分:300mm(30cm)ものスペース削減!

端子台の幅が減れば、DINレールも短くなり、制御盤自体のサイズをワンサイズ小さくできる可能性があります。これは部材費以上のコストダウン効果を生みます。


4. 【徹底比較】「コストの壁」と使い分けの判断基準

「じゃあ全部スプリング式にすればいいの?」というと、現場には「コスト」という大きな壁があります。

💰 現場のリアル:部材費 vs 工数費

単純な部材単価(カタログ価格)で見ると、長年の実績があり広く普及している「ねじ式端子台」の方が安いケースがまだ多くあります。

中継用の端子台などで、「とにかく安く作ってくれ」と言われた場合、やむを得ずねじ式が選ばれるのはこのためです。

しかし、プロは「トータルコスト(設置完了までの費用)」で見ます。

比較項目ねじ式(丸型端子)スプリング式(プッシュイン)
部材コスト安い(コストダウンに有利)やや高い
施工コスト(時間)高い(圧着・ねじ締め・マーク)圧倒的に安い(挿すだけ)
設置スペース大きい(幅をとる)極めて小さい(幅3.5〜5mm)
メンテナンス定期的増し締めが必須メンテナンスフリー
信頼性作業者の腕(トルク管理)に依存誰がやっても均一

👉 設計者の判断ポイント:

  • 「人件費が高い」場合: 配線作業時間を1/2以下に短縮できるスプリング式の方が、最終的な黒字は大きくなります。
  • 「盤を小さくしたい」場合: スプリング式の採用で端子台スペースを圧縮し、制御盤の板金サイズ自体を小さくしてコストを下げるテクニックが有効です。
  • 「輸出・メンテナンス困難」な場合: 部材費が高くても、現地でのトラブル対応(海外出張費など)を防げるスプリング式が、リスクヘッジとして安くなります。

プロの使い分けガイド

  1. 大容量動力(MCCB周辺):基本は信頼と実績の「ねじ式(圧着)」。ただし、50A以下の盤やメンテナンス重視の現場では、スプリング式MCCBの採用も積極的に検討する。
  2. 制御・中継回路:「スプリング式」を第一候補にする。工数削減、品質安定、そして省スペース化のメリットが、部材費の差額を上回ることが多いため。
  3. とにかくイニシャルコスト重視の案件:部材費を極限まで削る必要がある場合は**「ねじ式」**を選択するが、その後の増し締め工数やスペース増について考慮が必要。

5. まとめ

  • ねじ式は、強力な力でねじ伏せる「剛の接続」。部材費が安く、大電流に強い実績を持つが、スペースとメンテナンスの手間を取る。
  • スプリング式は、変化を受け流して追従する「柔の接続」。配線工数を減らし、盤を劇的に小型化する現代のスタンダード。

「昔からこれを使っているから」という理由だけで端子台を選んでいませんか?

「部材費」だけでなく「作業時間」「設置スペース」そして「将来のメンテ費」まで天秤にかけて選ぶのが、これからの電気設計者のスタンダードです。

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