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【基礎のキソ】サーキットブレーカー(MCCB/MCB)の役割と違い:ただのスイッチではありません

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「ブレーカーなんて、電流が流れたら切れればどれも同じでしょ?」

もしそう思って、適当に安い方のブレーカーを選定しようとしているなら、少し待ってください。 同じ「20A」のブレーカーでも、MCCB(配線用遮断器)とMCB(ミニチュアサーキットブレーカー)では、その設計思想も、得意とする守備範囲も異なります。

今回は、電気設計の第一歩として、カタログのスペック表だけでは見えにくい「両者の決定的な違い」と「プロの使い分け基準」を徹底解説します。

目次

1.そもそもブレーカーは何から守っているのか?

使い分けの話の前に、ブレーカーが戦っている「2つの敵」をおさらいしましょう。

  1. 過負荷(Overload)
    • 「定格20Aの回路に、30A流れ続けている」状態。
    • 電線がじわじわ熱くなり、被覆が溶けて焼損するのを防ぎます。
    • [じっくり守る] 熱動式(バイメタル)が主に担当。
  2. 短絡(Short Circuit):
    • 「電線がショートして、一瞬で数千アンペア流れた」状態。
    • 爆発や火災が起きる前に、瞬時に電気を止めます。
    • [一瞬で守る] 電磁式(コイル)が担当。

MCCBもMCBもこの基本機能は同じです。では、何が違うのでしょうか?

2. MCCB(配線用遮断器):設備の「頑丈な門番」

日本では一般的に「ブレーカー」といえばこれを指します。ゴツゴツした筐体が特徴です。

MCCBが選ばれる理由

  • 圧倒的な遮断容量(IR):
    • 筐体が大きく頑丈なため、短絡時の巨大なエネルギー(アーク)を抑え込む力が強いです。工場の主電源など、短絡電流が大きい場所には必須です。
  • 多様なオプション(付属品):
    • 警報接点(AL)、補助接点(AX)、電圧引き外し装置(SHT)など、内部にアクセサリーを組み込みやすく、制御回路との連携が得意です。
  • 太い電線への対応と接続方法:
    • 端子台は、大電流に対応できるねじ締め(ボルト締め)構造が現在も主流です。丸型圧着端子を使うことで、太い動力線(主回路)の接続の確実性電気的耐久性を確保します。
    • 小型モデルでは、メンテナンスの手間を軽減し、振動による緩みを自動吸収するスプリングクランプ式やプッシュイン式の端子構造も登場していますが、主幹回路の主流は依然としてねじ締めです。
  • 設置方法:
    • 設置は盤へのボルト固定が基本ですが、最近は作業性を重視してDINレールに取り付け可能な小型モデル(例:30AF〜100AFクラス)や、取付アダプタも普及しており、柔軟な設置が可能です。

👉 設計者の視点: 「装置の一次側(メインブレーカー)や、大容量モーターの動力回路には、迷わずMCCBを採用する。」

3.MCB(ミニチュアサーキットブレーカー):盤内の「精密な司令塔」

海外(特に欧州)の装置でよく見かける、小型のブレーカーです。DINレールにパチッとハマるのが特徴です。

MCBが選ばれる理由

  • 省スペース(モジュール化):
    • 幅17.5mmなどの規格サイズで統一されており、DINレールに並べることで盤内を劇的に小型化できます。
  • 用途に合わせた「トリップ特性(カーブ)」:
    • MCBは、何倍の電流で瞬時遮断するかという「感度」を選べます。
    • B特性: 敏感。ヒーターや長距離ケーブル保護向け(定格電流の3〜5倍で遮断)。
    • C特性: 標準。一般的な制御回路、照明向け(定格電流の5〜10倍で遮断)。
    • D特性: 鈍感。モーターやトランスなど、突入電流が大きい負荷向け(定格電流の10〜20倍で遮断)。

👉 設計者の視点: 「制御電源やセンサー、ソレノイドバルブなどの二次側(分岐回路)には、省スペースで特性が選べるMCBを並べる。」

補足:さらに敏感なA特性とは?

一般の制御盤ではあまり使いませんが、MCBには「A特性」と呼ばれるさらに感度の高い特性も存在します。A特性は定格電流の2倍〜3倍という極めて低い電流で瞬時に遮断するため、半導体や高感度な電子回路など、わずかな過電流も許容できない特殊な回路の保護に使われます。ただし、ノイズや突入電流で誤動作しやすいため、設計者は注意が必要です。

4.【比較表】どっちを使う?迷った時の判断基準

特に接続方法の違いは、配線工数や信頼性に直結します。MCCBのボルト接続が太線に強い一方、MCBの端子構造は細線接続を素早く確実にこなします。

比較項目MCCB (配線用遮断器)MCB (ミニチュア)
主な用途装置のメイン電源、大容量動力制御回路、分岐回路、PLC電源
遮断容量 (IR)大 (10kA〜100kA超)中〜小 (1.5kA〜15kA程度)
設置方法ボルト固定が基本(小型はDINレール対応も多い)DINレール取付が標準
特性の選択汎用的(モータ用などはある)B/C/D特性を用途別に選択可
物理的強度非常に高い(過酷環境に強い)プラスチックで軽量(衝撃に弱い)

5.設計でやってはいけない「選定ミス」

初心者がやりがちな失敗例を紹介します。

〇失敗例1:突入電流でMCBが落ちる!

「MCBの方が小さいから」という理由で、モーターやトランスの保護に、一般的な「C特性」のMCBを使ってしまった。

👉 結果: 電源を入れた瞬間(突入電流)に、過負荷ではないのにMCBが「バン!」とトリップしてしまい、装置が起動できない。

👉 正解: 突入電流に耐える**「D特性」のMCB**を選ぶか、MCCBのモーター用を選定する。

失敗例2:メインブレーカーにMCBを使って爆発!

「20Aしか使わないから」と、工場の受電点に直結する装置のメインにMCBを使用した。

👉 結果: 万が一の短絡事故の際、工場の強大な短絡電流にMCBの遮断能力(IR)が耐えられず、MCB本体が破損・発火。

👉 正解: 電源入力部には、高遮断容量を持つMCCBを使用し、安全を確保する。

6.まとめ

MCCBは、装置の「入り口」を守る頑丈な門番。太い線、大きな短絡電流、タフな環境にはこれ一択です。

MCBは、盤の中を整理する精密な司令塔。負荷の種類に合わせて「特性(カーブ)」を使い分け、盤を小さく美しくまとめます。

この2つの違いを理解するだけで、図面を書くときの説得力が段違いに変わります。

さて、両者の違いがわかったところで、次はいよいよ「具体的な数字」の決め方です。 「20Aでいいかな?30Aかな?」と悩まないために、次回は「これだけは外せない!ブレーカー容量と『遮断容量(IR)』の決定手順」について、解説します。

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