【SSRの罠】「無音で長寿命」の裏にある「爆熱」と「暴走」。メカニカルリレーとの決定的な違い

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「カチッ、カチッ」という音がしない。

接点が摩耗しないから、何千万回動かしても壊れない。

これだけ聞くと、SSR(ソリッドステートリレー)は、従来のメカニカルリレー(有接点リレー)の完全な上位互換のように思えます。

「じゃあ、全部SSRにすればメンテナンスフリーじゃん!」

そう思って安易に置き換えると、制御盤内の温度上昇や制御不能(暴走)といった重大なトラブルを招きます。

SSRは「無音の仕事人」ですが、扱いを間違えると「静かなるトラブルメーカー」になります。

今回は、電気設計者が知っておくべき「SSRの3つの弱点」と、絶対にやるべき「3つの守り」について解説します。


目次

1. 【発熱】盤の中に「ハンダごて」が入っていると思え

なぜSSRはあんなに熱を持つのでしょうか?

それは、電気を通す仕組みがメカニカルリレーとは根本的に違うからです。

メカニカルリレー = 「跳ね橋」

金属の接点が物理的にくっついたり離れたりします。

  • 導通時: 金属同士がガッチリ接触するので、抵抗はほぼゼロ(0Ω)。
  • 特徴: 電気が通る時、邪魔するものがないので発熱しません

SSR(半導体) = 「通行料を取る関所」

物理的な接点がなく、シリコンなどの半導体の中を無理やり電気が通ります。

  • 導通時: 通過する際、必ず電圧降下(約1.6V)が発生します。
  • 特徴: 電気を通す代わりに、通行料(電圧ロス)としてエネルギーを奪い、それをに変えて放出します。

驚愕の計算式

「たかが1.6Vのロスでしょ?」と侮ってはいけません。

発熱量(W) = 通行料(1.6V) × 流れる電流(A)

例えば、ヒーター制御で 20A の電流を流すとします。

メカニカルリレー:

SSR:

32Wの発熱といったら、家庭用の「ハンダごて」の先端と同じくらいの熱さです。

もし、放熱器(ヒートシンク)を付けずにSSR単体で20A流したら、数分でプラスチックの筐体が溶け出し、最悪の場合は発火します。

SSRを使うときは、本体よりも巨大な「放熱器」がセットで必須なのはこのためです。

「SSRを複数使用する場合、個別の放熱だけでなく、盤全体の温度上昇も無視できません。せっかく高寿命なSSRを選んでも、盤内の熱で他の機器が壊れては本末転倒です。盤内の温度を適切に保つための『ファンの選定方法』については、以下の記事で計算式付きで解説しています。

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2. 【故障モード】壊れるときは「道連れ」にする

熱以上に怖いのが、寿命を迎えた時や故障した時の「壊れ方(故障モード)」です。

ここには、構造的な決定的な違いがあります。

メカニカルリレー:「バネ」という味方がいる

メカニカルリレーの内部には、接点を強制的に引き剥がすための「復帰バネ(スプリング)」が入っています。

万が一、接点が荒れて少し固着しかけても、バネの力で「物理的に引き剥がそう」とする力が常に働いています。

そのため、よほどの過電流(突入電流など)で金属同士がガッチリ溶接されない限り、基本的にはOFFに戻ろうとします。

  • 基本故障モード:開放(OFF) = 電気が止まる(安全側に倒れる)。

SSR:「溶けたらただの電線」

一方、SSR(半導体)にはバネがありません。シリコンの塊です。

内部の素子が過電流や熱で破壊(絶縁破壊)されると、中身がドロドロに溶けて一体化してしまいます。一度こうなると、復帰する力はゼロです。

つまり、SSRが壊れるときは「ほぼ100%ショート(ON)状態」になります。

  • 基本故障モード:短絡(ON) = 電気が流れっぱなしになる(危険!)。

現場で起きる恐怖のシナリオ

ヒーターをSSRで温度制御している装置で、SSRが「ON故障」したとします。

コントローラーが「温度が上がりすぎだ!OFFしろ!」と指令を出しても、SSRは死んでいる(ショートしている)ので無視して電気を流し続けます。

結果、ヒーターは加熱され続け、装置が火事になるまで温度が上がり続けます。

【鉄則】安全回路(インターロック)を組め

この暴走を防ぐため、SSRの上流には必ず「電磁接触器(マグネットスイッチ)」を設置し、異常温度を検知したら大元から電気を遮断できる回路を組まなければなりません。

▼ 正しい安全回路の組み方

  1. 監視役(処刑人)を用意する: 独立した「過昇防止器」などを用意する。
  2. コイルを切る: 過昇防止器のB接点(常時閉)を、マグネットの操作コイル電源に割り込ませる。
  3. 動作: 異常温度検知 → B接点が開く → マグネットがOFF → SSRごと電源遮断。

SSR単独でヒーターを制御するのは、ブレーキの壊れた車に乗るようなものです。必ず「非常ブレーキ(マグネット)」を用意してください。

実践:安全回路の「具体的な繋ぎ方」

「安全回路(インターロック)を組め」と言われても、具体的にどう配線すればいいのでしょうか? 間違いやすいポイントですが、ヒーターの電源(太い線)を直接イジるわけではありません。マグネットを動かすための「指令部(操作コイル)」の配線を加工します。

キーワードは「コイルの直列(シリーズ)」

マグネットスイッチには、「操作コイル電源(A1、A2端子)という場所があります。ここに電気が流れると「ガチャン!」とマグネットがONします。 この「A1端子へ向かう電線」の途中に、過昇防止器(サーモスタット)のスイッチを割り込ませます。

▼ 具体的な配線の流れ(イメージ)

電源(+) ──── [ 過昇防止器 (B接点) ] ──── [ マグネットのコイル (A1) ]

これだけです。 こうすることで、電気の通り道が一本道になります。

  1. 通常時(安全): 過昇防止器は「B接点(常時閉)」なので、つながっています。電気が通るので、マグネットはONできます。
  2. 異常時(加熱): 温度が上がると、過昇防止器が「カチッ」と開きます(切れます)。 すると、一本道が途切れるので、マグネットへの電気が物理的に遮断されます。SSRが暴走していようが、PLCが指令を出していようが、強制的に電源が落ちます。

なぜ「B接点」じゃないとダメなのか?

「温度が上がったらONする(A接点)」で回路を組んではいけません。これを「B接点(常時閉)」にするには、プロなりの深い理由があります。

それは、「線が切れたとき(断線)」の安全確保です。

  • もし「A接点」で組んだら: いざ火事になりそうな時に、もしネズミに電線をかじられて断線していたら? 「ONしろ!(危険だ!)」という信号が届かず、機械は燃え続けます。
  • 「B接点」で組めば: 普段から「電気が流れている=安全」という合図を送っています。 もし断線したら? 電気が止まるので、機械も止まります。 つまり、「何かトラブルがあったら、必ず止まる側(安全側)に倒れる」。これをフェイルセーフと呼び、安全設計の基本中の基本となります。

3. 【虚弱体質】打たれ弱いSSRを守る「2つの盾」

SSRは熱や暴走だけでなく、外からの電気的な衝撃に対しても非常にデリケートです。

普通のブレーカーだけでは守りきれないため、専用の保護が必要です。

① 過電流保護:「速断ヒューズ」

「ブレーカーがあるから大丈夫」は大間違いです。

普通のブレーカーが落ちるのにかかる時間は数ミリ秒〜数秒。しかし、半導体であるSSRは、大電流が流れるとマイクロ秒(100万分の1秒)単位で破壊されます。

ブレーカーが「あ、切ろうかな」と考えている間に、SSRはとっくに破損しています。

SSRを守るには、半導体保護専用の「速断ヒューズ」が必要です。

② 過電圧保護:「バリスタ」

モーターをOFFにした瞬間や雷などで、一瞬だけ発生する高電圧(サージ)。

これがSSRの耐圧を超えると、一発で絶縁破壊を起こしてショート故障します。

これを防ぐのが、SSRと並列に入れる「バリスタ」です。サージ電圧を吸収して逃がしてくれます。


コラム:SSRは「ガラス細工」?実は最強の耐久性

ここまで読むと、「SSRって、熱いし、暴走するし、すぐ壊れるし、面倒なやつだな…」と思ったかもしれません。

しかし、現場でSSRが選ばれ続けるには、それだけの理由があります。

それは、「条件さえ守れば、半永久的に使える(メンテナンスフリー)」からです。

「タイヤ」と「窓ガラス」の違い

メカニカルリレーとSSRの寿命は、よくこう例えられます。

  • メカニカルリレーは「タイヤ」:
    • 走れば走るほど溝(接点)が減り、いつか必ずパンクします。どんなに丁寧に扱っても、寿命(摩耗)からは逃げられません。
  • SSRは「窓ガラス」:
    • 置いてあるだけなら、100年経っても透明なままです。摩耗しません。理論上の寿命は半永久です。

現場で「SSRがすぐ壊れた!」という場合、それは寿命ではありません。石(サージ)が飛んできて割られたか、火(熱)で炙られて割れたか。つまり「ガラスが割れるのと同じ突発的な事故」です。

これまで解説した「放熱器」「安全回路」「保護素子」という堅実な装備は、SSRという「最強だけど繊細なガラス」を割らないための防具です。

ここさえクリアすれば、SSRはメカニカルリレーでは不可能な「1秒に数回の超精密制御」を、「何十年もメンテナンスフリー」でこなし続けてくれます。


【Q&A】現場でよくある素朴なギモン

Q1. モーターみたいに「サーマルリレー」は付けなくていいの?

A. 基本的に不要です!(無意味です)

これには2つの理由があります。

  1. 過負荷がない: ヒーターは抵抗負荷なので、モーターのように軸ロックで電流が急増することがありません。
  2. 遅すぎる: もしショート事故が起きた場合、サーマルが熱で反応するよりも早く、半導体のSSRは一瞬で破損してしまいます。

Q2. 高感度のブレーカー(MCB)なら、ヒューズの代わりになる?

A. 残念ながら、SSR本体は守れません。

ブレーカーとSSRでは、勝負する「時間の次元」が違うからです。

  • ブレーカー: 遮断まで数ミリ秒(ms)かかります。
  • SSRの破壊: 大電流が流れると、数マイクロ秒(μs)で溶けます。SSR自体を壊したくないなら「速断ヒューズ」一択です。「SSRは壊れてもいいから、電線が燃えるのだけ防げればいい(コスト優先)」という割り切った設計の場合のみ、ブレーカー単独での使用が許されます。

Q3. ヒーターが切れたらどうするの?(断線検知)

A. 「ヒーター断線検知機能」付きのSSRがおすすめです!

SSRが暴走するのも怖いですが、ヒーターが切れて製品が不良になるのも困ります。

最近は、本体にCT(変流器)を内蔵していて、「電流が流れていない(切れた)!」と信号を出してくれる高機能なSSR(オムロンG3PEシリーズなど)があります。重要なラインではこれを選びましょう。


まとめ

  • 単なるON/OFFなら: 迷わずメカニカルリレー。(安い・熱くない・安全)
  • 精密な温度制御なら: SSR。(寿命・速度)ただし、安全対策コストがかかることを覚悟する。

「無音で長寿命」という甘い言葉だけでなく、その裏にあるリスクを正しく理解して設計するのがプロの仕事です!

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